"ブサ婿の正体" 第1話
「この子のことは、好きにしてくださいね。性格も悪くないし、料理もできますから。本当によろしくお願いします」
父と母は、まるで製品の説でもするように笑っていた。相方の両親に何度もをげながら、その顔には娘を放す寂しさなど欠片も見えなかった。
私――嶋咲には、父も母もいる。
それがあるでは、私にとって最も幸なことだった。
父の哲也は、から見ればきちんとした父親だった。堅メーカーの正社員として毎朝スーツを着て勤し、所では礼儀正しく真面目なで通っていた。
だが、玄関の扉が閉まれば別になった。
気に入らないことがあれば鳴り、事に私が何か見を言えば、「子供は黙ってろ」と遮った。計もも交友関係も、すべて父が許するかどうかで決まった。
学で何をしたいか。
どの部活へ入りたいか。
誰と遊びたいか。
何を買いたいか。
そんなことまで、私自ではなく父が決めた。
母は、そんな父に逆らうことのできないだった。
夫がれば私のせいにし、夫がぶことなら私に無理をさせてでも実現しようとした。
「お父さんをらせないで」
母の癖はいつもそれだった。
父に逆らえない代わりに、母は私へすることを求めた。父が圧力をかけ、母が泣きながら私に受け入れさせる。
広告
それが嶋では当たりだった。
になると、私はファミリーレストランでアルバイトを始めた。
自分の欲しいものを買うためではない。
「の活費がりないから」
母にそう言われたからだった。
週4、学が終わるとそのままへ向かい、閉くまで働いた。制の入った鞄を抱えて終くので帰り、数眠れば、また翌朝には学へった。
当然、部活を続けることはできなかった。
友から放課に遊ぼうと誘われても断った。
「なんでいつも来られないの?」
そう聞かれるたびに、私は曖昧に笑った。
「のことがあって」
それ以は言えなかった。
父が鳴ることも、母が私の料を持っていくことも、友に話せば親の悪になるような気がした。そして何より、そんな親を持っている自分自までおかしいだとわれるのが怖かった。
学へ学しても、状況はほとんど変わらなかった。
奨学を使いながら複数のアルバイトを掛け持ちし、料になると母から連絡が来た。
「あなたしかいないんだから」
父はもっとかった。
「当然だろ」
その言だけで、私が働いて得たおはへ消えていった。
本当は、もっと学びたいことがあった。志望していた学もあったが、父が反対すると、母は私の部へ来て説得した。
広告
「お父さんが駄目って言ってるんだから仕方ないでしょう」
私は諦めた。
旅も。
部活も。
学先も。
欲しいものも。
自分のために使うさえも。
それでも、をようとはしなかった。
正確には、るという発そのものが持てなかったのだ。
逃げれば何か取り返しのつかないことが起きる。
親を捨てることになる。
族とは、どれほど苦しくても支えわなければならない。
私は物がついた頃から、そうい込まされていた。
その考えが完全に壊れ始めたのは、結婚する半のことだった。
就職活の最終面接を終えた翌朝だった。
の夜、自宅へかかってきた話をたまたま私が取った。
「嶋さん、返済の件ですが」
らない男性の声だった。
最初は違い話だとった。
だが相が父の名をにし、未払いになっている額を告げた瞬、私は受話器を握ったままけなくなった。
翌朝、問い詰めると両親はようやく状した。
消費者融4社。
さらにからの個な借。
父と母、それぞれの名が債務者として並んでいた。
総額は、およそ1200万円。
父の借が約800万円。
母が約400万円。
どうやったら、そんな額になるのか。
私は呆然とした。
だが両親が気にしていたのは、借を作った自分たちの責任ではなかった。
翌朝、父と母は私をリビングへ座らせた。
父は腕を組み、母は俯いていた。
そして父が言った。
「おの顔なら、持ちの息子を落とせる」
私はを疑った。
「何?」
「結婚してもらえば全部解決する。
広告
おすすめ作品
-
完結第8話
白タク墓参り
