"喪服の離婚届" 第1話
台所の換気扇が、い音をてて回り続けていた。
私はまな板に向かい、黙々と根の皮をむいていた。朝の気が古い板のから元へ忍び込み、の靴を通して体温を奪っていく。
37歳になった私、瀬由佳にとって、これが結婚して10になるの常だった。
背の卓には、姑の照代が座っている。聞をめくりながら、ときおり面のから鋭い線を向けてきた。
「由佳さん。昨のお噌汁、しがかったわよ。うちは昔から、しっかりした付けが好みなの」
私は包丁を止めず、静かに頷いた。
「申し訳ありません。これから気をつけます」
「本当に、何度言っても覚えないんだから」
照代はきなため息をつき、再び聞へ目を落とした。
私は何も言い返さず、包丁をかし続けた。
子どものいない私たち夫婦にとって、姑との同居は息の詰まるものだった。それでも、義理の親を切にするのは嫁として当然なのだとい、私はひたすらをねてきた。
朝の片付けが終わった頃、私はい切ってをいた。
「お義母さん、今週末のことなのですが」
照代は湯呑みを置き、面倒そうに私を見た。
「何かしら」
「父の回忌法がありますので、実へ帰らせていただきます」
その言葉を聞いた途端、照代の顔があからさまに変わった。
「また実へ帰るの? こののお正にも顔をしたばかりじゃない」
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お正といっても、の挨拶のために数ち寄っただけだった。
「回忌ですので、どうしてもせません」
私がそう答えると、照代は元を歪めた。
「嫁に来たら、実より婚を優先するものよ。くなったより、今きている親を切にしなさい」
その言葉が、胸の奥をたくえぐった。
私はエプロンの端をく握りしめ、言い返したい気持ちをみ込んだ。ここで反論すれば、夫の誠治まで嫌になると分かっていたからだ。
父の勝彦は、3にくなった。
医療器の販売会社を自らちげ、社というにありながら、派な活を好まなかっただった。仕事にも庭にも厳しく、どんなときも筋を曲げなかった。
それでも、娘の私にはいを注いでくれた。
に迷った私に、父は答えを押しつけなかった。
「自分ので選びなさい。ただし、選んだから逃げるな」
温かいお茶をみながら、父は静かにそう言った。
私にとって法事は、親戚が集まるだけの儀式ではない。自分がまだどうにかきていると、父に報告する切なだった。
だから、父の回忌だけはくつもりだった。
しかし、瀬での10は、しずつ私のを削り取っていた。
お盆もお正も、私は照代の親戚を優先した。義父が入院していた頃は、毎週のように病院へ付き添った。
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その方で、自分の実へ帰る回数は々減っていった。
母から話がかかってきても、照代の目が気になり、く話すことができない。自分の根が、しずつ切りされていくような寂しさがあった。
夜になり、誠治が疲れた顔で帰宅した。
夕の席で、私はもう度、曜の法事について切りした。
「今度の曜、実へ帰らせてもらうから」
誠治は箸を止め、骨に嫌そうな顔で私を見た。
「曜って、うちの親戚が集まるだろ。母さんがおにも事の支度を伝ってもらうって言ってたぞ」
「父の回忌なのは、から伝えてあったでしょう」
すると、横で聞いていた照代がすかさずを挟んだ。
「私からも言ったのよ。きている親を優先しなさいって。それなのに、このったら聞かないのよ」
誠治はきなため息をつき、私をたい目で見据えた。
「母さんの言う通りだろ。法事くらい、別のでもいいじゃないか」
法事くらい。
その言が、私のに残っていた切なものを踏みにじった。
「別のになんて、できるわけないでしょう」
かすかに声が震えた。
誠治は嫌そうに子を引き、ちがった。
「とにかく曜はにいろ。俺の仕事にも活にも関係ないだろ」
吐き捨てるように言い残し、誠治は自へ戻っていった。
え切った卓のに、取り残された。
私が10守ってきた結婚活は、いったい何だったのだろう。