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"恩に沈む猛獣舎" 第2話

B6判の古い帳で、表は油と汚れで黒ずんでいる。

餌の量、糞の状態、体調、歩き方。

は毎、細かな変化までそこへき込んでいた。

帳はかれていた。

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付だけがかれている。

そのは、真っだった。

椎名はがった。

の奥には、飼育員用通へ続くい鉄扉がある。そこを抜ければ、虎や豹の寝に面した作業通る。

椎名は扉の取っをかけた。

かない。

「……え?」

もう1度引いた。

かなかった。

掛けがかかっている。

それも、内側から。

猛獣舎の内扉には、側と内側の両方に掛けがあった。作業から誤って閉じ込められないように、内側にも施錠できる構造になっている。

つまり内側から掛けがかかっているなら、本来はがいる。

「郡さん?」

椎名はさな覗き窓へ顔を寄せた。

は暗かった。

奥の窓からが細く差し込んでいる。

誰もいない。

「郡さん、おってですか?」

扉を叩いた。

属音だけが通へ響き、そのまま消えた。

次の瞬

扉の向こうで、きなものがじろぎした。

を擦る音。

続いて、い息遣い。

ベンガルトラのタイガだった。

14歳になる雄。

ほどでこの物園へやって来て、ずっと郡に世話をされてきた。

幼い頃には、若い郡が子虎を腕に抱いて撮った写真も残っていた。

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椎名の胸が激しく鳴った。

もし。

に浮かんだ像を、すぐに打ち消す。

に限って、そんな事故はない。

虎を寝へ移し、格子が完全にりたのを2回確認してから作業へ入る。それは郡が若い飼育員たちへ何度も何度も叩き込んだ順だった。

「誰のせいにもせんように、自分で確認しろ」

いつも、そう言っていた。

椎名はもう1度、内扉を見た。

から鍵がかかっている。

けれど、には誰もいない。

椎名は駆けした。

し、事務棟へ向かう。

りながらに浮かんでいたのは、虎ではなかった。

あの靴だった。

きれいに揃えられた黒い靴。

どうして、あんなふうに置いたのか。

事務棟へ転がり込むように入り、椎名は叫んだ。

「園! 郡さんが……郡さんがおらんのです!」

奥の机で類を見ていた園が、老鏡をずらして顔をげた。

76歳。

この物園の実質な主であり、親会社である運送会社の創業につながる物でもあった。

「どこにおらんのや」

「猛獣舎です。靴だけ置いてあって、内扉がから……」

そこまで言った、椎名は言葉を止めた。

の顔から、すっとが消えたからだった。

それは椎名が像していた「驚いた顔」ではなかった。

もっと別の何か。

の皮膚が瞬でくなったような、異様な顔だった。

は机へをついた。

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そのが震えていた。

「虎や」

「え?」

「タイガや。郡が油断したんや」

「でも……」

「わしは何度も言うたんや。寄りが1で猛獣舎へ入るなって」

子へ崩れるように腰をろした。

椎名は、そのからけなかった。

まだ誰も虎を調べていない。

まだ誰も、郡がどうなったのか見ていない。

なのに園は、もう答えをっているような言い方をした。

820分過ぎ。

丘のにあるさな駐所で、1本の話が鳴った。

その話を取った若い巡査が、20にわたってこの事件を追い続けることになる。

彼の名は、沖野修

この、26歳だった。

話が鳴った、沖野修は駐の交差点から戻ったばかりだった。

朝は通学する子供たちを見守り、昼になれば自転で町内を回り、夕方には団の集会所で老たちの話を聞く。それが赴任2目の沖野の常だった。

扱う事件といえば、自転棒、酔っ払いの喧嘩、迷い犬。

「駐さん、暇そうやな」

そう笑われることもあったが、沖野自はこの静かな町が嫌いではなかった。

話の相物園の事務員だった。

「あの……うちの飼育員が、おらんのです」

「おらん?」

「猛獣舎に靴だけ残ってて……」

そこで相の声が詰まった。

沖野は帳をいた。

「すぐきます」

自転では遅いとい、原付にまたがった。

がりながらも、まだ状況をうまく像できなかった。

靴だけ残して、がいない。

その言葉がで形にならない。

褪せた物園のアーチをくぐると、事務棟のに職員たちが集まっていた。

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