"8年目の遺失物" 第4話
「なぜ、そううのですか」
「私が見た男のは、もっとに見えました。40歳くらいだったといます」
誠は当32歳だった。暗い所で齢を見誤る能性はあったが、証言をそのまま信じるなら、裕子は夫とは別の男性と歩いていたことになる。
偶然と会ったのか。それとも最初から、誰かと会う約束をしていたのか。
渡辺は裕子の交友関係を最初から洗い直した。実側の、学代の友、結婚の職関係者へと、調査の範囲を広げていった。
裕子は結婚、京の墨田区にあるさな縫製で約3働いていた。そのの元同僚だった林まゆは、写真を見せられると、考え込んだでなことをにした。
「裕子さんには、のお兄さんみたいながいました。つらいに連絡していたようです」
「名は分かりますか」
「分かりません。裕子さんは、いつも『お兄さん』とだけ呼んでいました」
実の兄であるは、そのような物について何もらなかった。妹が自分以の誰かを兄のように慕っていたという話を聞き、険しい表で首を横に振った。
まゆは、その物をので度だけ見たことがあるという。
「背はくありませんでした。子をかぶっていたといます」
その特徴は、サービスエリアで子が目撃した男性とよく似ていた。
広告
しかし、渡辺の胸には別の疑問が残った。裕子が自ら誰かに会い、夫から逃げようとしていたのなら、なぜ財布や分証の入ったバッグを残したのか。
自分から姿を消したが、活に必な物をすべて置いていく理由は何なのか。
その疑問の答えは、8眠り続けることになったベージュのバッグの記録へとつながっていった。
富士川サービスエリアの遺失物記録には、裕子が消えた夜、ベージュのバッグが預けられたことが記されていた。受付刻は午1012分で、裕子が最に目撃されたから約1半が過ぎていた。
さらに奇妙なのは、そのバッグが駐やトイレで偶然発見されたのではなく、誰かが直接カウンターへ持ってきたと記録されていたことだった。
当の受付担当者だった恵子はすでに退職していた。渡辺が連絡先を探し、ようやく話を聞くと、恵子は8の記憶を慎にたどった。
「バッグを持ってきたのは女性でした。1で来て、『誰かが置いていったみたいなので、預かってください』と言ったといます」
「どのような女性でしたか」
恵子は指先を組み、しばらく考えてから答えた。
「30代から40代くらいでした。髪がく、鏡をかけていました。黒いコートを着ていたといます」
その特徴は裕子とは致しなかった。
広告
裕子は当、髪をく伸ばしており、鏡も使用していなかった。
バッグを届けた女性は誰なのか。なぜ、持ち主である裕子の名を告げなかったのか。
渡辺が考えを理しているところへ、が再び警察署へやって来た。今度は、見らぬ女性を連れていた。
「妹の学代の友です。話したいことがあるそうです」
女性の名は伊藤久美。34歳で、裕子とは結婚も々連絡を取りっていた。
久美は席へ座ると、ハンドバッグから古い封筒を取りした。封筒の端は何度も触れたためか柔らかくなり、表面にはさな皺がいくつもできていた。
「お盆休みが始まる2に、裕子から渡されました。怖くて、今まで持っていました。でも、もう話さなければいけないとって……」
封筒には、裕子の跡でかれたいが入っていた。
「今回のお盆が終わったら、何か決断をしなければならないみたい。もし私としばらく連絡が取れなくなっても、あまり配しないで。ただ、私が勇気をしているところなのだとってね」
渡辺は最の1を何度も読み返した。
勇気をすとは、何をすることだったのか。をる決だったのか、誰かに真実を告げることだったのか。
久美は、裕子が詳しい事を話してくれなかったと説した。何かに悩んでいることは分かったが、無理に聞けばさらに苦しませるような気がして、問い詰めることができなかったという。
は鑑定へ回され、裕子本がいたものであることが確認された。
広告
おすすめ作品
-
完結第13話
霧葬の山岳会
1998年10月、長野県の山岳会で、ただ1人の女性会員・高木真美が白い霧の中から姿を消した。 翌年に結婚を控えていた28歳の真美。仲間たちと向かった秋の黒岩岳で、彼女は突然行方不明となり、事故による滑落として処理された。赤いキャップとちぎれたザックの一部だけを残して、遺体は見つからなかった。 残された母は、娘の死を受け入れられないまま、毎年10月12日になると警察へ手紙を書き続けた。 「あの日、娘に何があったのか。どうか、もう一度調べてください」 そして16年後。 黒岩岳の岩の隙間から、古い登山靴と人骨が発見される。そこは、滑落した人間が偶然たどり着くにはあまりにも不自然な場所だった。 さらに遺骨には、事故では説明できない傷が残されていた。 16年前、霧の中で本当は何が起きていたのか。 そして、山岳会の仲間たちはなぜ同じ証言を繰り返したのか。 母の手紙が止めなかった時間が、ついに閉ざされた山の沈黙を破り始める。因果応報|行方不明|孤獨2.0萬字5 0 -
