"夕焼けの後継者" 第2話
満が幼い頃、父の財布から見つけた写真と同じものだった。
「父さんが若かった頃だよ。台照の仕事をしていたんだ」
健は、写真についてそれ以語らなかった。
なぜ親戚が1もいないのか。なぜまれ故郷へ帰ろうとしないのか。満が何度尋ねても、健は寂しそうに笑って首を横に振るだけだった。
息を引き取る直にも、健は震える唇で言った。
「満……父さんには、言い残したことがあるんだ」
だが、その続きを聞くことはできなかった。
満は写真を見つめ、く呟いた。
「父さん、ってくるよ」
さな声は、気のないので音にかき消された。
母親についても、健は涯ほとんどをかなかった。満が10歳の、母はどんなだったのかと尋ねると、い沈黙のに、たった言だけ答えた。
「おの母さんは、良いだったよ。おに申し訳ないとっていた」
満は、その言葉のをらないままになった。
のに止めていた古いバイクに跨り、何度か始を試みる。エンジンは激しく震えた、ようやくい音を響かせた。
がヘルメットのシールドを流れ、履き古したスニーカーのへたいが染み込んでくる。それでも満は構わずアクセルを回し、のに沈む町をりした。
を抜けると幅が広くなり、くの丘のに巨な塀が見えてきた。
広告
に霞んでいても、その敷が周囲の宅とは比べものにならないほど広いことが分かった。
満は速度を落とし、な鉄のでバイクを止めた。
の背丈を遥かに超える塀の内側からは、丁寧に刈り込まれた々が覗いている。鉄はを弾き、黒く々しいを放っていた。
満はヘルメットのでく息を吸い、インターフォンを押した。
い沈黙の、がゆっくりと内側へき始めた。満はガタガタと音をてるバイクで敷内へ入り、それが自分のを変える扉だともらずに、い畳をんだ。
の内側は別世界だった。
激しいがっているにもかかわらず、庭は隅々まで入れされていた。美しく刈り込まれた庭が並び、理の通へ落ちる粒が涼やかな音をてている。
満の濡れたスニーカーがいへ触れるたび、黒い跡が残った。
違いな所へ来たことは、自分でもよく分かっていた。
玄関には、黒いスーツを着た男性が腕を組んでっていた。敷の管理を任されている執事の斎藤だった。
髪は隙なく撫でつけられ、表には親しみというものが切ない。斎藤は、に濡れた作業着と履き古した靴、肩に掛けられた古い具鞄を順番に見ろした。
「お1ですか」
満は黙って頷いた。
斎藤はくから息を吐き、背を向けた。
広告
「埃をてず、静かに作業をしてください。こちらがどのようなお敷かは、ごじでしょう」
満は何も言い返さず、そのろについていった。
玄関を入ると、い井から巨なシャンデリアのがり注いだ。磨きげられた理の廊が、見通せないほど奥まで続いている。
満が靴を脱ごうと屈むと、斎藤は振り返りもせずに言った。
「そのままがっていただいて結構です。どうせで掃除しますので」
満はきを止めた。
その言葉に込められた侮蔑には気づいていたが、何も答えずに靴を脱いだ。濡れた靴のままがるわけにはいかず、持っていた布でを拭いてから廊へむ。
斎藤の背が瞬くなったが、すぐに何事もなかったように歩き始めた。
廊の壁には、価そうな絵画や骨董品が並んでいた。国の景画、抽象画、古い陶器を写した作品が、同じ隔で然と飾られている。
しかし、満は奇妙なことに気づいた。
この巨な敷には、族写真が1枚もなかった。
結婚式の写真も、子供の成を記録した写真も、族が並んで笑っている写真もない。誰かが図に、族がした痕跡を消したかのような壁だった。
満がその空へ線を向けていると、リビングの方角からい音がづいてきた。
髪の老が、背筋を真っ直ぐ伸ばして歩いてくる。
70歳を超えているはずだが、スーツの襟は定規で引いたようにい、ち姿にはを圧倒するものがあった。