"熱海失踪、2時12分のポケベル" 第8話
通話は4分。
「これはどう説しますか」
初めて、健の顔が僅かに引きつった。
本当に瞬だった。
だが田は見逃さなかった。
「あなたはをらないと言いました」
健は黙った。
「旅へ発する3、あなたの事務所からへ話している」
返事はない。
「は、その話でへ先にくよう指示されたと供述しています」
健の額に汗が浮かび始めた。
田はさらに踏み込んだ。
「美緒さんの面接結果がるから、を旅館に待させていた」
沈黙。
「就職に失敗して落ち込んだ義妹を励ますための旅だったんですよね」
健は田を見つめた。
「それならなぜ、旅からが必だったんですか」
10秒。
20秒。
取調に計の音だけが響いた。
やがて健はをいた。
「弁護士を呼んでください」
それ以、健は黙秘した。
固定話の発信記録。
の証言。
ポケベルの受信記録。
美緒が発見された所。
そして銭な背景。
田は資料を揃え、司へ提した。
「逮捕状を請求してください」
数、裁判所から令状がた。
ところが逮捕へ向かおうとした朝、由から警察へ話が入った。
声は沈んでいた。
「田刑事……夫がいません」
「いつからですか」
「昨夜、夫が私に『すまない』って言ったんです。それだけ言って……今朝くをました」
田は子からちがった。
広告
「は?」
「ありません」
「連絡は取れますか」
「何度話してもません」
警察は直ちに健の方を追った。
会社にもいない。
取引先にもいない。
主で配がかけられた。
発見されたのは、そのの夕方だった。
静岡県内の国沿い。
美緒が見つかった農業用から、それほどくない所だった。
健のは肩に止まっていた。
エンジンは切られていた。
警察官が窓を叩くと、健はハンドルへ額をつけるようにして俯いていた。
「さん。からりてください」
健はゆっくり顔をげた。
目が赤く充血していた。
抵抗することなく扉をき、へる。
両に錠がかけられた。
パトカーへ乗せられる直、健は度だけくを見た。
農業用がある方角だった。
それから黙って俯いた。
由が夫の逮捕をらされたのは、そのの午だった。
警察署の廊にあるベンチへ座った由は、田から説を聞いても、しばらく何も言わなかった。
膝のに両を置き、正面の壁を見つめていた。
やがて乾いた声が漏れた。
「私は……いつからっていたんでしょうね」
田は何も言えなかった。
「1996の、夫が寝言で『すまない』って言った」
由は線を落とした。
「あの、のどこかで何かをじていたんだといます」
「……」
「でも、らなかった」
度言葉を切った。
広告
「違う。りたくなかったんです」
そのの夜。
健は自分から田を呼んだ。
取調へ入ると、健は机に両を置いて俯いていた。
「全部、話します」
録音が始まった。
健は1992頃から会社の経営が悪化し、義父の茂へ銭な援助を求めたことを認めた。
義父は娘夫婦を助けるため、まとまったをした。
返済も求めなかった。
「娘を頼む」
そう言ってくれたという。
しかし、その頃から健のに別の考えがまれ始めた。
義父はいずれ齢になる。
財産は2の娘へ分かれる。
美緒がいれば由の取り分は半分になる。
当初から確に美緒を消そうと考えていたわけではない。
健はそう主張した。
「でも、美緒がずっと就職できなくて、にいるようになって……」
健は机を見たまま話した。
「だんだん考えがおかしくなっていきました」
田が尋ねた。
「美緒さんがいなくなればいいとった?」
健は僅かに頷いた。
「はい」
旅を提案したには、すでにへ連絡していた。
へ旅館で待するよう頼み、何かあれば伝うよう伝えていた。
「最初から殺すつもりだったんですか」
健はすぐには答えなかった。
「話をするつもりでした」
「何の話です」
「からていってもらうことも含めて……」
田は黙って続きを待った。
事件の夜、由が体調を崩して先に旅館へ戻った。
健は美緒とコンビニへ寄り、その旅館へ戻った。
そして美緒の部へ入った。
「話がある」
そう言った。
部ので話しているうち、美緒は健に対してく警戒し始めたという。
広告
おすすめ作品
-
完結第9話
水底に沈めた嘘
