"消えた女将と800万の通帳" 第8話
本は首を横に振った。
暮らしだった。
夜2。
正美が退勤。
翌まで本のを確認できる物はいない。
完全なアリバイではなかった。
井はの譲渡について聞いた。
「さんへ600万円返せと求していた?」
「はい」
「詐欺だとも言った?」
「言いました」
「ただじゃ済まないとも?」
本の線が落ちた。
「腹ってたんです」
「言ったんですね」
「言いました。でも、本当に何かするつもりやなかった」
「600万円ですよね」
「そうです」
「は赤字?」
本は唇を噛んだ。
「……はい」
井はそののうちに武夫も呼びした。
武夫は俯きながら入した。
妻を配しているような表を作っているようにも見えた。
「914の夕方、何をしていました?」
「妻と所歩いてました」
「散歩ですか?」
「まあ、そんなとこです」
「そのは?」
「帰りました」
「奥さんも緒に?」
武夫はわずかにを置いた。
「はい」
「その?」
「夜にまたていった」
井は顔をげた。
「どこへ?」
「らん」
「何も言わずに?」
「夫婦仲よくなかったんで」
「夜に奥さんがていって、そのまま戻らなかった?」
「はい」
「なぜ探しにかなかったんです?」
武夫は面倒そうな顔をした。
「にも1、2帰らんことあったから」
「今回は1週です」
「そのうち帰るとってました」
「失踪届もしていませんね」
「娘がしたから」
「娘がさなかったら?」
武夫は答えなかった。
井は男の顔を見続けた。
広告
妻が消えているのに、りも焦りもほとんどない。
2の聴取が終わった。
机には2冊の調が並んだ。
本。
600万円。
の失敗。
「ただじゃ済まない」という発言。
夜の空。
川武夫。
800万円。
夫婦の銭トラブル。
事件当に妻と緒。
その妻がていったという話を確認できる者はいない。
失踪届をしていない。
どちらにもがある。
どちらにも完全なアリバイがない。
井は携帯話の基局記録も調べた。
義子の話は914の午までは阪内の自宅周辺で信号が確認されていた。
その夜以、記録が途切れた。
源が切られたか、波の届かない所へ移した能性がある。
武夫がっていた義子名義の座も確認した。
残はほとんどない。
914以の入もない。
52歳の女性が突然をて、1週以1円も使わない。
自然だった。
だが、決定なものがない。
目撃者もない。
事件性を証する物もない。
自分のでをた能性を、完全には否定できなかった。
そのにも、難波のでは噂が広がった。
「あのしい主がやったんちゃうか」
「600万で揉めてたらしいで」
噂の矛先は本へ集した。
3000円酒から客がさらに消えた。
残っていた常連も来なくなった。
「を殺したかもしれん男の」
そんな言葉まで聞こえるようになった。
広告
本は3かほど耐えた。
しかし賃が払えなくなった。
閉。
退職400万円。
借200万円。
それらを注ぎ込んだは、半も持たずに消えた。
本は阪をれ、静岡の親戚を頼った。
正美も職を失った。
方。
武夫の活は変わらなかった。
酒をむ。
へる。
へ戻る。
妻を探して歩く姿は、所では度も見られなかった。
娘の希だけが、毎週末のように母を探した。
商。
駅。
母の。
「この、見てませんか」
写真を見せて回った。
父へ言った。
「緒に探して」
武夫は酒をみながら答えた。
「ていったは戻らへん」
希は、その言葉を聞くたびに父への疑いをくしていった。
200912。
義子が消えて約3かが過ぎた頃、希の勤務先である保険会社からいがけない連絡が入った。
本社の顧客窓からだった。
「川希さん。確認したいことがあります」
「はい」
「義子様の総保険について、受取の川武夫様からお問いわせがありまして」
希の指が止まった。
「父が?」
「保険の支払い条件について質問されています」
のが真っになった。
母は失踪している。
が確認されたわけではない。
まだ3か。
それなのに父は、2000万円の保険について問いわせていた。
保険会社の回答は当然だった。
確認がなければ支払えない。
失踪者のには法な続きが必になる。
希は話を置いたも、しばらく机からけなかった。
自分は3かずっと母を探している。
父は度も探しにていない。
広告
おすすめ作品
-
完結第13話
恩に沈む猛獣舎
2002年、兵庫県宝塚市の小さな私設動物園で、ベテラン飼育員・郡山安が忽然と姿を消した。 猛獣舎に残されていたのは、きれいに揃えられた黒い長靴と、日付だけが書かれた飼育手帳。扉は内側から施錠され、そばには長年彼が世話をしてきたベンガルトラがいた。 町ではすぐに噂が広がった。 「あの飼育員は、虎に呑み込まれたのではないか」 しかし獣医は断言する。虎は何もしていない、と。 やがて動物園は閉園し、事件は未解決のまま忘れられていった。だが19年後、跡地の造成工事中に、古い増築舎の基礎の下から身元不明の人骨が見つかる。 それは、郡山ではなかった。 では、土の下に眠っていた男は誰なのか。なぜ郡山は長靴を揃えて姿を消したのか。 一人の元巡査が、19年前に書き残した疑問を手に、動物園に沈んだもう一つの失踪事件を追い始める。ミステリー|行方不明2.0萬字5 1 -
