"喪服の離婚届" 第4話
ろくな財産も残さずんで、あなたは何の役にもたないじゃない」
私は言葉を失った。
「うちの息子は、誰もがる企業のエリートなのよ。何のろ盾もない女をもらってやったんだから、ぬまでこのに尽くしなさい」
夫が勤めるその会社こそ、父が創業した会社だった。
けれど私は、誠治のプライドを守るために、ずっと事実を伏せてきた。
肩きではなく、の妻として向きいたかったからだ。
しかし、その配慮によって父のまで侮辱されている。
私が守ってきた沈黙は、優しさではなかった。
ただの逃げだったのかもしれない。
そのの夜、玄関先で誠治が話をしている声が聞こえた。
「だから、内部監査なんて聞いてないぞ。佐藤材の件は、絶対に俺の名がないようにしろ。メールの履歴も全部消せと言っただろ。くしろ」
声はひどく焦っていた。
話を終えた誠治は、青い顔で居へ入ってきた。
「おい、たいお茶を持ってこい」
私が湯呑みを差しすと、彼は乱暴に受け取った。
「お、本当に曜に帰るつもりか」
「ええ。そのつもりです」
「ふざけるな。俺は今、会社でな期なんだ。親戚ので、俺の嫁が勝な真似をしていると噂になったらどうする」
「父の法事は、あなたの会社での評価とは関係ありません」
誠治はで笑った。
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「おの親父の法事なんか、俺のには1円の価値もない。どうせしたじゃないんだから、きている俺の邪魔をするな」
その瞬、のの何かが完全にえ切った。
父がいてくれた扉を通り、父が作った会社で正を働き、その父を侮辱する。
私は、こんな男の自尊を守るために、10も息を潜めていたのだ。
「分かりました」
静かにそう答えると、誠治は私が屈したとったのか、満そうに自へ戻った。
夜、兄からメッセージが届いた。
調査委員会の事面談で、誠治は正なについて、妻の実が借を抱えており、援助を求められたためだと弁しているという。
私は画面を握りしめた。
彼は自分の罪から逃れるため、私の実を借まみれのに仕てげた。
よりにもよって、彼を会社へ入れた父を。
もう、絶対に許してはいけない。
その夜、私は初めて、はっきりとそうった。
曜の朝、空はのが嘘のようにれ渡っていた。
私は黒い喪に袖を通し、さな提げに数珠と典を入れた。
鏡のには、照代の顔をうかがっていた昨までの嫁はいなかった。
父の娘として、静かな決を持つの女がっていた。
スマートフォンに母からいメッセージが届いた。
――無理しなくていいからね。
胸の奥が締めつけられた。
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母は、私がどれほど肩の狭いいをしているか、々気づいていたのだろう。だから、波をててまで帰らなくていいと気遣ってくれた。
その優しさが痛いほど伝わったからこそ、私はどうしても帰らなければならなかった。
続いて、兄から画像が届いた。
社内懲戒委員会の内部資料だった。
そこには誠治の名と、社内データの持ちし、勤務記録の改ざん、取引先からの適切な銭受領が記載されていた。
番には、こうあった。
――対象社員は、曜午8をもって、すべての権限を止する。
私は画面を閉じ、提げを握った。
部をて玄関へ向かい、黒いパンプスを履こうとしたとき、照代が着物姿で廊へてきた。
「ちょっと、由佳さん。あなた、本当にその格好でかけるつもりなの?」
「はい。からお伝えしていた通り、父の法事へきます」
「今はうちの親戚が来る事なよ。嫁がを空けて、んだ父親の法事へくなんて許しません」
照代は私と玄関のにちはだかった。
「今すぐ、その汚らしいを脱いで台所へきなさい。あなたがいないと、親戚に何と説すればいいのよ」
彼女のにあるのは、親戚にどう見られるかという点だけだった。
私が10尽くしてきたことも、父への敬も、そこにはしない。
「今だけはかせてください」
静かに、しかしはっきりと言った。
そのとき、居の奥から誠治がてきた。
「朝から何を騒いでいるんだ」
寝巻き姿のまま、髪をかきながら廊へ来ると、私の喪姿を見て舌打ちした。