"熱海失踪、2時12分のポケベル" 第3話
美緒の部へ入ると、健は残された荷物といた窓を順番に見た。
「夜に、トイレへくような音を聞いた気がするけどな」
「トイレ?」
「ちょっとの空気でも吸いにったんじゃないか」
由は夫の顔を見た。
「財布も何も持ってないのよ。スリッパのままなのに?」
「丈夫だよ。なんだから、すぐ戻ってくるさ」
健はそう言って、妻の肩を抱いた。
その調はあまりにも落ち着いていた。
由は混乱していたため、その自然さをく考える余裕がなかった。
午10を過ぎても、美緒は戻らなかった。
11になり、チェックアウトのを過ぎても戻らない。由はロビーのソファに座り、入がくたびに顔をげた。
だが、妹が現れることはなかった。
その頃、旅館では別の奇妙な来事が起きていた。
同じ2階の廊の突き当たりに宿泊していた男性が、通常よりかなりいにチェックアウトしていたのだ。
フロントの従業員はにこう話している。
「ずっとを向いていました。ほとんど喋らず、急いで帰りたいようなじでした」
宿帳にかれていた名は、博。
所は京都内になっていた。
ところがに確認すると、その所は実しないものだった。
さらに3階には、別の名を使って宿泊していたとみられる女性客もいた。
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しかし、この2が当初の捜査でく調べられることはなかった。
昼頃、由はすがるようないで警察へ駆け込んだ。
窓の警察官へ、財布も分証も残したまま妹が消えたことを必に説した。
しかし返ってきたのは、あまりにも事務な言葉だった。
「成女性ですよね」
「はい。でも、妹はこんなことをするじゃありません」
「し気分転換にかけただけかもしれませんよ。就職活で悩んでいたという話ですし、しばらく待ってみましょう」
「財布も置いたままなんです!」
由が声をげても、対応は変わらなかった。
そのの午、鈴警部補が旅館を訪れた。
当40代半。経験のある刑事だったが、現確認はで終わった。
美緒の部を見て、フロントへいくつか質問し、由と健から事を聞く。
作成された初期報告には、美緒が就職活の失敗による精神から、自発に姿を消した能性がいと記されていた。
そのを渡された、由はりでを震わせた。
「妹のを、こんな1枚ので終わらせるんですか」
鈴は困ったように線を落とした。
「奥さん、もうし待ってください。若いがい詰めて、突然どこかへってしまう例もありますから」
「美緒は戻ってきますか」
鈴は答えられなかった。
そして実際、その「数」
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が訪れることはなかった。
1週が過ぎた。
1かが過ぎた。
それでも美緒から連絡はなかった。
由は毎週のように警察署へ通った。の旅館、、コンビニ、駅、バスターミナルまで、自分ので歩いて妹の写真を見せた。
「この女性を見ませんでしたか」
何百回、その言葉を繰り返したか分からない。
しかし、事件の夜以、美緒を確実に見たというは現れなかった。
その、誰よりも由を支えたのが健だった。
由が警察へくと言えばをし、美緒の写真を何枚も焼き増しした。尋ねのチラシを作り、商の主へをげて貼らせてもらった。
駅でたいに晒されながら、何もチラシを配ったこともある。
「義妹を探しています。どんなさな報でも構いません」
健の声は次第に嗄れていった。
その姿を見た親戚たちはを打たれた。
「健さんは本当に族いだね」
「由が壊れずにいられるのも、あのが支えてくれているからだよ」
誰も疑わなかった。
由も疑わなかった。
警察でさえ、健を「妹を配する義兄」としか見ていなかった。
しかしに捜査記録を見直した、健のにはいくつものさな空が残されていた。
失踪翌、由が警察で事を聞かれていた、健は「トイレへってくる」と席をっている。
戻ってきたのは約20分だった。
交番のトイレはすぐくにあり、普通なら数分で戻れる。
だが当、その20分に何をしていたのか尋ねた者はいなかった。