"車椅子妻の断罪" 第9話
加奈はそれ以何も言わなかった。
夫へ背を向け、ゆっくりとベッドへ戻る。
1歩。また1歩。
震えながらも止まらないでベッドへたどり着き、端へ腰をろした。
そして最に度、へ座り込んだ健を見た。
彼の目から、再び涙が流れていた。
今度は演技ではなかった。
すべてを失ったことを悟ったの、本物の涙だった。
が過ぎ、が訪れた。
に捨てられたあのから数か、田健と玲奈の裁判がかれた。
被告席には2が並んで座っていた。
健は痩せ、頬が落ちている。玲奈の目のにも濃いができていた。
傍聴席の最列には加奈が座っていた。
子はない。
自分ので法廷へ入り、背筋を伸ばして子へ座っている。その隣には伊藤がいた。
検察側が提した証拠は、揺るぎないものだった。
患者の内側に隠されていた録音の音声。加奈のスマートフォンに保された通話。で確認された子のブレーキの状態。
SUVのタイヤ痕。GPS発信が記録した移経。ドライブレコーダーの源を切ったことや、健が位置報能を止した記録。
すべてが、計画な犯を示していた。
決定な面で、検察官が録音音声の再を求めた。
裁判官が許すると、法廷のスピーカーから玲奈の声が流れた。
『健。あの女、へ置いてきた?』
続いて健の声が響く。
広告
『ああ。今、子ごと置いてきた。瞬きしかできない体なんだ。ここでの景でも眺めさせてやればいい』
法廷内が静まり返った。
傍聴席から、誰かが息を呑む音が聞こえた。をで覆い、俯く者もいた。
録音が終わるまで、健は顔をげなかった。
玲奈は膝ので両を握りしめている。
加奈は正面を見つめたまま、表を変えなかった。
あの声は、真ので自分のへ突き刺さったものと同じだった。
だが流すべき涙は、すでに流し終えていた。
続いて伊藤が、民事事件に関する資料を提した。
加奈が薬の響で識を失っていたに、健が指印を押させた委任状と産売買契約。その原本が、融関や玲奈の資産管理会社から回収されていた。
名義がどのような経で移されたのかも、記録として残っていた。
裁判官が尋ねた。
「これらの類に押された被害者の指印は、本の自由なによるものですか」
伊藤はちがった。
「いいえ」
法廷全体へ届く声で答える。
「鈴加奈さんは、病院から処方された力な鎮痛剤と眠薬の響で、識が極端にしていました」
伊藤は健を見た。
「被告はその状態を利用し、被害者のを無理やりかして指印を押させました。自由なに基づく契約ではありません」
判決の、裁判官は健による犯を、期にわたり計画された悪質なものだと認定した。
広告
妻の体なみを利用したこと。医師へ虚偽を伝え、回復の会を奪おうとしたこと。財産を奪ったうえで、事故に見せかけて命まで奪おうとしたこと。
田健には、殺未遂、私文偽造、詐欺など複数の罪でい実刑判決が言い渡された。
玲奈も共犯として罪となった。
さらに玲奈の資産管理会社を捜査した結果、ほかの顧客の資を横領し、にわたり文を偽造していた事実もらかになっていた。
民事裁判では、加奈のに反して作成された委任状と産売買契約はすべて無効とされた。
座の商業ビルも、建築事務所の経営権も、加奈のもとへ戻った。
法廷をた加奈は、裁判所の階段のでち止まった。
のが髪を揺らす。の葉は黄くづき、1枚ずつ面へい落ちていた。
真の差しも、を満たしていた蝉の声も、すでにい記憶になっている。
伊藤が加奈の隣へった。
「先」
加奈はを向いたまま言った。
「ありがとうございました」
伊藤は静かに首を横へ振った。
「鈴さんが、自分の力で成し遂げたことです」
加奈はさく微笑んだ。
