"水底に沈めた嘘" 第1話
1997、野県曇野。
々のを縫うように川が流れ、になると赤や黄に染まった肌が面に映り込むだった。がづけばたい川がを伝って町へり、宅の細いまで吹き抜けていく。
俊助は、このでまれ育った42歳の男だった。
町からで20分ほどれた鉄骨製作所で溶接として15以働き、同僚たちからは無で誠実な男としてられていた。普段は必以のことを話さなかったが、本酒を何杯かむと目元を赤くして笑う、そんな面もあったという。
背はそれほどくなかった。作業着の袖はいつも煤け、の指には古い溶接の傷跡が残っていた。
同僚の田健は、に警察へこう話している。俊助が仕事に腕をげて何かを指差すと、その傷跡が真っ先に目へ入った、と。
俊助の趣は釣りだった。
週末になると午4頃に起き、いご飯を弁当箱へ詰め、2本の釣り竿と餌箱をトラックへ積み込む。それから決まって、曇野郊の貯池へ向かった。
10以通い続けている所だった。
お気に入りは、からへ数えて3本目の柳ののだった。朝、面にいが浮かぶにそこで釣り竿を垂らしていると、世界が静かになるのだと俊助は話していた。
田が度、「今度緒に連れていってくれ」
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と頼んだことがある。
俊助はし笑って首を横に振った。
「悪いな。あそこだけは1できたいんだ」
それ以理由を話すことはなかった。
妻の文は野のまれではなかった。結婚までは名古で暮らし、28歳のに見いで俊助と会った。
所の々が覚えている文は、いつもきちんとした女性だった。数はなく、笑うも声をげず、のをいつもえていた。
俊助の母親の介護と事を両していた期もあったが、満をにする姿を見たはいない。
隣に12んでいた鈴幸子は、にこう振り返った。
「文さんが声をしたところなんて、度も聞いたことがありませんでした」
そこまで話した、幸子はし黙った。
「だから……になって考えると、余計に奇妙だったんです」
俊助と文のに子供はいなかった。
結婚して7が過ぎても子供には恵まれず、そのさを2はそれぞれ違う方法で抱えているように見えた。俊助は以より頻繁に釣りへかけるようになり、文はで過ごすがくなっていった。
所の々は、その沈黙を夫婦の距だとっていた。
経済にも余裕のある庭ではなかった。俊助の料は当としては平均で、さなにはまだ宅ローンが残っていた。
1997になると勤務先の経営状態にも暗いが差し始め、内では仕事が減るのではないかという噂が広がっていた。
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そのの、仕事帰りに田と酒をんだ、俊助は湯みを置いて珍しく音を漏らした。
「こうしてでも、耐えるしかないじゃないか」
それが、田が俊助から聞いた最の愚痴だった。
199711、第1曜の朝。
俊助はいつものように午4に起きた。
文は寝で物音を聞いていたという。台所で何かを用する音、玄関がく音、そしてしばらくしてから聞こえてきたトラックのエンジン音。
その音がざかると、のは再び静かになった。
しかし、そのの夕方になっても俊助は帰ってこなかった。
文が警察へ通報したのは、午7を過ぎてからだった。
「朝から釣りへった夫が、まだ帰ってこないんです」
話を受けた警察官は、俊助がいつもく所を尋ねた。
文はためらわず答えた。
「曇野の貯池です。あのは、いつもそこへきます」
その証言が、に何度も捜査官たちによって読み返されることになる。
俊助のトラックが発見されたのは、失踪から2だった。
貯池くの未舗装の駐スペースに止められていた。助席の元には釣り竿のケースがあり、荷台には餌箱が蓋をけたまま残されていた。
餌は半分ほど残っていた。
運転席の窓は閉じられていたが、ドアに鍵はかかっていなかった。
捜索隊は貯池周辺を3にわたって調べた。