"鳴らなかったホイッスル" 第4話
しかし、その怯え方こそが、何かを目撃していた証拠だった。
健に残されたはなかった。
当の法律では殺罪にも公訴効があり、美咲が消えてから15となる20031013が迫っていた。
擁壁へづこうとしても、警備員たちに阻止された。
会が訪れたのは、激しいがった夜だった。
午3。暴によって警備員の巡回が乱れた隙を突き、健は具を持って現へ向かった。
最も暗い所の網を切断し、1が通れる穴を作った。のをうようにみ、の紐を発見した擁壁のへたどり着く。
懐灯をにくわえ、のみとハンマーでコンクリートをしずつ削った。
30分ほど経った頃、内側の面に4本のい傷が現れた。
の爪で引っかいた痕だった。
傷はからへ向かって何度もなっていた。閉じ込められた誰かが、必に壁をかきむしったとしかえない形だった。
「姉ちゃん……」
爪痕のには、黒みを帯びた青の布が挟まっていた。
美咲が着ていたバスガイドの制と同じだった。
さらに隣の隙から、さな透の破片がてきた。
建設現で資材を扱ってきた健には、それが何かすぐに分かった。ガラスではない。自用ヘッドライトのレンズだった。
しかも、1980代半の型バスに使用されていた材質に見えた。
広告
健は髪の毛の絡んだ紐、制の布片、レンズの破片を証拠袋へ入れた。
その、くで懐灯がいた。
「おい! そこに誰かいるぞ!」
警備員たちがってくる。
健は証拠袋を内ポケットへ押し込み、網の穴へ向かってった。でぬかるんだ面にを取られ、何度も転倒した。
網をくぐる際、着が引っかかってきく裂けた。
「次に来たら、ただじゃ済まないぞ!」
鳴り声を背に受けながら、健は暗いへ逃れた。
全はまみれだったが、その胸には15で初めて確かな希望がまれていた。
夜がけると、健は警庁へ向かった。
未解決事件を担当する藤刑事は、以から健の相談を何度も受けていた。これまでは力な証拠がなく、正式な再捜査には至らなかった。
「また箱根の事件ですか」
藤は慎な表で健を見た。
「今回は違います」
健は証拠袋を机に置いた。
「姉の髪かもしれないものと、バスの部品を見つけました。鑑定してください」
「どこで入したんです」
「姉が消えた休憩所の擁壁です」
藤はしばらく無言で袋のを確認した。
「公訴効まで、もう1かもありません」
健の声は震えていた。
「鑑定だけでもお願いします」
藤は証拠袋をに取り、科学捜査研究所へ緊急鑑定を依頼した。
3、結果がた。
レンズの破片は、1988当に使用されていた観バスのヘッドライト部品と極めてい致を示した。
広告
髪の毛から抽されたミトコンドリアDNAも、健の母系血縁と致した。
藤は報告を閉じた。
「違いありません。この髪は、あなたのお姉さんのものと考えていいでしょう」
健は子に座ったまま、両で顔を覆った。
「姉ちゃんは……やっぱり、あそこにいたんですね」
美咲の失踪事件は、15ぶりに殺事件の能性がある事案として再捜査されることになった。
再捜査チームは、島が事件当に勤務していた会社の備記録を調べた。
そこで、事件翌の19881015、問題の観バスのヘッドライトが全面交換されていた事実が判した。
さらに、島が提した運記録の部分だけが読めなくなっていたことも、改めて自然な点として浮した。
だが、状況証拠だけでは逮捕できない。
藤と健は、唯の目撃者とわれる鈴老を再び訪ねた。
しかし、売は閉ざされていた。
扉には「期休業」のが貼られている。隣の主によれば、鈴は数、突然郊の老ホームへ入ったという。
「施設にはきたくないと、ずっと言っていたなんですけどね」
調べると、入所費用は匿名の支援者によって払いされていた。
さらに、部のとの面会を禁止するよう、施設側へく求められていた。
藤は島の関与を疑った。
健は清掃補助員として老ホームへ入り込むことを決めた。
広告
おすすめ作品
-
完結第7話
水槽裏の金歯
2002年、ワールドカップで街が沸いていた夜。築地の海鮮居酒屋で開かれた積立会の宴会中、400万円を受け取った魚屋の妻・鈴木恵子が突然姿を消した。 最後に見られたのは、黒いバッグを抱えてトイレへ向かう後ろ姿。財布も携帯も残らず、彼女はそのまま築地の夜から消えた。 夫の健一は「妻は逃げるような女じゃない」と訴え続けたが、ギャンブル癖と夫婦喧嘩の噂から疑いの目を向けられる。さらに、店長の証言と積立会の代表・高橋義子の涙ながらの話によって、事件は“夫から逃げた家出”として処理されてしまう。 それから8年後。 閉店した海鮮居酒屋の改修工事中、水槽裏の排水管から、泥にまみれた小さな金歯が見つかる。 それは、失踪した恵子の前歯にあったものだった。 なぜ金歯は、彼女が出て行ったはずの店の排水管に残されていたのか。 誰が嘘をつき、誰が真実を隠したのか。 400万円の積立金、秘密の帳簿、そして市場で「姉御」と呼ばれた女。 8年間沈黙していた築地の闇が、一本の排水管から静かに暴かれていく。ミステリー|行方不明1.1萬字5 25 -
