"天井裏の元彼" 第4話
里奈が尋ねると、作業員は首を横に振った。
「何もないですね。古い配管と配線だけです」
「が入った跡は?」
「この狭さじゃ、は無理ですよ」
作業員は点検のくを確認しただけで、蓋を閉じた。
奥までんだわけではなかった。
だが、そのの里奈には、それ以頼む勇気がなかった。
警察にも、友にも、族にも疑われている。作業員まで引き止めれば、本当におかしなだとわれる。
「そうですか……。ありがとうございました」
点検が閉じられる音を聞きながら、里奈は絶望した。
何もいない。
侵入の痕跡もない。
カメラにも映らない。
専の作業員が井裏を調べても、誰もいないと言った。
それなら、異常なのは部ではなく、自分のほうなのかもしれない。
ところが、物音はその夜から再び始まった。
友に泊まってもらった夜だけは、何も起きなかった。
井は静かで、べ物も消えない。
しかし友が帰り、里奈がになると、またさな音が聞こえた。
カサカサ。
ごとり。
には、井板のをのひらでゆっくり撫でるような音までした。
里奈はにべ物を置くのをやめた。
必な分だけ買い、そののうちにべ切った。
それでも物はいた。
テーブルに置いた鍵がに落ちている。
畳んだの向きが変わっている。
洗面所に置いた化粧品が、わずかに使用されている。
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まるで誰かが、見えない所から里奈をからかっているようだった。
ここにいる。
おのことを見ている。
だが、決して見つけることはできない。
そんなを示されているようにじた。
里奈の精神状態は悪化していった。
仕事も集できず、簡単な入力ミスを繰り返した。顔が悪くなり、同僚から何度も配された。
夜になると悸がし、が震えた。
暗が怖くなり、部の気をつけたまま眠った。それでも、井から音がするたび目を覚ました。
友と族に説得され、療内科を受診した。
医師は里奈の話を静かに聞いた、度のストレスによる障害だと診断した。
誠との別れや失踪が、無識のうちにきな負担になっている能性がある。
医師はそう説し、薬を処方した。
里奈は薬をんだ。
しかし、恐怖は消えなかった。
眠気で体がくなっても、井の音だけは聞こえた。
薬をんでいるに何かされるのではないかとうと、かえって眠るのが怖くなった。
自分のだったはずの所が、牢獄に変わっていた。
毎晩ベッドに横たわり、井を見つめる。
音がしないことを祈りながら、同に音がするのを待っている。
やがて、必ず聞こえてくる。
い井板の向こうを、何者かがう音が。
20132、里奈はついに決断した。
このからる。
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自分がおかしいとわれても構わない。
敷を失っても、引っ越し費用がかかってもいい。
きたのしない部に、これ以み続けることはできなかった。
里奈は急いで荷物をまとめた。
具のくは処分した。
この部をいさせるものを、居へ持っていきたくなかった。
荷造りをしているも、井から線をじた。
段ボールを閉じるたび、誰かに逃げる準備を見られている気がした。
20133初旬。
最の荷物を運びし、里奈は玄関にった。
具のなくなった部は、以より広く見えた。い壁と井が、何事もなかったかのように静まり返っている。
里奈は井を見げた。
音はしなかった。
「もう終わりだから」
誰に言うでもなく呟き、ドアを閉めた。
しいアパートは、以の部かられた区にあった。
築数が浅く、最階でもない。隣やの部から活音は聞こえたが、それは普通のが暮らす音だった。
夜にべ物が消えることはなかった。
物が勝にくこともない。
から何者かがう気配もなかった。
里奈はしずつ眠れるようになった。
パニック発作も治まり、仕事にも集できるようになった。
それでも療内科への通院は続けた。
医師と話すうちに、里奈は以の来事を自分なりに理しようとした。
いストレスが原因で、実際にはない音を聞いたのだ。
べ物を自分でべたことを忘れ、物をかした記憶も失っていたのだ。
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