"喪服の離婚届" 第5話
「お、本当に俺の言うことが聞けないのか。俺の仕事にも活にも関係ない親父の法事なんか、く価値がないと言っただろ」
「私の父を、これ以侮辱しないでください」
誠治の顔にりが浮かんだ。
彼はに斎へ向かい、1枚のを持って戻ってきた。
そして、そのを私のへ投げつけた。
いが玄関のたいにい落ちる。
番には、緑の太い文字で「婚届」と印刷されていた。
夫の署名欄には、すでに誠治の名が乱暴な字でかれている。
「歩でもにてみろ」
誠治は私を見ろし、酷な声で言った。
「そのときは、この結婚は終わりだ」
照代も満そうに腕を組んだ。
「そうよ。実、実って、いつまで娘気分でいるつもりなの。ここで謝って台所へ戻るなら、今回のことは目に見てあげるわ」
は、私が泣いてすがると信じていた。
帰る所のない嫁が、婚という言葉に怯え、ひれ伏すのを待っていた。
10、私が見せ続けてきた従順さが、その確信を作ったのだ。
私はゆっくり膝をつき、に落ちた婚届を拾った。
誠治は勝ち誇った顔で見ろしている。
私はちがると、提げからボールペンを取りし、靴箱のに婚届を広げた。
「おい。何をしている」
私は答えず、ペンをらせた。
自分の名、、所。
すべての欄を迷うことなく埋めていく。
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最に印鑑を取りし、朱肉をつけて押した。
乾いた音が、玄関にさく響いた。
誠治の顔から、余裕が消えた。
「お、本気でいたのか」
照代が慌てて歩へた。
「脅しに決まっているでしょう。本気にしてどうするの。嫁のくせに、そんな態度で世様に顔向けできるとっているの?」
私は婚届を丁寧につ折りにし、い封筒へ入れた。
「父の法事へきます。そして、もうこのには戻りません」
誠治が血相を変え、私の腕を掴もうとした。
私は半歩がり、そのを避けた。
「触らないでください」
きな声ではなかった。
けれど、10で初めて彼らへ向けた確な拒絶だった。
「悔するわよ。嫁がを捨てて、できていけるわけがないじゃない」
照代の鳴り声を背に受けながら、私は玄関の扉をけた。
「戻ってきても、度とには入れないからな!」
誠治の焦った声が響いた。
私は度も振り返らず、へた。
の朝のたいが、照った頬を撫でた。
あのの空気より、の世界はずっと息がしやすかった。
に乗ると、曜の朝の内は空いていた。
私は座席に座り、兄へいメッセージを送った。
――今、をました。彼が用した婚届にも署名しました。
数分、返信が届いた。
――よく決断した。法事が終わったら、すぐ弁護士へ連絡しよう。
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記録は財産分与や慰謝料請求のな証拠になる。
私は帳をいた。
誠治が夜に帰った付。自然な費。隠し座への入。照代に渡していた。
に任せて泣き叫ぶのではない。
事実と証拠によって、彼と決別するのだ。
1、は実のある町へ着いた。
改札を抜けると、たいのに懐かしい匂いが混じっていた。
古いのにち、引き戸をける。
廊の奥から母がりでてきた。
私の喪と提げを見ると、母は何も聞かず、く抱きしめてくれた。
その温かさに触れた瞬、胸の奥で張り詰めていた糸が緩んだ。
仏には、線の静かなりが満ちていた。
仏壇の央で、父の写真が穏やかに微笑んでいる。
私は座布団に正座し、提げから数珠を取りした。
「お父さん。遅くなって、ごめんなさい」
目を閉じると、父の声が聞こえた気がした。
自分ので選びなさい。
ただし、選んだから逃げるな。
私は今、ようやく自分ので帰ってきたのだ。
法が終わると、兄の直が隣に座った。
「本当に、これでいいんだな」
私は迷わず頷いた。
「もう、誠治の処分を待ってほしいとは言わない。会社として必な続きをめて」
兄は仏壇の父を見つめた。
「父さんがきていたら、きっと同じことを言った。族だから許すことと、会社を壊されることは別の問題だからな」
翌朝、私は実の斎で印鑑を探していた。
父がくなってから、ほとんど当のまま残された部だった。