"梅の下に眠る不動産王" 第8話
50棟のビルを持ち、産王と呼ばれ、バブルの狂と崩壊をき延びた男。
その本当の名は、崎清だった。
20042の終わり、志垣は世田の宇井邸を訪れた。
最に来たのは1997のだった。駅の古い商はしいマンションへ変わっていたが、宅へ入ると細いもブロック塀も、ほとんど変わっていなかった。
製の柱は、8と同じように磨かれていた。
庭の梅が、の枝いっぱいにいをつけている。
呼び鈴を押すと、しばらくして玄関がいた。
静は70歳になっていた。
い髪をろできちんと結いげているのは以と変わらない。背はし丸くなっていたが、ち姿には変わらぬ品があった。
「刑事さん」
静は志垣の顔を見て、目をわずかに見いた。
「覚えておられますか?」
「はい。志垣さん」
7、玄関先で度会っただけの刑事の名を覚えていた。
志垣がをげると、静はへがるよう促した。
通された座敷は、8とほとんど変わっていなかった。違うのはのだけだった。
志垣は茶をみ、コートの内ポケットから封筒を取りした。
「奥さん。ご主が、弟さんの名をずっと名乗っておられたことをごじでしたか?」
静はかなかった。
膝のに置いたもかない。ただ目だけが封筒をれ、閉じられた障子の向こうへ向いた。
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い沈黙の、静は静かに頷いた。
「はい」
「いつからですか?」
「結婚するです」
静は目を伏せ、しずつ話し始めた。
宇井はを扱うさな会社を営んでいた。父親は若い源郎を働き者としてく評価し、娘の静と結婚させることを決めた。
「働き者という言葉ではりませんでした」
静はさく首を横に振った。
「寝ないでした。父が朝会社へっても、夜に戻っても、いつもあのがいたそうです」
父親が「おはいつ寝ているんだ」と尋ねると、源郎はこう答えた。
「寝ている暇はありません」
結婚が決まったのある夜、源郎は宇井を訪れた。
静の両親のに正座し、をげた。
「私は、宇井源郎ではありません」
父親も静も、最初は何を言っているのか分からなかった。
源郎は形ののこと、戦争から戻らなかった父親のこと、貧しかった母親のこと、そして病気でくした弟のことを全て話した。
「弟さんがをした、ご主は何歳だったんですか?」
「10歳だったそうです」
静は湯呑みを両で包んだ。
がなく、医者へ連れていけなかった。
3目の夜、弟は「兄ちゃん、寒い」と言った。清は自分の布団を全て弟へかけた。
それしかしてやれなかった。
4目の朝、弟はたくなっていた。
「主は、そこまで話して泣きました」
静はくを見る目をした。
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「あのが泣くのを、その初めて見ました。それから40、2度と見ませんでした」
源郎は泣きながら、自分はんだ弟の代わりにきていると言った。
母親が役へ頼み、弟の名を自分につけた。だから京へ来られ、働くことができた。
「私は弟の名で飯をっている。だから成功しなければならない。この名を、恥ずかしくない名にしなければならない」
そう言って畳へをつけた。
「こんな男でも、娘さんをいただけますか」
志垣は、あの会をいした。
壁に絵の1枚もなく、擦り切れたソファが置かれ、窓のには隣のビルの壁しか見えない部。
50棟のビルを所する男が、なぜあれほど質素に暮らしていたのか。
今なら分かった。
あの男は、自分のためにを使うことができなかったのだ。
そのは、弟の名で稼いだものだったから。
志垣は封筒へを置いた。
「奥さん。なぜ、失踪当にその話を警察へしなかったのですか?」
静は答えなかった。
「ご主が形の墓にっていたことは、ごじでしたか?」
静の目が封筒へ落ちた。
「314の午です。ご主は久保沢にいました。弟さんの墓のへっていた。見ていたがいます」
古い振り子計の音が、部のに響いた。
志垣は待った。
1分、2分。
静は震えなかった。
8と同じだった。
いや、志垣はい直した。
震えないのではない。震える期を、とうに終えているのだ。
「奥さん。今はあなたを責めるために来たのではありません」