"夕焼けの後継者" 第5話
窓ので、総郎はガラスへを触れた。
温かさがのひらから胸の奥へ染み込んでいくようだった。唇が震え、声にならないまま、ただ1つの名を呼んだ。
「健……」
満はしばらく台を包む夕焼けのを見つめた、へ散らばった具を拾い始めた。スパナー、ドライバー、半田ごてを順番に鞄へ戻し、最に父のノートを奥くへしまった。
作業は終わった。
ろで斎藤が咳払いをした。
「ご苦労さまでした。お洗いは廊の突き当たりです。を洗われましたら、精算いたします」
声は相変わらずたかったが、先ほどまでの骨な軽蔑はれていた。
「ありがとうございます」
満は具鞄を肩へ掛け、劇をた。
い廊をむと、理のへ音だけがく響いた。両側には価な絵画が並んでいたが、満は特に関を示さず、斎藤に教えられた方向へ歩いた。
廊の央付で、が自然に止まった。
の額縁よりさく、古びた1枚の写真が壁へ掛けられていた。1980代頃に撮されたとわれる、劇団員たちの集写真だった。
20ほどの若い男女が、台ので肩を寄せって笑っている。
満は何気なく全体を見た、央につ1の青へ目を奪われた。
20代半ばほどの男だった。
の者より半歩へて、カメラを真っ直ぐ見つめている。れやかな笑顔、目元、筋、の形。
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幼い頃から何度も見てきた、父の古い写真と同じ顔だった。
満は具鞄の肩紐をく握った。
写真から目をすことができない。自分の顔と見比べる必さえなく、そこに写っているのが若い頃の父だと分かった。
「あれ……親父の写真だ」
独り言のつもりだった。
だが静まり返った廊では、そのさな声がった以にくまで響いた。
満は額縁のガラスへ指を伸ばし、父の顔をそっと撫でた。たい触が指先へ伝わる。
「親父は、ここで仕事をしていたのか……。こんなふうに笑っていたんだな」
廊の曲がり角では、総郎と岡夫が息を殺してっていた。
2は劇からてきた満の姿を見て、自然とを追っていた。しかし青が額縁のでを止め、父親だと呟いた瞬、けなくなった。
写真のの健と、目のにつ青の顔がなる。
同じ目元。
同じ筋。
同じ元。
夫のから、湯呑みが滑り落ちた。
鋭い音をてて理のへぶつかり、陶器の破片が方へび散る。
満は驚いて振り返った。
廊の向こうに、髪の老夫婦がっている。夫は片を胸へ当て、唇を震わせながら満を見つめていた。
「あ……申し訳ありません。私が片づけます」
満は自分が何か驚かせたのだとい、へ膝をついた。割れた破片へを伸ばす。
だが総郎も夫もかなかった。
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夫の目から、抑えていた涙が溢れした。頬を伝って何本も流れ落ちるが、拭おうともしない。
満は陶器の破片を1つ持ったまま顔をげた。
2の表は、単なる驚きとは違っていた。懐かしさ、しみ、悔、そして信じられないものをにしたびが、言葉にできないほど複雑に混じっている。
「どうされたんですか」
満がちがろうとした、玄関がく音がした。
軽な音とともに、50代の男が敷へ入ってくる。級な腕計をにつけ、いの匂いを漂わせた拓也だった。
廊の景を目にした瞬、拓也のが止まった。
割れた湯呑み。
涙を流す岡夫。
古びた具鞄を肩に掛けた青。
拓也の線が満の顔で止まり、次に壁の写真へ移る。再び満へ戻った、元に浮かんでいた余裕の笑みが消えた。
青の顔。
佐々という姓。
26歳という齢。
そして総郎夫妻の差し。
拓也のので、い恐れていたものが急速に形を持ち始めた。
にしていた類の封筒が、無識のうちに握り潰される。
それでも拓也は表をえ、廊へみた。
「修理は終わりましたか」
満は陶器の破片をにしたまま頷いた。
「はい。照は全て復旧しました」
拓也は総郎夫妻と満のへ、自然を装ってった。
「おじ様、参りました。本の決裁類の件で」
総郎はゆっくりと拓也へ目を向けた。
ただ度、名を呼んだ。
「拓也」
穏やかな声だった。