完結第11話
北アルプスの0.5秒
2024年、東京都足立区の古いアパートで、1台のビデオカメラが見つかった。 持ち主は孤独死した60代の男。クローゼットの奥に隠されていた登山リュックの中から出てきたそのカメラには、15年前の北アルプスで撮影された映像が残されていた。 日付は2009年10月24日。 その日、資産家社長・坂本竜三の愛人だった伊藤桜は、登山中に突然姿を消した。直前に坂本と激しく口論し、森へ逃げ込んだ彼女を坂本が追いかけたため、誰もが「犯人は坂本だ」と信じていた。 しかし、遺体も物証も見つからず、事件は未解決のまま15年が過ぎる。 そして発見された映像には、誰も知らなかった桜の本当の顔が映っていた。 彼女は誰かと電話をしていた。坂本を騙し、財産を奪う計画を語りながら、さらに別の裏切りまで口にしていたのだ。 次の瞬間、カメラは激しく揺れ、悲鳴とともに崖下へ落ちていく。 最後に映ったのは、崖の上に立つ一人の男の影。 15年間、無実の男を犯人にし続けた事件の真相が、わずか0.5秒の映像から動き出す――。ミステリー|行方不明1.7萬字5 246 -
完結第10話
午前0時30分の空白
1991年9月、24歳の会社員・清田け子は、深夜の藤沢駅で同僚と別れたあと、公衆電話を使った。 それが、彼女の確かな足取りとして残る最後の場面だった。 誰に電話をかけたのか。 その後、誰と会ったのか。 なぜ彼女は、自宅へ帰らなかったのか。 12日後、平塚市の歩行者用地下道で、煙を上げるドラム缶が発見される。 人通りのある場所。朝になれば誰かが通る地下道。 それなのに、犯人はなぜそこを選んだのか。 周到に準備されたように見える一方で、最後の行動だけがあまりにも不可解だった。 藤沢駅の公衆電話から、平塚の地下道まで。 消えた12日間に、いったい何が起きていたのか――。ミステリー|遺體発見1.5萬字5 80 -
完結第9話
12年目の虫かご
1990年代後半の真夏の朝、山間の小さな村で、虫かごを持った5人の子供たちが山へ向かった。 雑貨店の前でラムネを飲み、「夕方までには帰る」と笑って手を振った5人。しかし、その日を境に、彼らは二度と家へ戻らなかった。 山で迷ったのか、川へ流されたのか、それとも誰かに連れ去られたのか。村中が必死に捜索する中、誰よりも熱心に動いていたのは、消えた少年の叔父だった。 だが、1人の刑事だけは小さな違和感を捨てられずにいた。 山へ向かっていない足跡。新しく打たれたコンクリート。そこに残された、腕時計の一部らしき小さな金属片。 それでも証拠は足りず、事件は長い年月の中へ沈んでいく。 そして11年後。古い床下から見つかった5つの虫かごと、止まったままの子供用腕時計。 あの夏、子供たちは本当はどこへ向かっていたのか。 村が信じ続けた“優しい叔父”の姿が崩れた時、12年間閉ざされていた真実がようやく姿を現す。ミステリー|行方不明1.3萬字5 730 -
完結第7話
300億を捨てた相場師
1999年秋、長野県桑原市。 300億円の資産を築いた株長者・梶常明が、自宅から忽然と姿を消した。財布も通帳も印鑑も、車も携帯電話もすべて家に残されたまま。争った跡も、身代金の要求もなく、彼はまるで何も持たず夜の中へ歩いていったかのようだった。 警察は誘拐、自殺、失踪の可能性を探るが、決定的な手がかりは見つからない。ただ一つ、刑事・矢島の心に引っかかったのは、失踪直前に常明が昔暮らしていた古い県営団地を訪れていたという証言だった。 それから6年後。 定年を控えた矢島のもとに、常明の義母・千鶴から一本の電話が入る。余命を宣告された彼女は、死ぬ前にどうしても伝えたいことがあると言った。 常明には、家族にも明かさなかった過去があった。 300億円を手にした男が、なぜ何も持たずに消えたのか。 彼が最後に戻ろうとした場所はどこだったのか。 古い団地の一室に残された手紙が、6年間眠っていた失踪の理由を静かに明かしていく。ミステリー|行方不明9.8千字5 507 -
完結第9話
水底に沈めた嘘
1997年11月、長野県安曇野の貯水池へ釣りに出かけた木村俊助は、そのまま姿を消した。 現場にはトラックと釣り竿、そして一度も手をつけられていない弁当箱だけが残されていた。水門の左、3本目の柳の木の下。そこに竿は立てられていたのに、俊助本人の姿だけがどこにもなかった。 妻・文江は「夫が帰ってこない」と夜になって警察へ通報する。警察は事故や失踪の可能性を調べたが、決定的な証拠は見つからず、事件は長い時間の中へ沈んでいった。 しかし、見過ごされた違和感は残っていた。 遅すぎた通報。消えた夫に払い続けられたポケットベル料金。再生されなかった23件の音声。失踪からわずか3日後の保険会社への問い合わせ。そして、夫の口座から流れていた謎の金。 7年後、貯水池の浚渫工事が始まった時、泥の底から黒い包みが引き上げられる。 水面に浮かび上がったのは、1人の男の行方だけではなかった。 妻が長年隠し続けた計画と、沈めたはずの嘘だった――。ミステリー|行方不明1.3萬字5 397