"追放母の25億売却" 第5話
この姿が、息子夫婦には恥ずかしかったのだろうか。この姿が華やかな活の汚点に見えたのだろうか。
は鏡のの自分を見つめ、ゆっくりと顔をげた。
その瞳の奥には、これまで自分でも見たことのないが宿っていた。涙に濡れた々しいでも、すべてを諦めた空虚なでもない。
すべてを焼き尽くす炎のようでありながら、同に凍りつくほどたい覚悟のだった。
「あんたは今まで、よう頑張ってきた」
は鏡のの自分へ語りかけた。
「本当に、ようやった。でもね、もういいとよ」
息子のためにきること。母親として尽くし続けること。
それがののすべてだった。
しかし、そのすべてを否定されたのなら、もう母親であり続ける必はない。彼らのために自分を犠牲にする理由もない。
「もう、やめよう」
その言葉が、胸ので静かに響いた。
それはすべての終わりであり、同に本当の始まりを告げる図だった。息子だけのためにきてきた田が終わり、1のとしての田がまれた瞬だった。
パウダールームからたは、健太と里奈のへ戻った。先ほどまでとは違う、どこか吹っ切れた穏やかな笑みを浮かべている。
「マロンちゃんのこと、分かったよ。事もホテルも配せんでよか」
「じゃあ、からよろしくお願いしますね」
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里奈は堵したように微笑んだ。
はそれ以何も言わず、ペントハウスをた。エレベーターの扉が閉まる直、彼女の元に浮かんだ笑みが氷のようにたかったことに、息子夫婦は気づかなかった。
ビジネスホテルへ戻ったは、もう涙を流さなかった。は嵐が通り過ぎたののように、気なほど静まり返っていた。
ベッドへ腰をろし、使い込んだスーツケースをく。奥から丁寧に布へ包まれた古い帳を取りした。
表は擦り切れ、角は丸くなっている。優をくしてから、が何度もきしながら持ち続けてきたものだった。
ページをめくると、懐かしい名が並んでいた。そのにある「桜子」という文字ので、の指が止まる。
建設現でともに汗を流し、互いを支えった戦友。が音を吐ける数ない友だった。
現をれてからもしばらく賀状を送りっていたが、それぞれの活が変わり、いつしか連絡は途絶えた。最に声を聞いたのは、もう20以になる。
は記された話番号を、1桁ずつ確かめながらスマートフォンへ入力した。夜に話をするのは非常識だと分かっていたが、今の彼女をかしているのは礼儀ではなかった。
呼びし音が静かな部へ響く。
3回、4回。
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さすがに古い番号は使われていないのかもしれない。諦めて切ろうとした、話がつながった。
「もしもし」
しかすれてはいたが、違いなく記憶にある力い声だった。
の臓が、さくねた。
「子さん。私、田です。覚えとる?」
瞬の沈黙があった。は息を止め、相の反応を待った。
「? 崎の、あのかい?」
話の向こうで、驚きとびが入り混じった声が弾けた。
「あんた、きてたのかい。急にどうしたんだ、こんなに。何かあったんだろう?」
昔と変わらない気遣いに触れた瞬、の目から筋の涙が流れた。しかしその涙は、ホテルへ追いされたに流したものとは違っていた。
「うん。久しぶり。声が聞けてよかった」
「元気そうでよかった、じゃないよ。何があったのか、言ってみな」
は度く息を吸った。
「子さん、今、京におると」
「京に?」
「お願いがあるの。に、麻布にあるペントハウスを1つ売ってほしい」
話の向こうで、子が息をんだ。
現をれた、子は経験と脈をかして産業を始めた。今では業界で名をられるほどの経営者になっていると、の噂で聞いていた。
だからこそ、はこの話をかけた。
「麻布のペントハウスとは、また随分きな話だね。どこの物件だい?」
はマンションの名称と部番号を、迷いなく告げた。
「あんた、それってに滅にない、あの最階の物件じゃないか」
子の声が変わった。