夫の命日、私は嫁と孫を連れて墓参りへ向かった。 帰り道、見知らぬ白いタクシーの運転手は、嫁と孫を墓地に残したまま、私だけを乗せて急発進する。 「お客さん、気づいてないの?」 そう言った運転手は、嫁が私の命を狙っていると告げた。けれど、話を聞くうちに私は小さな違和感を覚える。 なぜこの男は、孫の名前を知っているのか。 なぜ嫁の悪口を言いながら、何度も家の名義や権利書の話へ戻るのか。 逃げ場のない車内で、私は亡き夫の言葉を思い出す。 「困った時ほど慌てるな」 鞄の底に入れた携帯電話、孫が書き写した車の番号、そして嫁だけが気づいた不自然な話し方。 離れ離れになった家族が残した小さな手がかりが、やがて1本につながっていく――。因果応報|夫婦|修羅場1.2萬字5 0 -
完結第11話
追放母の25億売却
お盆のため、長崎から東京の息子夫婦のペントハウスを訪れた田中春江。 亡き夫に手を合わせ、息子の好物を詰めた重箱を抱え、半日かけて上京した彼女を待っていたのは、温かな家族の食卓ではなかった。 嫁・里奈は春江の手料理を目の前で捨て、安いホテルの予約票を差し出す。さらに息子夫婦は、自分たちが旅行へ行く間、愛犬の世話だけを春江に押しつけようとしていた。 長年、息子のために働き続け、すべてを与えてきた母。だがその日、春江はようやく気づく。 自分は家族として呼ばれたのではない。ただ都合よく使われるために呼ばれただけだった。 その夜、春江は20年以上連絡を取っていなかった“ある人物”に電話をかける。 翌日、息子夫婦が暮らしていた天空の城は、静かに動き始めた――。人生逆転|親不孝|親子関係1.6萬字5 430 -
完結第9話
喪服の離婚届
父の三回忌法要へ行きたい。 ただそれだけの願いを、姑は「嫁なら婚家を優先しなさい」と切り捨て、夫・誠治は離婚届を投げつけて脅した。 「一歩でも外に出てみろ。その時は終わりだ」 10年間、夫と姑の顔色をうかがい、実家とのつながりさえ遠ざけられてきた由佳。けれど、亡き父を侮辱されたその瞬間、彼女の中で何かが静かに切れた。 由佳は黙って離婚届にサインし、そのまま家を出る。 夫はまだ知らなかった。 自分が見下してきた妻の実家が、実は彼の勤める会社と深く関わっていたことを。そして、隠してきた不正の証拠が、すでに集められていたことを。 翌朝、誠治がいつものように会社のゲートへ社員証をかざした時、扉は開かなかった――。因果応報|夫婦1.4萬字5 385 -
完結第7話
親友に夫を譲った日
家事、育児、義母の介護、そしてパート。 小島弥生は10年間、夫・友幸の家庭を支えるために、休む暇もなく働き続けてきた。 そんなある日、出張から戻ったはずの夫が、突然リビングで土下座する。 「お前の親友を妊娠させた」 隣にいたのは、大学時代から親友だと思っていた舞子だった。舞子は悪びれるどころか、勝ち誇った顔で言い放つ。 「旦那はもらうから、あんたは出ていって」 しかし弥生は泣き崩れることも、怒鳴ることもしなかった。 「喜んで」 そう答えた彼女は、実は5年前からすべてを知っていた。夫の裏切りも、親友の本性も、そして自分が見下され続けていたことも。 証拠、住まい、収入、義母の行き先。 すべての準備を終えた弥生が静かに家を出た3日後、舞子から血相を変えた電話がかかってくる。 奪ったはずの夫には、もう何も残っていなかった――。夫婦|熟年離婚1.1萬字5 1102 -
完結第9話
捨てた妻の春
離婚したその日、吉田静香は妊娠3ヶ月だった。 夫・城戸隼人は初恋の女性と再婚するため、静香の涙にも気づかず離婚協議書に判を押した。そこには「婚姻中の子供なし」と記されていたが、静香のお腹には、すでに小さな命が宿っていた。 引き止めることも、告げることもせず、静香は1人で子供を産む決意をする。 生まれた息子・春を抱きしめながら、彼女は小さな写真館「時間」を開き、母として、写真家として、懸命に生きていった。 それから12年後。 春の卒業式に、成功した実業家となった隼人が来賓として現れる。何も知らないままステージに立った彼の前に、花束を抱えた1人の少年が歩み寄った。 その顔を見た瞬間、隼人の表情が凍りつく。 失った時間は、どれだけ金を積んでも戻らない。 12年越しに明かされる真実が、彼の人生を静かに崩していく――。夫婦|不倫1.4萬字5 942 -
