"湖底の白衣" 第7話
そこには恵美子が誰にも話せなかった苦しみが、丁寧な字で綴られていた。
自分がい、の病に苦しんでいたこと。
を助ける仕事をしていながら、自分自をて直せないことが苦しかったこと。
患者ので笑顔を見せるたび、自分が何かを偽っているようにじていたこと。
そして、自分の決断が周囲をしませることへの謝罪。
本田は読みめながら何度もを止めた。
そこにかれていたのは、突然衝に姿を消した女性の言葉ではなかった。
い迷い続け、何度も助けを求めながら、それでもを見つけられなかったの文章だった。
恵美子は芦ノについても触れていた。
がなく、静かな所。
誰にも迷惑をかけず、自分が消える所として選んだこと。
遺された々が辛い姿を目にしないようにしたいという願い。
それが、彼女が京からくれたへ向かった理由だった。
の最には、伯母や周囲から受けたへの謝がかれていた。
自分を切にしてくれた々を嫌っていたわけではない。
むしろされていることを分かっていた。
だからこそ、自分の苦しみをられたくなかった。
配させたくなかった。
失望させたくなかった。
その結果、誰にも本当の状態を見せることができなくなっていた。
広告
は投函されていなかった。
恵美子は最まで迷っていたのかもしれない。
伯母へ届けるつもりでき、結局本のへ隠した。
本田たちは、これまでに集まった証拠から19731215のを組みて直した。
朝7。
恵美子はいつも通りクリニックへ勤した。
患者を診察した。
昼まで仕事をした。
午3頃、林へ「急な往診」と告げた。
しかし往診の予定はしなかった。
恵美子は医療バッグを持って、のトヨタ・コロナで京をれた。
誰かに怪しまれず仕事をるため、往診という理由を使った能性がかった。
その、へ向かった。
杉の証言が正しければ、夕方になるには芦ノへ着いていた。
畔にはがない所がある。
恵美子はそこでを止めた。
そして、自分が来た痕跡もできるだけ残さないようにしようとした。
が底で発見された位置と状態から、捜査官はが図にへ入れられた能性がいと考えた。
それ以の正確な方法については、21でも断定できなかった。
そして恵美子自も辺へ向かった。
杉が目撃した女性が恵美子なら、その姿が確認された最だった。
だけが15メートル付に残った。
本の姿はなかった。
芦ノは所によって急激にくなり、さらにい所では数メートルに達する。
広告
の流れもある。
捜査官は、恵美子がの発見所よりい域へ移した能性を考えた。
1994当なら、より度な捜索器を使うこともできた。
しかし警察は、すでに残されたと記録によって彼女のが分に確認できたとして、広な底を規模に捜索することはしなかった。
本田には迷いがあった。
「本を故郷へ戻してあげるべきではないか」
そう考えたこともある。
方で、21誰にも見つからない所を選んだ恵美子のを、どこまで追うべきなのかといういもあった。
結局、遺体は発見されなかった。
恵美子の最の所は、芦ノのいのどこかに残されたままとなった。
い誰も説できなかったの失踪。
しなかった往診。
減っていた預。
夜の話。
いすぎていた部。
それぞれ別々に見えていたものが、21にようやく1本の線でつながった。
事件を終結へ向かわせる準備がんでいた、伯母から再び連絡が入った。
「もう1つ、見つかったものがあります」
恵美子の残された具を理していた際、古いタンスの引きしの裏からい封筒がてきた。
そこには、患者たちへ宛てた文章が入っていた。
付は失踪当の1215。
恵美子は、自分が突然診療を放棄する形になったことを謝っていた。
患者の健康とを預けてもらえたこと。
医師として関われたこと。
その全てに謝しているといていた。
特に何かの齢患者については、次に担当する医師へ引き継いでほしい注点まで記されていた。
広告
おすすめ作品
-
完結第13話
25年目の自白状
1982年、群馬県安藤市。雑貨店を営む佐藤大吾の9歳の息子・健二が、雨で増水した川のそばで姿を消した。 現場には健二の運動靴が残され、下流では赤い帽子も見つかった。警察は川への転落事故と判断するが、大吾だけは納得できなかった。あの日、黒い車に乗せられた赤い帽子の少年を見たという証言があったからだ。 しかし捜査は進まず、妻の三重子も「私には選択肢がなかった」という謎の言葉を残してこの世を去る。 息子も妻も失った大吾は、それでも25年間、健二の部屋をそのまま残し、帰りを待ち続けた。 そして2007年、差出人不明の黄色い封筒が届く。 そこに書かれていたのは、たった一文。 「あなたの息子は、自分のものではない人生を生きました。」 25年前の川の事故、東京へ消えた黒い車、妻が抱えていた秘密。 すべてがつながった時、父は息子が奪われた本当の理由を知ることになる――。ミステリー|真相|行方不明1.9萬字5 70 -
完結第13話
消えた女将と800万の通帳