い、顔に浮かべることのできなかった穏やかな笑みだった。
がまったある午、加奈は久しぶりに座のを歩いていた。
子は使っていなかった。
自分ので、1歩ずつ歩を踏みしめている。
広告
おすすめ作品
-
完結第15話
9,000億円の離婚届
父を見送る火葬場で、ゆみは夫・浩司から離婚届を突きつけられた。 「お前の役目は、もう終わったんだよ」 父の遺骨すら拾っていないその場で、夫と義母は冷たく言い放つ。3年間の介護も、夜の清掃パートも、家を支えてきた28年の結婚生活も、彼らにとってはただの重荷でしかなかった。 しかも浩司には、すでに新しい女性がいた。 父の遺産を奪い、妻を捨て、愛人と新しい人生を始める――。浩司はそう信じて疑わなかった。 だが、亡き父はすべてを見抜いていた。 ゆみに託された黒いカード。古い木箱に隠された証拠。そして、東京駅前にそびえる“あるビル”の存在。 数日後、浩司は初めて知ることになる。 自分が捨てた妻こそ、9,000億円の資産を受け継ぐただ一人の相続人だったことを――。因果応報|人生逆転|夫婦2.3萬字5 5 -
完結第12話
復讐とんかつの逆転便
とんかつ弁当を注文した堀川琢磨の前に現れたのは、高校時代に自分を見下していた金持ち令嬢・柏木綾音だった。 かつて高級ブランドを身につけ、貧しい琢磨を笑っていた彼女は今、実家のとんかつ店を守るため、配達員として頭を下げていた。 「お前が配達?令嬢なのに?」 復讐心に火がついた琢磨は、自分の成功を見せつけるため、何度もとんかつ弁当を注文し続ける。 だが、届く弁当の味は想像以上だった。 そしてある日、綾音が差し出した冷凍とんかつの試作品が、琢磨の運命を大きく動かしていく。 過去の屈辱、消えない傷、落ちぶれた令嬢の謝罪。 復讐のつもりで始まった注文は、やがて小さな老舗店を救い、琢磨自身の孤独な人生まで変えていく――。因果応報|人生逆転|修羅場1.7萬字5 798 -
完結第8話
愛人旅行の代償
定年の日、美和は36年間支えてきた夫・秀治のために、好物の夕食を用意して待っていた。 しかし帰宅した秀治が連れてきたのは、見知らぬ若い女性だった。 「退職金で香織と海外旅行へ行く。帰ってきたら離婚届に判を押せ」 夫はそう言い放ち、さらに美和に家を出て行くよう命じる。長年守ってきた家庭も、妻としての時間も、すべてなかったもののように扱われた美和。 だが、彼女は泣かなかった。 旅行へ向かう夫と愛人を静かに見送り、ただ一つだけ確認する。 「この家のことは、私が決めていいのね」 数日後、海外旅行から戻った秀治を待っていたのは、見慣れた玄関ではなく、ロープで囲まれた更地と「売却済み」の看板だった。 夫が知らなかった、この家の本当の持ち主。 そして美和が36年の結婚生活の最後に下した、静かな決断とは。夫婦|金銭問題1.2萬字5 6444 -
完結第11話
夫の顔と20年目の罪
8歳の事故で母と光を失った桜田はるかは、暗闇の中でピアノだけを支えに生きてきた。 父の死後、叔父に勧められるまま結婚した相手は、名門病院の跡取り息子・桜田真一。寡黙ながらも優しく、毎日花束を贈ってくれる夫を、はるかは心から信じていた。 そしてある日、20年待ち続けた角膜移植手術の順番が回ってくる。 初めて夫の顔を見られる――。 そう思って迎えた包帯を外す日。眩しい光の中で、はるかの前に立っていたのは、愛していたはずの夫とはまるで違う男だった。 「あなたは誰?」 病室に凍りつく空気。夫を名乗る男、黙り込む周囲、そして誰もが隠していた結婚の嘘。 やがてはるかは、20年前の事故と、ガーベラに隠された本当の意味へとたどり着いていく。人生逆転|夫婦|真相1.7萬字5 964 -