完結第10話
夕焼けの後継者
差し押さえ寸前の修理店を守るため、26歳の佐々木満は、財閥会長の豪邸にある小劇場の照明修理を引き受ける。 母を知らず、亡き父が残した工具と古いノートだけを頼りに生きてきた満。だが、屋敷の照明設備は、なぜか父のノートに記された特殊な配線と完全に一致していた。 さらに修理を終えた満は、廊下に飾られた古い写真の中に、若き日の父の姿を見つける。 「あれ……これ、僕のお父さんの写真だ」 その一言で、財閥会長夫妻の表情は一変する。30年前に消えた息子、隠された事故、偽られた死、そして満の出生に関わる秘密。 やがて一通の鑑定書が開かれた時、豪邸に閉じ込められていた長い嘘が崩れ始める――。兄弟姉妹|親子関係1.5萬字5 425 -
完結第11話
赤ワインの逆転離婚
因果応報|夫婦1.6萬字5 1796 -
完結第6話
七五三の不要人物
孫娘の七五三の日、69歳のすみは、亡き夫が褒めてくれた着物を着て神社へ向かった。 写真代、衣装代、食事会の費用まで出したのは、すべて孫の晴れ姿を祝いたかったから。けれど当日、息子夫婦から告げられたのは、あまりにも冷たい一言だった。 「家族だけで撮るから」 カメラの前に並ぶのは、息子と嫁と孫の3人だけ。すみは輪の外に立たされ、食事会でも末席に座らされる。 それでも孫のために黙っていたすみだったが、後日、写真館から届いた連絡で、彼女はすべてを知る。 自分は写真に入れなかっただけではない。写り込んだ姿さえ、“不要人物”として消されようとしていたのだ。 その夜、すみは古い帳面を開く。 そこに残されていたのは、息子夫婦へ渡してきた数々の援助記録。積み重なった金額と、消された祖母の証拠を前に、すみはついに静かな決断を下す。祖父母と孫|親子関係8.5千字5 2480 -
完結第10話
車椅子妻の断罪
建築事務所の代表として成功し、銀座に複数の商業ビルを所有していた鈴木加奈。 しかし3か月前、現場での転落事故により下半身不随と診断されてから、彼女の人生は一変する。献身的な夫を演じる健二は、病室で薬に朦朧とする加奈の指を使い、財産と経営権を奪う書類に指印を押させていた。 さらに、加奈の回復の可能性を隠し、リハビリまで中止させていたことが判明する。 何も知らない患者のふりをしながら、加奈は密かに証拠を集め、夜ごと誰にも知られず足を動かす訓練を続けていた。 そして真夏のある日、健二は加奈を山奥へ連れ出す。 車椅子のブレーキを外れかけにしたまま、夫は妻を置き去りにした。 だが、夫の車が完全に見えなくなった瞬間、加奈は静かに顔を上げる。 彼女はもう、何もできない妻ではなかった――。因果応報|夫婦1.4萬字5 1495 -
完結第15話
9,000億円の離婚届
父を見送る火葬場で、ゆみは夫・浩司から離婚届を突きつけられた。 「お前の役目は、もう終わったんだよ」 父の遺骨すら拾っていないその場で、夫と義母は冷たく言い放つ。3年間の介護も、夜の清掃パートも、家を支えてきた28年の結婚生活も、彼らにとってはただの重荷でしかなかった。 しかも浩司には、すでに新しい女性がいた。 父の遺産を奪い、妻を捨て、愛人と新しい人生を始める――。浩司はそう信じて疑わなかった。 だが、亡き父はすべてを見抜いていた。 ゆみに託された黒いカード。古い木箱に隠された証拠。そして、東京駅前にそびえる“あるビル”の存在。 数日後、浩司は初めて知ることになる。 自分が捨てた妻こそ、9,000億円の資産を受け継ぐただ一人の相続人だったことを――。因果応報|人生逆転|夫婦2.3萬字5 1749