みかん小説
本棚

"捨てた妻の春" 第5話

戸代表のご謝し、卒業から最優秀徒に選ばれた代表者より、束を贈呈いたします」

来た。

私の臓が、それまでの平静を破るようにく鳴った。

私はカメラを握り直した。

「卒業代表、吉田さん」

いミニタキシードを着たが、束を抱えてステージの袖から現れた。

背筋を伸ばし、落ち着いた取りで央へ向かっていく。勢の線を浴びても、は顔を伏せなかった。

係がたなを当てた。

ステージのに、2つのスポットライトが並んだ。

1つは、成功をにした背のい男へ。

もう1つは、12歳のさなへ。

が隼を止め、顔をげた。

もまた、目のったを見ろした。

その瞬、彼の顔から微笑みが消えた。

2の顔は、あまりにも似ていた。

同じ形をした目元。

真っ直ぐに通った筋。

唇の形だけでなく、緊張した角をわずかに引く癖まで同じだった。

誰かが息を呑む音が聞こえた。

客席を漂っていたざわめきが、瞬で止まった。

はそのへ釘付けにされたように、の顔を見つめていた。自信と余裕に満ちていた目が揺れ、理解できないものをにしたように何度も瞬きを繰り返す。

私はシャッターを切った。

乾いた音が、静まり返った講堂に響いた。

レンズので、隼の世界が崩れていく。

広告

衝撃。

困惑。

信じたくないという抵抗。

そして、自分でも抑えられない恐怖。

私はその微細な変化を、1枚も逃さず記録した。

は、束を持ったまま首を傾げた。目のの男が、なぜこれほど自分を見つめているのか分からないのだろう。

「おじさん」

澄んだ声が、沈黙を破った。

「お、どうぞ」

の肩がきく震えた。

束を受け取ろうと腕をかしたが、鉛でもつながれているように途で止まった。唇がいたものの、喉からは掠れた息しかてこなかった。

隣にいたの額には、たい汗が浮かんでいた。

戸代表は、さんの派な姿にされたのでしょう」

は苦しい笑顔を作り、状況を収めようとした。

さん、束はこちらへ――」

その、客席から鋭い女性の声がんだ。

「隼さん!」

混みをかき分け、シャネルのスーツを着た女性がステージへ駆けがってきた。

麗華だった。

の現の妻。

麗華は隼の腕を掴み、とのへ割り込んだ。

「どうしたの? どこか具が悪いの?」

配する言葉とは裏腹に、その目はへ鋭く向けられていた。

の顔を正面から見た瞬、麗華の表が凍った。入れのき届いた顔から血の気が引き、唇がわずかに震え始める。

「この子……誰なの?」

は麗華の声でに返ったように、彼女の腕を掴んだ。

「誰だと……?」

い声で呟きながらも、隼線はかられなかった。

広告

客席では、すでに抑えきれない囁きが広がっていた。

「あまりにも似ている」

戸代表の子供代みたいだ」

の奥さんとのに子供はいなかったはずじゃないのか」

齢を考えれば、婚した頃と致する」

憶測は波のように広がり、ステージのにいる隼と麗華をみ込んでいった。

麗華は周囲の声を聞き、完全に平静を失った。

!」

彼女はを指差し、甲い声をげた。

「これがこの学全管理ですか? どこの誰かも分からない子供をステージへげて、来賓をからかうなんて」

の表が曇った。

自分が侮辱されていることは理解したのだろう。束を抱えたまま、静かに1歩ろへがった。

私は最のシャッターを切った。

の衝撃。

麗華の取り乱した表

を置く

困惑する

全てが1枚の写真のへ収まった。

の目は果たした。

私はカメラをろし、首から名札をした。混乱する々のを抜け、ステージへがる。

も麗華も見なかった。

私の目には、だけが映っていた。

へしゃがみ、し曲がった蝶ネクタイを優しく直す。

「怖かった?」

は首を横に振った。

「ママ、帰ろう」

「ええ」

私はを握った。

2でステージをりようとした瞬、背からい声が響いた。

「吉田静

12ぶりに、隼が私の名を呼んだ。

その声には、抑えきれない衝撃とり、そして彼自もまだ気づいていない恐怖が混じっていた。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: