"熱海失踪、2時12分のポケベル" 第1話
199310、バブル崩壊のたい空気が本社会を覆い始めていた頃だった。景気の退は企業の採用にもを落とし、それまで売りと呼ばれていた就職活の景は、しずつ厳しいものへと変わっていた。
佐藤美緒は26歳だった。京の堅製造会社をはじめ、何社もの採用試験を受けていたが、類選考を通過しても最終面接で落とされることが続いていた。
数に郵便受けへ入れられるい封筒を見るたび、美緒は封するからを察するようになっていた。丁寧な言葉で採用を告げる切れが、しずつ彼女の自信を削っていった。
2度目の採用通を受け取ったの夜、美緒は卓のに座ったまま、ほとんど箸をかさなかった。茶碗からっていた湯気が消えていくのを、俯いたまま見つめていた。
「美緒、しでもべた方がいいよ」
姉の由が声をかけても、美緒はさく首を横に振った。
「お姉ちゃん、ごめんね」
その言を聞くたび、由の胸は締めつけられた。美緒が京にてきて、姉夫婦のアパートで暮らし始めてから、すでに8かが過ぎていた。
「就職が決まったら、すぐにていくから」
美緒は何度もそう言っていた。しかし、本がどれほど努力しても就職先は決まらず、1暮らしを始める予定だけが先へ延びていった。
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由はそんな妹の背を見ながら、何とか気持ちを切り替えさせたいとっていた。だが励まそうとすればするほど、美緒が自分を責めてしまうような気がして、どんな言葉をかければいいのか分からなかった。
苦しい空気を破ったのは、由の夫である健だった。
当34歳。健は建設資材を扱うさな会社を経営しており、物腰が柔らかく、取引先にも親族にも評判の良い男だった。
親戚の集まりでは、由に向かって「あんな優しい旦さんをもらって良かったね」と言うもなくなかった。実際、では声を荒らげることもなく、美緒が期同居していても嫌な顔ひとつ見せなかった。
ある晩、健は肩を落として並んで座る姉妹を見て、穏やかな声をかけた。
「温泉にでもこうか」
由と美緒が同に顔をげると、健は微笑んだ。
「温かい湯にゆっくり浸かれば、しは気分もれるだろ。ずっとにいても考え込むだけだし」
由は妹の顔を見た。美緒は戸惑っていたが、やがて申し訳なさそうに笑った。
「私もっていいの?」
「もちろん。そのための旅だよ」
そうして、3でへくことが決まった。
旅のは、その週の曜だった。京駅から幹線に乗り、窓のを流れるビル群を眺めているうちに、景はしずつづき始めた々へ変わっていった。
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午2頃、3は駅へりった。
10のは、でも肌寒さをじる季節だった。温泉へ入ると、湿った空気のに温泉特の匂いが漂い、には昭の面を残した古い旅館が肩を寄せるように並んでいた。
3が予約していたのは、駅から歩いて10分ほどの所にある3階建ての旅館だった。
2階に2部が用されていた。由と健が使う部が1つ、その隣に美緒が1で使う部が1つだった。
フロントで続きをした従業員は、に警察へ、3に自然な様子はなかったと証言している。
「女性のお2は楽しそうに話していました。男性の方がきな荷物を全部持って、ろからついてきていましたね」
健は美緒のボストンバッグまで持ち、文句ひとつ言わなかった。誰が見ても、妻と義妹を気遣う優しい夫だった。
荷物を置くと、3は旅館の浴へ向かった。
由と美緒は並んで女湯の簾をくぐった。湯気に包まれた浴へ入り、広い湯に肩まで浸かると、美緒の顔から久しぶりに緊張が消えた。
「お湯、気持ちいいね」
美緒がさく笑った。
由は、その横顔を見て胸を撫でろした。ここ数週、妹がこんなふうに自然に笑う姿を見ていなかったからだ。
「来て良かったね」
「うん。お姉ちゃん、ありがとう」
「私は何もしてないよ。旅を言いしたのは健だから」
美緒は湯気の向こうで、もう度笑った。
1ほど温泉を楽しみ、夕暮れがづいた頃、3は浴姿で旅館をた。