完結第8話
消えた背番号1
平成12年、都内のホテルで開かれたプロ野球選手・藤原健二の引退会見。 肩の故障でも、年齢でもない。彼がマイクの前で語り出したのは、18年前の春に消えた天才エース投手・宮崎武志の名前だった。 昭和57年、選抜大会を目前に控えた大阪の工業高校。背番号1を背負う武志は、病気の母と幼い弟妹を支えるため、プロ入りを夢見て投げ続けていた。一方、幼い頃から常に武志の後ろにいた藤原は、誰にも言えない嫉妬を胸に抱えながら、控え投手としてその背中を見つめていた。 選抜出発の前夜、家族の苦しみと将来への不安に追い詰められた武志は、学校を出ていく。 その後を追った藤原。 月明かりの下で交わされた言葉は、2人の運命を大きく狂わせることになる。 なぜ天才エースは甲子園を目前に消えたのか。 そして18年後、すべてを手に入れたはずの藤原が、自らの引退会見で語った“本当の理由”とは――。ミステリー|行方不明1.1萬字5 29 -
完結第8話
10年目の地下室
2004年12月、忘年会の夜。 会社員の田村孝介は、2次会で訪れたカラオケ店から妻へ電話をかけた。 「もうすぐ出る。少し地下に降りるだけだから」 それが、家族が聞いた最後の声だった。 翌朝になっても田村は帰らず、携帯電話の電源は切れたまま。財布も口座も動かず、どこかへ逃げた形跡もない。妻は何度も「夫は地下に降りると言った」と訴えたが、警察は事件性を認めず、行方不明として処理した。 その後、カラオケ店は突然廃業し、店長は海外へ出国する。 誰も調べなかった地下。 不自然に塗り固められたコンクリートの壁。 そして、田村の名前の横に残された謎の星印。 10年後、老朽化したビルの解体工事中、閉ざされていた地下から人骨が見つかる。 田村はなぜ地下へ向かったのか。 あの夜、彼は誰と何を話したのか。 そして、真実をコンクリートの奥へ封じ込めたのは誰だったのか。 忘れ去られたはずの忘年会の夜が、10年の時を越えて再び動き出す。ミステリー|行方不明1.2萬字5 109 -
完結第8話
床下に消えた29年
2023年、岐阜県の山中にある古民家で深夜に火災が発生した。 焼け跡から見つかったのは、この家で1人暮らしをしていた高齢男性の遺体。古い木造家屋の痛ましい火事として処理されるはずだった。 しかし、消防士が焼け落ちた床を踏み抜いた時、事件はまったく別の顔を見せる。 床下に広がっていたのは、誰も存在を知らなかった暗い空間。そこには、木の板に縛りつけられたまま長い年月を過ごした、女性の乾燥遺体が横たわっていた。 遺体のそばに残されていた古い医療カード、切り裂かれた写真、そして日記に記された不気味な一文。 「もう彼女は逃げることができない」 29年前、自ら姿を消したと思われていた女性は、本当に新しい人生を選んだのか。 それとも、誰にも知られない山中の家で、ずっと助けを待ち続けていたのか。 すべてを灰に変えた火が、長年閉ざされていた床下の秘密を暴き出す。ミステリー|行方不明1.2萬字5 138 -
完結第8話
天井裏の元彼
2012年、福岡市の古いワンルームで一人暮らしを始めた小林里奈。 束縛の激しかった元恋人・山田誠と別れ、ようやく自由な生活を取り戻したはずだった。ところがその直後、誠は突然行方不明になる。 数か月後、里奈の部屋で奇妙な出来事が起こり始めた。 冷蔵庫の食べ物が少しずつ消え、置いたはずの物が別の場所へ移動する。夜になると、誰もいないはずの天井から、何かが這うような音が聞こえてくる。 警察も管理会社も、友人も、誰も里奈の言葉を信じなかった。 「疲れているだけ」 「気にしすぎだ」 そう言われ続けた里奈は、自分の記憶さえ疑い始める。 やがて彼女は、その部屋を逃げるように去った。 しかし2年後、寝室の天井裏から発見されたものが、里奈の恐怖が妄想ではなかったことを証明する。 あの夜、彼女が見上げていた天井の向こうには、確かに“誰か”がいた――。ミステリー|真相|行方不明1.1萬字5 227 -
完結第11話
消えた父子の23枚
2017年3月、奥多摩の山中で、元消防士の伊藤大輝と生後8か月の赤ん坊が跡形もなく姿を消した。 父子は遭難したのか。それとも、誰かから逃げていたのか。遺体も手がかりも見つからないまま、事件は6年の時を経て忘れられようとしていた。 しかし2023年、地質調査に訪れた大学生2人が、岩の隙間から古いデジタルカメラを発見する。そこに残されていたのは、赤ん坊を抱く父親の写真と、背後から近づく不審な人影だった。 さらに調査を進めるうち、2人は「伊藤ハルト」という名前を消され、「鈴木湊」として生きる青年にたどり着く。 彼は本当に、6年前に消えた赤ん坊なのか。 そして大輝が命をかけて守ろうとした“真実”とは何だったのか。 1台のカメラが、封じられた過去と、血よりも深い父の愛を静かに暴き出していく。ミステリー|真相1.6萬字5 928