1997年11月、長野県安曇野の貯水池へ釣りに出かけた木村俊助は、そのまま姿を消した。 現場にはトラックと釣り竿、そして一度も手をつけられていない弁当箱だけが残されていた。水門の左、3本目の柳の木の下。そこに竿は立てられていたのに、俊助本人の姿だけがどこにもなかった。 妻・文江は「夫が帰ってこない」と夜になって警察へ通報する。警察は事故や失踪の可能性を調べたが、決定的な証拠は見つからず、事件は長い時間の中へ沈んでいった。 しかし、見過ごされた違和感は残っていた。 遅すぎた通報。消えた夫に払い続けられたポケットベル料金。再生されなかった23件の音声。失踪からわずか3日後の保険会社への問い合わせ。そして、夫の口座から流れていた謎の金。 7年後、貯水池の浚渫工事が始まった時、泥の底から黒い包みが引き上げられる。 水面に浮かび上がったのは、1人の男の行方だけではなかった。 妻が長年隠し続けた計画と、沈めたはずの嘘だった――。ミステリー|行方不明1.3萬字5 0 -
完結第8話
10年目のボイラー室
1992年秋、長野県木曽川沿いの古い旅館に、名古屋から1人の旅行客・山田誠が訪れた。 紅葉を見て、川沿いを歩き、週明けには会社へ戻るはずだった、ごく普通の一人旅。だが翌日、山田は荷物を部屋に残したまま姿を消してしまう。 川にも山にも痕跡はなく、旅館の関係者たちの証言もどこか食い違っていた。従業員の曖昧な目撃談、正午頃に聞こえた男2人の声、そして午後4時にかかってきた正体不明の電話。 真相が分からないまま、事件は10年の沈黙に包まれる。 そして2002年、廃業した旅館の解体工事中、1階奥のボイラー室で不自然に塗り直された床が見つかる。 そこには、誰かが長い年月封じ込めてきたものが眠っていた――。ミステリー|行方不明1.2萬字5 0 -
完結第8話
鳴らなかったホイッスル
1988年、紅葉シーズンの箱根峠で、23歳の女性バスガイド・高橋美咲が突然姿を消した。 乗客確認のために濃い霧の中へ降りた彼女は、そのまま戻らなかった。警察は生活苦による失踪と判断したが、高校生だった弟・健二だけは、姉が自分を置いて消えるはずがないと信じ続けていた。 それから15年後。 台風で崩れかけた休憩所の擁壁から、髪の毛が絡みついた「ちぎれたホイッスルの紐」が見つかる。それは、美咲が仕事中に首から下げていたものと酷似していた。 姉は本当に自ら姿を消したのか。 霧の夜に響いた鈍い音、消された運行記録、事件直後に退職した運転手。 15年間封じ込められていた峠の秘密が、冷たい擁壁の隙間から静かに姿を現し始める。ミステリー|行方不明1.1萬字5 147 -
完結第7話
水槽裏の金歯
2002年、ワールドカップで街が沸いていた夜。築地の海鮮居酒屋で開かれた積立会の宴会中、400万円を受け取った魚屋の妻・鈴木恵子が突然姿を消した。 最後に見られたのは、黒いバッグを抱えてトイレへ向かう後ろ姿。財布も携帯も残らず、彼女はそのまま築地の夜から消えた。 夫の健一は「妻は逃げるような女じゃない」と訴え続けたが、ギャンブル癖と夫婦喧嘩の噂から疑いの目を向けられる。さらに、店長の証言と積立会の代表・高橋義子の涙ながらの話によって、事件は“夫から逃げた家出”として処理されてしまう。 それから8年後。 閉店した海鮮居酒屋の改修工事中、水槽裏の排水管から、泥にまみれた小さな金歯が見つかる。 それは、失踪した恵子の前歯にあったものだった。 なぜ金歯は、彼女が出て行ったはずの店の排水管に残されていたのか。 誰が嘘をつき、誰が真実を隠したのか。 400万円の積立金、秘密の帳簿、そして市場で「姉御」と呼ばれた女。 8年間沈黙していた築地の闇が、一本の排水管から静かに暴かれていく。ミステリー|行方不明1.1萬字5 80 -
完結第13話
梅の下に眠る不動産王
1995年、東京に50棟のビルを持つ不動産王・宇井源一郎が、ある夜突然姿を消した。 会長室には、読みかけの新聞、置き忘れた老眼鏡、そして冷え切った一杯のお茶だけが残されていた。専属運転手を帰し、「今日は歩いて帰る」と告げたのを最後に、彼の行方は分からなくなる。 誘拐、逃亡、裏社会との関係――。世間はさまざまな噂を立てたが、身代金の要求もなく、遺体も見つからないまま事件は迷宮入りしていく。 それから8年後。 山形の小さな町で亡くなった元駐在巡査の遺品から、1冊の古い手帳が見つかる。そこには、失踪当日の朝、宇井源一郎がある古い墓の前に立っていたという、たった1行の記録が残されていた。 なぜ東京の不動産王は、誰も知らない山あいの墓地にいたのか。 そして、その墓に刻まれていた名前は、彼の人生そのものを揺るがすものだった。 8年間、会長室に残された冷えたお茶の謎を忘れられなかった刑事が、封じられた過去へとたどり着く。ミステリー|行方不明1.9萬字5 124