完結第9話
中卒社員の逆転邸宅
中卒というだけで副社長に見下され、追い出し部屋へ異動させられた真司。 かつて父の会社を救うため進学を諦め、20年以上エンジニアとして働いてきた彼だったが、新しく就任した副社長は学歴だけで人を判断し、低学歴の社員たちを次々と窓際部署へ追いやっていく。 それでも真司は、妻の出産を控え、家族を守るために耐え続けていた。 やがて無事に子どもが生まれ、職場へ復帰した真司に、副社長はさらに残酷な言葉を投げつける。 「低学歴、低収入の子供がどんな顔してるのか見てみたいな」 その瞬間、真司は静かに微笑んだ。 「いいですよ。今週の土曜日、うちに来てください」 冷やかし半分で自宅へやって来た副社長たち。だが、案内された先で彼らが目にしたのは、想像もしなかった豪邸と、リビングで待っていた“ある人物”だった。 中卒と笑われ続けた男が、家族と仲間を守るために仕掛けた静かな反撃とは――。ミステリー|因果応報|人生逆転1.3萬字5 1307 -
完結第9話
止められた12枚
離婚届に判を押した瞬間、夫と姑は私を追い出し、新しい嫁を笑顔で迎え入れた。 私はただの“稼ぐ妻”だった。夫の遊び代、姑の美容代、義実家の贅沢――すべて私のカードで支払われていたのに、彼らは最後までそれを当然だと思っていた。 だから私は、何も言わずに12枚のカードを止めた。 数日後、元夫は新しい婚約者との豪華なパーティーで、300万円の支払いを求められる。だが差し出したカードは、すでに利用停止済み。 招待客の前で崩れていく見栄。逃げ出す新しい嫁。そして、義実家がようやく気づいた時には、すべてが遅すぎた。 彼らが迎え入れたのは、幸運の女神ではない。 欲望に姿を変えた、破滅そのものだった。因果応報|夫婦|金銭問題1.3萬字5 1052 -
完結第14話
追放嫁と姑の鍵
8年間、夫の連れ子を育て、病気の姑を支え、家族のためだけに生きてきた美咲。 しかし、夫・健二は突然、8年前に子どもを捨てて出ていった前妻リナを家に呼び戻す。実の母親が帰ってきたという理由で、美咲は離婚届に判を押し、何も持たず家を出ることになった。 ベランダの花も、子どもたちの絵も、彼女が守ってきた居場所も、すべてリナの手で消されていく。 そんな美咲に、姑の芳江がそっと差し出したのは、古びた1本の鍵だった。 「神戸の元町の裏通りに、空き店舗が1つある。行って、開けてご覧」 8年間、足を引きずり、弱々しく見えていた姑が、なぜその鍵を持っていたのか。 そして、家を追い出された美咲を待っていた“本当の居場所”とは――。嫁姑|夫婦2.1萬字5 1609 -
完結第19話
青いハンカチの花嫁
親友の結婚式に招かれた浩司は、車椅子で会場の隅に座っていた。 10年前、雨の交差点で車に轢かれそうになった少女を助け、代わりに自分の足の自由を失った浩司。だが彼は、その少女の未来を守るため、自分が命の恩人であることをずっと黙っていた。 ところが披露宴の最中、花嫁の由美が突然、浩司を見つめて呟く。 「ずっと探していました」 彼女の手には、10年前の事故現場に残された青いハンカチ。浩司の腕には、消えることのない傷跡。 その瞬間、新郎・健一の顔色が変わる。 本当の恩人は誰だったのか。なぜ浩司は10年間も沈黙していたのか。そして、親友を名乗る男が隠し続けてきた嘘とは――。 祝福に包まれるはずだった披露宴で、10年前の真実が静かに暴かれていく。因果応報2.8萬字5 2140