完結第13話
梅の下に眠る不動産王
1995年、東京に50棟のビルを持つ不動産王・宇井源一郎が、ある夜突然姿を消した。 会長室には、読みかけの新聞、置き忘れた老眼鏡、そして冷え切った一杯のお茶だけが残されていた。専属運転手を帰し、「今日は歩いて帰る」と告げたのを最後に、彼の行方は分からなくなる。 誘拐、逃亡、裏社会との関係――。世間はさまざまな噂を立てたが、身代金の要求もなく、遺体も見つからないまま事件は迷宮入りしていく。 それから8年後。 山形の小さな町で亡くなった元駐在巡査の遺品から、1冊の古い手帳が見つかる。そこには、失踪当日の朝、宇井源一郎がある古い墓の前に立っていたという、たった1行の記録が残されていた。 なぜ東京の不動産王は、誰も知らない山あいの墓地にいたのか。 そして、その墓に刻まれていた名前は、彼の人生そのものを揺るがすものだった。 8年間、会長室に残された冷えたお茶の謎を忘れられなかった刑事が、封じられた過去へとたどり着く。ミステリー|行方不明1.9萬字5 7 -
完結第10話
兄の嘘、妹のリボン
2014年11月、再開発予定地の暗い路地で、17歳の女子高生・中村幸が遺体となって発見された。 自宅まで残りわずか100m。彼女の手には、兄への誕生日プレゼントが固く握られていた。 警察は当初、現場付近にいた前科のある男を疑う。だが捜査は決定打を欠き、事件は未解決のまま時間だけが過ぎていった。 誰よりも妹を思い、涙ながらに情報提供を呼びかけていた兄・拓也。家族も町の人々も、彼だけは疑わなかった。 しかし4年後、取り壊し前の家から封印された一通の封筒が見つかる。 そこに隠されていたのは、兄が守り続けた大きな嘘だった。 最後まで兄を信じていた妹は、なぜ家のすぐ近くで命を奪われたのか。 リボンの結び目に残された小さな痕跡が、誰も見ようとしなかった真実を暴き出す――。ミステリー|行方不明1.4萬字5 101 -
完結第9話
午後4時の失踪日記
1998年8月15日、夏の白浜海水浴場で、大学生の佐藤健二が忽然と姿を消した。 友人たちが海で遊んでいる間、健二は1人で荷物番をしていたはずだった。だが戻ってきた時、敷物の上に残されていたのは、揃えられた運動靴と読みかけの専門書だけ。本人の姿も、鞄も、どこにもなかった。 事故なのか、自ら消えたのか、それとも誰かに呼び出されたのか。 手がかりのないまま、家族の時間は止まり、事件は長い沈黙の中へ埋もれていく。 それから12年後。 白浜町の小さな中古品店で、健二の学生証が入った古い鞄が見つかる。さらに内ポケットから出てきた日記には、失踪直前の彼が抱えていた“ある人物”との金銭トラブルが記されていた。 日記に何度も登場する謎の頭文字「K」。 そして最後のページに残された一文。 〈今日、全てが決まるだろう〉 午後4時、健二は誰と会い、何を決めようとしていたのか。 12年後に見つかった日記が、消えた大学生の夏を再び動かし始める。ミステリー|行方不明1.3萬字5 327 -
完結第9話
8年目の遺失物
1997年8月、東名高速道路の富士川サービスエリアで、28歳の岡田裕子が突然姿を消した。 夫と車で帰宅する途中、トイレへ行くと言って車を降りたまま戻らなかった裕子。夫はその場で通報せず、1人で車を出し、失踪届が出されたのは3日後だった。 財布も身分証も、幼い息子と写った家族写真も見つからないまま、事件は未解決のまま時だけが過ぎていく。 そして8年後。 遺失物センターの棚の奥から、古びたベージュ色のバッグが発見される。中には裕子の身分証、家族写真、そして震える文字で書かれた手紙が残されていた。 「私は今、1人では家に帰ることができません」 あの夜、裕子は本当に消えたのか。 夫はなぜ、妻を残して走り去ったのか。 そして、バッグを届けた“別の女性”は何を知っていたのか。 8年間止まっていた家族の時間が、古いバッグの中の手紙によって、静かに動き始める。ミステリー|行方不明1.3萬字5 489