"霧葬の山岳会" 第2話
フリースもに着てきましたから」
「それならだ」
藤本が頷く横で、井は無言のまま自分のザックを膝に抱え、の部座席に乗り込んだ。真美が乗する姿を度だけ見たが、すぐに線を窓のへそらした。
は暗いを1ほどり、午7過ぎに登の駐へ到着した。7はく装備を確認し、入りに準備運を済ませると、午730分、井を先に登へ踏みした。
葉はちょうど見頃を迎えていた。ブナやナナカマドの赤い葉が登の両側を彩り、朝に濡れた落ち葉が元でさく鳴った。
歩き始めて1ほどは、緩やかな林帯が続いた。やがて斜面が急になり、のい登りへ変わると、列の方から久保の荒い息が聞こえ始めた。
井は何度かを止め、最尾を振り返った。
「久保君、ペースは丈夫か」
久保は額の汗を袖で拭い、息をえてから顔をげた。
「はい。まだけます」
真美は列の央付を歩きながら、にいる酒井や井へ折声をかけていた。険しい斜面であっても、彼女のるい声が途切れることはなかった。
「真美ちゃん、来のには嫁にくんだろう。仲としては寂しくなるな」
酒井が杖を突きながら冗談めかして言うと、真美はし照れたように頬を緩めた。
「結婚しても青嶺岳会には来ますよ。
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勝に辞めさせないでください」
その返事に、を歩いていた藤本まで振り返って笑った。だが井だけは元をかさず、真美かられた側へ静かに線をそらしていた。
午1過ぎ、はそのの宿泊となる黒岩ヒュッテへ到着した。すでに数組の登者が入っており、では携帯用のガスコンロを囲みながら、それぞれが湯を沸かしていた。
受付を済ませ、奥の部の壁際へ荷物を置くと、井は全員を集めた。の窓のでは、午の差しが急速にまり始めていた。
「は午4起きだ。暗いうちに稜線へる」
井は図をに広げ、指先で翌の経をなぞった。
「気予報では、け方から昼にかけてからガスがやすい。岩稜帯では、絶対にザイルからをさないように」
会員たちは真剣な表で頷いた。真美も膝のにを置いたまま、井の説を最まで聞いていた。
夕を終えた、7はストーブを囲んで静かなを過ごした。真美はの売で買った黒岩岳の絵はがきを膝に載せ、ボールペンをかしていた。
隣に座っていた久保がをかがめ、元を覗き込んだ。
「誰かに送るんですか」
真美はし恥ずかしそうに絵はがきを伏せた。
「の朝、稜線でのを見られたら、最初に夫になるへ送ろうとって」
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「それはいいですね」
久保が笑うと、真美も嬉しそうに頷いた。しれたストーブのでは、井が黙ったまま2のやり取りを見つめていた。
午9を過ぎると、7はそれぞれ寝袋へ潜り込んだ。の根をたいが撫で、暗のでは、誰かが寝返りを打つ音だけがさく響いていた。
真美は枕元に赤いキャップを置き、きかけの絵はがきをザックの内ポケットへしまった。その夜が、彼女にとって最の夜になることを、誰もらなかった。
1012、午4。のはまだ暗く、黒岩岳の稜線には肌を刺すようなたいが吹いていた。
7は眠気の残る顔で朝を済ませ、ヘッドランプを点灯させた。井は発にずつ装備を確認し、真美のハーネスとザイルの結び目にもを伸ばした。
「緩みはないな」
「丈夫です」
真美は腰の具を指で確かめ、赤いキャップのからフードをかぶった。井はその横で、自分のピッケルを何度も握り直していた。
はかりとのいを頼りに、ガレと林帯を黙々と登った。誰も余計な言葉をにせず、岩を踏む靴音と、息を吐く音だけが暗のに続いていた。
午6を過ぎると、の空が淡くみ始めた。稜線の向こう側にいがにじみ、真美は度ち止まって振り返った。
「きれい……」
彼女はそう呟き、ザックのにある絵はがきのことをいしたように笑った。だがのを眺めるはなく、井はえ切った袋を打ちわせながら先を促した。