"夕焼けの後継者" 第1話
梅のがりしきる午、26歳の佐々満は、古びた修理ので呆然とち尽くしていた。閉ざされたシャッターの央には、赤い文字で印刷されたが貼られ、流れ落ちるを吸って波打っていた。
満は濡れた指先での端に触れたが、かれている言葉を読み直すことが怖くなり、すぐにを引っ込めた。
税滞納による差し押さえ予告。
太い文字が界に突き刺さり、筋の向こうで滲んでいく。同代の友たちは会社の名刺を持ち、毎決まったに振り込まれる料を受け取っていたが、満には名刺も定した収入もなかった。
母親の顔をらず、父親1ので育てられた。その父も3にくなり、満に残されたものは、さな修理と古びた具だけだった。
満の父・健は、若い頃に台照の技術者として働いていたという。しかし満が物ついた頃には力をほとんど失い、この町の片隅で気製品や照器具を修理しながら、息子を育てていた。
目が見えなくなってからも、健は具を放さなかった。
指先で配線の位置を確かめ、音や匂いだけで故障箇所を探し当てた。息子をべさせ、学へ通わせるため、体調を崩しても休もうとはしなかった。
その結果、健はあるけ方、たくなった作業台ので倒れているところを満に発見された。
広告
握り締められたには、使い古したドライバーが残されていた。
満はから逃れるように、シャッターの脇にあるさな扉をけた。
内に入ると、械油と古い線が混ざった匂いがをついた。修理を待つが棚に並び、その横には、督促状の入った封筒がのように積みなっている。
満は封筒のを度だけ見たが、すぐに顔を背けた。何度数えたところで、支払わなければならない額が減るわけではなかった。
肩からろした具鞄を作業台へ置き、引っかかったファスナーを力任せに引く。錆びた具が軋みながらき、から父の垢で黒ずんだ具が姿を現した。
スパナー、ドライバー、半田ごて。
その奥には、表が擦り切れた1冊のノートが入っていた。
満はノートを取りし、のひらのへ載せた。表はくへこみ、ページの端は垢で黒く変している。
には、健が涯をかけてき残した台照の配線図や計算式がびっしりと記されていた。力を失い、文字をけなくなったも、父はこのノートを胸に抱いて眠っていた。
満は表をそっと撫で、具鞄の奥へ戻した。
その、作業台に置いていた携帯話が鳴った。
表示されたのはらない番号だった。満は音に混じって繰り返される着信音を聞きながら、しばらく画面を見つめた、指を滑らせた。
広告
「はい、佐々修理です」
話の向こうから、落ち着いた男性の声が聞こえた。
「岡総郎会のお敷でございます。敷内にある劇の照制御システムについて、修理をお願いしたくご連絡いたしました」
満の指が止まった。
岡という名を、この国でらない者はほとんどいない。全国に劇やホールを所し、文化事業や産業までがける巨企業、岡グループだった。
そんな企業の会の敷から、町れのさな修理へ依頼が来るとはえなかった。悪質ないたずらだと考えた満は、度話を切った。
しかし、すぐに同じ番号から着信が入った。
今度は話を最まで聞くと、なくとも完全な冗談ではないことが分かった。企業から派遣された技術者が3組も確認したが、照設備の構造が特殊で、誰にも修理できなかったという。
敷に併設された劇の照は完全に止しており、今に復旧させる必があるらしい。提示された修理費は、満が1か働き続けても簡単にはにできない額だった。
満は話をに当てたまま、のに貼られた赤いへ目を向けた。
「分かりました。伺います」
話を切ると、満は具鞄を肩へ掛けた。
作業台の隅には、若い頃の父を写した褪せた写真が置かれていた。黒いを着た健が、台ので自信に満ちた笑顔を見せている。