大阪・難波の路地裏で、安くて温かい料理を出す「3000円酒場」。 女将の中村義子は、うどん屋から店を立て直し、常連たちに愛される繁盛店を作り上げた。だがその裏で、働かない夫・武夫に売上を持ち出され、心身ともに追い詰められていた。 やがて義子は店を800万円で手放し、小さな部屋で静かに人生をやり直そうと決意する。 しかし、その金を狙っていたのは夫だけではなかった。店を買った男もまた、思うようにいかない経営に苦しみ、義子へ「金を返せ」と迫るようになる。 そして2009年9月14日。 親友の定食屋で「ありがとう」とだけ残した義子は、その日の夕方、夫と並んで歩く姿を最後に忽然と姿を消した。 夫か、それとも店を買った男か。 2人の容疑者が浮かび上がる中、真相は5年間闇に沈み続ける。 そして2014年秋。大阪から遠く離れた埼玉の荒れ地で、止まっていた時間が突然動き出す――。ミステリー|行方不明1.9萬字5 137 -
完結第13話
恩に沈む猛獣舎
2002年、兵庫県宝塚市の小さな私設動物園で、ベテラン飼育員・郡山安が忽然と姿を消した。 猛獣舎に残されていたのは、きれいに揃えられた黒い長靴と、日付だけが書かれた飼育手帳。扉は内側から施錠され、そばには長年彼が世話をしてきたベンガルトラがいた。 町ではすぐに噂が広がった。 「あの飼育員は、虎に呑み込まれたのではないか」 しかし獣医は断言する。虎は何もしていない、と。 やがて動物園は閉園し、事件は未解決のまま忘れられていった。だが19年後、跡地の造成工事中に、古い増築舎の基礎の下から身元不明の人骨が見つかる。 それは、郡山ではなかった。 では、土の下に眠っていた男は誰なのか。なぜ郡山は長靴を揃えて姿を消したのか。 一人の元巡査が、19年前に書き残した疑問を手に、動物園に沈んだもう一つの失踪事件を追い始める。ミステリー|行方不明2.0萬字5 133 -
完結第11話
北アルプスの0.5秒
2024年、東京都足立区の古いアパートで、1台のビデオカメラが見つかった。 持ち主は孤独死した60代の男。クローゼットの奥に隠されていた登山リュックの中から出てきたそのカメラには、15年前の北アルプスで撮影された映像が残されていた。 日付は2009年10月24日。 その日、資産家社長・坂本竜三の愛人だった伊藤桜は、登山中に突然姿を消した。直前に坂本と激しく口論し、森へ逃げ込んだ彼女を坂本が追いかけたため、誰もが「犯人は坂本だ」と信じていた。 しかし、遺体も物証も見つからず、事件は未解決のまま15年が過ぎる。 そして発見された映像には、誰も知らなかった桜の本当の顔が映っていた。 彼女は誰かと電話をしていた。坂本を騙し、財産を奪う計画を語りながら、さらに別の裏切りまで口にしていたのだ。 次の瞬間、カメラは激しく揺れ、悲鳴とともに崖下へ落ちていく。 最後に映ったのは、崖の上に立つ一人の男の影。 15年間、無実の男を犯人にし続けた事件の真相が、わずか0.5秒の映像から動き出す――。ミステリー|行方不明1.7萬字5 1796 -
完結第10話
午前0時30分の空白
1991年9月、24歳の会社員・清田け子は、深夜の藤沢駅で同僚と別れたあと、公衆電話を使った。 それが、彼女の確かな足取りとして残る最後の場面だった。 誰に電話をかけたのか。 その後、誰と会ったのか。 なぜ彼女は、自宅へ帰らなかったのか。 12日後、平塚市の歩行者用地下道で、煙を上げるドラム缶が発見される。 人通りのある場所。朝になれば誰かが通る地下道。 それなのに、犯人はなぜそこを選んだのか。 周到に準備されたように見える一方で、最後の行動だけがあまりにも不可解だった。 藤沢駅の公衆電話から、平塚の地下道まで。 消えた12日間に、いったい何が起きていたのか――。ミステリー|遺體発見1.5萬字5 114 -
完結第9話
12年目の虫かご
1990年代後半の真夏の朝、山間の小さな村で、虫かごを持った5人の子供たちが山へ向かった。 雑貨店の前でラムネを飲み、「夕方までには帰る」と笑って手を振った5人。しかし、その日を境に、彼らは二度と家へ戻らなかった。 山で迷ったのか、川へ流されたのか、それとも誰かに連れ去られたのか。村中が必死に捜索する中、誰よりも熱心に動いていたのは、消えた少年の叔父だった。 だが、1人の刑事だけは小さな違和感を捨てられずにいた。 山へ向かっていない足跡。新しく打たれたコンクリート。そこに残された、腕時計の一部らしき小さな金属片。 それでも証拠は足りず、事件は長い年月の中へ沈んでいく。 そして11年後。古い床下から見つかった5つの虫かごと、止まったままの子供用腕時計。 あの夏、子供たちは本当はどこへ向かっていたのか。 村が信じ続けた“優しい叔父”の姿が崩れた時、12年間閉ざされていた真実がようやく姿を現す。ミステリー|行方不明1.3萬字5 1087