"捨てた妻の春" 第4話
「そう」
「そのは、僕のことをらないんだよね」
「らない」
「ママは、会いたい?」
その質問に、私はすぐ答えられなかった。
会いたかったわけではない。
けれど、隼にのを永にられないままでいいのかと、自分へ問い続けてきたことも事実だった。
は私の迷いを見透かしたように、さく笑った。
「僕は丈夫だよ」
「」
「ママが僕を隠したんじゃないって、僕はってる。ママは僕を守ったんでしょう」
私は子からち、を抱きしめた。
12、胸ので泣いていた赤ん坊は、私のにづくほどきくなっていた。
「当は、普通に束を渡せばいいの?」
「それでいい。何も無理に話さなくていいから」
「分かった」
卒業式の夜、私はのいシャツと濃紺のミニタキシードをえた。蝶ネクタイの位置を何度も直し、肩に糸くずがないか確認する。
「ママ、そんなに緊張しなくても丈夫だよ」
が鏡越しに笑った。
黒い瞳が、を受けて宝のように輝いていた。顔ちは幼さを残しながらも、々隼に似てきている。
私はをかがめ、シャツにあるはずのない皺を伸ばした。
「は、にとってもママにとっても、切ななの」
は分かったような、分からないような表で頷いた。
「、僕の写真を撮ってくれるよね」
「もちろん。うちの息子が番格好よく見える瞬を、全部残す」
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私はの髪を優しくえた。
「それから、もう1つだけ撮りたいものがあるの」
「何?」
「12、撮れなかった表」
が首を傾げたが、私はそれ以説しなかった。
夜、が眠った、私はいけていなかった箱を取りした。
には、隼との結婚写真が入っていた。
写真のの私は、将来を疑うこともなく笑っていた。その隣で隼は、礼儀正しく微笑みながらも、どこかくを見ているようだった。
私は結婚写真のから、12の婚協議を取りした。
隼の署名は、当と変わらずのに残されていた。
婚姻の子供なし。
その文字を指でなぞり、私は静かに箱を閉じた。
すべての準備は終わった。
は、止まっていたがきすのを待つだけだった。
卒業式は、学の講堂でわれた。
華やかな会は、正装した保護者たちで埋め尽くされていた。政財界でられた物もく、式の客席では数億円規模の事業の話が、世話のように交わされていた。
私は保護者席には座らなかった。
招待フォトグラファーの名札を首からげ、ステージ側面に設けられた撮区域へった。望レンズを装着し、照と被写体の位置を確認する。
の祝辞が始まると、保護者たちは儀礼に拍をした。私は徒たちの表を撮しながら、折客席へ線を向けた。
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式が始まって20分ほど過ぎた頃、講堂方の扉付でさな騒ぎが起きた。
黒いスーツを着た数の警護員がを作り、その央を1の男が歩いてきた。
戸隼だった。
体にった濃紺のスーツが、以よりも鍛えられた肩を際たせている。顔には12分の成熟が刻まれていたが、の線を集めるは変わっていなかった。
彼が現れると、方にいた数の保護者がすぐにちがった。隼は差しされるを握り、穏やかな笑顔で挨拶を返していく。
私はカメラを構えた。
隼が入する瞬。
保護者たちに囲まれる姿。
央の最列へ座り、隣の物と談笑する横顔。
私はその全てを写真に収めた。
やがてが、興奮を隠せない声で発表した。
「本の卒業でもあり、SIキャピタル代表を務めておられる戸隼様より、図館建設のために50億円というなご寄付をいただくこととなりました」
内から、鳴のような拍が巻き起こった。
隼はちがり、余裕のある取りでステージへ向かった。マイクを受け取り、社会への還元や未来を担う子供たちへの投資について、淀みなく語る。
く力い声に、くの線が注がれていた。
私はレンズ越しに、その姿を見つめた。
隼。
あなたは、い所まで登った。
けれど、これから目にするものだけは、でも位でも避けられない。
隼の挨拶が終わると、が再びマイクを握った。