"熱海失踪、2時12分のポケベル" 第7話
田はしれた所から、その作業を見つめていた。
蓋がけられた、現の空気が変わった。
誰もきな声をさなかった。
田もづかなかった。
づかなくても分かった。
6探し続けられていた美緒が、そこにいた。
周辺の農は、そののを何度も通っていた。
には田植えをし、にはを引き、には稲を刈る。
誰かが蓋のへ腰をろし、休んだこともあったかもしれない。
それでも誰も、そのに何が隠されているのからなかった。
鑑定結果がまとまるまで、さらにが必だった。
期にあったため、因を完全に断定することはできなかった。
ただ、首の骨に損傷があり、部にもい衝撃を受けた痕跡が確認された。
事故だったのか。
故だったのか。
6という歳は、くの証拠を奪っていた。
しかし田は、別の方法で健を追い詰めようとしていた。
健が最初の任聴取に呼ばれたのは、199910だった。
取調へ入ってきた健は、6と同じように落ち着いていた。
子へ座ると田の目を真っ直ぐ見て、自分から尋ねた。
「何のご用でしょうか」
田は机のに宿帳のコピーを置いた。
「博という物をっていますか」
健は度だけ瞬きをした。
「りません」
田はの名に赤線を引いた宿帳を健のへ滑らせた。
広告
「1993、美緒さんと同じ旅館に泊まっていました」
「それが私と何の関係が?」
次に、ポケベルの記録をした。
午212分。
発信元の公衆話。
位置を示す図。
健は資料を見たが、顔を変えなかった。
「記憶にありません」
「その夜、あなたは朝まで眠っていたと言っていますね」
「酒をんでいましたから」
「ポケベルが鳴っても気づかなかった?」
「そういうこともあるでしょう」
田は最に、の供述調をした。
健はゆっくり読み始めた。
読み終えるまで、表は変わらなかった。
そしてを机へ戻した。
「作り話ですね」
「さんをらない?」
「りません」
そのの聴取だけでは、健を逮捕できなかった。
は事件に関与した当事者である。弁護側にてば、「自分の罪を軽くするため健へ責任を押しつけている」と攻撃することができる。
田には、さらに客観な証拠が必だった。
そこで健の会社の帳簿、座、過の取引記録まで調べ始めた。
段ボール箱に入った量の資料が警察署へ運び込まれた。
何も数字を追い続ける。
すると事件の1992、健の会社に自然なのきがあることが分かった。
当、会社は資繰りが悪化していた。
取引先の社は田へ話した。
「92頃は相当苦しかったといますよ。急に支払いが遅れることもありました」
広告
「そのは?」
「急に持ち直したんです。どこかからまとまったが入ったみたいで」
記録を見ると、健の会社へきな入があった。
名義は佐藤茂。
由と美緒の父親だった。
田は由を訪ねた。
「1992頃、ご主の会社へお父様がおを貸していませんか」
由はしばらく考え、頷いた。
「あります。夫の会社が苦しいと聞いて、私から父に相談したんです」
「返済されましたか」
由は首を横に振った。
「父が、返さなくていいと言いました。娘をよろしく頼むって」
田はそこで言葉を選んだ。
「お父様には、財産がありますね」
由が顔をげた。
「それが何か?」
「将来、お父様がくなられた、美緒さんにも相続分があります」
由の表が変わった。
田が考えていたのは単純な構図だった。
父親の財産は、娘である由と美緒が相続する。
美緒がいなければ、由が受け取る割は増える。
そして由と計を共する夫、健も、その利益を受けるにあった。
借で追い詰められていた男。
義父の資産。
同居を続ける義妹。
その裏に銭ながなかったのか。
田は健を2度目の聴取へ呼びした。
机のへ記録を置く。
「義父さんに助けてもらったんですね」
健は資料を見て答えた。
「援助してもらっただけです。それが犯罪ですか」
「犯罪ではありません」
田はもう1枚の資料をした。
事件3、健の会社の固定話からの番号へ発信された記録だった。
広告
おすすめ作品
-
完結第9話
水底に沈めた嘘
1997年11月、長野県安曇野の貯水池へ釣りに出かけた木村俊助は、そのまま姿を消した。 現場にはトラックと釣り竿、そして一度も手をつけられていない弁当箱だけが残されていた。水門の左、3本目の柳の木の下。そこに竿は立てられていたのに、俊助本人の姿だけがどこにもなかった。 妻・文江は「夫が帰ってこない」と夜になって警察へ通報する。警察は事故や失踪の可能性を調べたが、決定的な証拠は見つからず、事件は長い時間の中へ沈んでいった。 しかし、見過ごされた違和感は残っていた。 遅すぎた通報。消えた夫に払い続けられたポケットベル料金。再生されなかった23件の音声。失踪からわずか3日後の保険会社への問い合わせ。そして、夫の口座から流れていた謎の金。 7年後、貯水池の浚渫工事が始まった時、泥の底から黒い包みが引き上げられる。 水面に浮かび上がったのは、1人の男の行方だけではなかった。 妻が長年隠し続けた計画と、沈めたはずの嘘だった――。ミステリー|行方不明1.3萬字5 0 -
完結第8話
10年目のボイラー室
1992年秋、長野県木曽川沿いの古い旅館に、名古屋から1人の旅行客・山田誠が訪れた。 紅葉を見て、川沿いを歩き、週明けには会社へ戻るはずだった、ごく普通の一人旅。だが翌日、山田は荷物を部屋に残したまま姿を消してしまう。 川にも山にも痕跡はなく、旅館の関係者たちの証言もどこか食い違っていた。従業員の曖昧な目撃談、正午頃に聞こえた男2人の声、そして午後4時にかかってきた正体不明の電話。 真相が分からないまま、事件は10年の沈黙に包まれる。 そして2002年、廃業した旅館の解体工事中、1階奥のボイラー室で不自然に塗り直された床が見つかる。 そこには、誰かが長い年月封じ込めてきたものが眠っていた――。ミステリー|行方不明1.2萬字5 0 -
完結第8話
鳴らなかったホイッスル
1988年、紅葉シーズンの箱根峠で、23歳の女性バスガイド・高橋美咲が突然姿を消した。 乗客確認のために濃い霧の中へ降りた彼女は、そのまま戻らなかった。警察は生活苦による失踪と判断したが、高校生だった弟・健二だけは、姉が自分を置いて消えるはずがないと信じ続けていた。 それから15年後。 台風で崩れかけた休憩所の擁壁から、髪の毛が絡みついた「ちぎれたホイッスルの紐」が見つかる。それは、美咲が仕事中に首から下げていたものと酷似していた。 姉は本当に自ら姿を消したのか。 霧の夜に響いた鈍い音、消された運行記録、事件直後に退職した運転手。 15年間封じ込められていた峠の秘密が、冷たい擁壁の隙間から静かに姿を現し始める。ミステリー|行方不明1.1萬字5 147 -
完結第7話
水槽裏の金歯
2002年、ワールドカップで街が沸いていた夜。築地の海鮮居酒屋で開かれた積立会の宴会中、400万円を受け取った魚屋の妻・鈴木恵子が突然姿を消した。 最後に見られたのは、黒いバッグを抱えてトイレへ向かう後ろ姿。財布も携帯も残らず、彼女はそのまま築地の夜から消えた。 夫の健一は「妻は逃げるような女じゃない」と訴え続けたが、ギャンブル癖と夫婦喧嘩の噂から疑いの目を向けられる。さらに、店長の証言と積立会の代表・高橋義子の涙ながらの話によって、事件は“夫から逃げた家出”として処理されてしまう。 それから8年後。 閉店した海鮮居酒屋の改修工事中、水槽裏の排水管から、泥にまみれた小さな金歯が見つかる。 それは、失踪した恵子の前歯にあったものだった。 なぜ金歯は、彼女が出て行ったはずの店の排水管に残されていたのか。 誰が嘘をつき、誰が真実を隠したのか。 400万円の積立金、秘密の帳簿、そして市場で「姉御」と呼ばれた女。 8年間沈黙していた築地の闇が、一本の排水管から静かに暴かれていく。ミステリー|行方不明1.1萬字5 80 -
完結第13話
梅の下に眠る不動産王
1995年、東京に50棟のビルを持つ不動産王・宇井源一郎が、ある夜突然姿を消した。 会長室には、読みかけの新聞、置き忘れた老眼鏡、そして冷え切った一杯のお茶だけが残されていた。専属運転手を帰し、「今日は歩いて帰る」と告げたのを最後に、彼の行方は分からなくなる。 誘拐、逃亡、裏社会との関係――。世間はさまざまな噂を立てたが、身代金の要求もなく、遺体も見つからないまま事件は迷宮入りしていく。 それから8年後。 山形の小さな町で亡くなった元駐在巡査の遺品から、1冊の古い手帳が見つかる。そこには、失踪当日の朝、宇井源一郎がある古い墓の前に立っていたという、たった1行の記録が残されていた。 なぜ東京の不動産王は、誰も知らない山あいの墓地にいたのか。 そして、その墓に刻まれていた名前は、彼の人生そのものを揺るがすものだった。 8年間、会長室に残された冷えたお茶の謎を忘れられなかった刑事が、封じられた過去へとたどり着く。ミステリー|行方不明1.9萬字5 124