"復讐とんかつの逆転便" 第4話
最初はめのでまで温め、最に温度をげてを仕げる。
琢磨は普段ほとんど使わない鍋をし、かれている通りに油をした。
凍とんかつを入れると、静かだった部に油のはじける音が広がった。しばらくすると、懐かしいようなばしいにおいが漂い始める。
揚げがったとんかつを皿へ移し、包丁で切った。
断面から、い肉汁が滲みした。
琢磨は半信半疑のまま切れをへ運んだ。
サクッという軽やかな歯触り。
続いて押し寄せる、肉の濃い旨。
琢磨の目が見かれた。
「凍だろ、これ……」
来たての弁当と、ほとんど変わらなかった。
肉は柔らかく、凍品特のっぽさもない。もべたつかず、で揚げたものにい軽さを保っている。
その瞬、琢磨ので、復讐とはまったく別のスイッチが入った。
品系ECサイトを運営する経営者としての覚だった。
これは売れる。
全国へ発送できる品質の凍とんかつを、琢磨はこれまで見たことがなかった。パッケージと販売方法をえ、商品の背景を伝えれば、きな能性がある。
箸を置き、すぐにノートパソコンをいた。
凍品の規模、競商品の価格、送料を含めた販売単価。原価と利益率を仮定し、で表を作っていった。
数字を見れば見るほど、確信はくなった。
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だが同に、胸の奥へ別のが広がった。
憎んでいたはずの女が届けたものを、自分はうまいとっている。
復讐のために始めた注文が、いつのにか毎の楽しみになりかけている。
綾音を許すのか。
許さないのか。
琢磨はまだ、その答えをせなかった。
代に受けた傷が消えたわけではない。彼女の謝罪を聞いたからといって、へ続く階段で1きりでパンをべた々がなくなるわけでもなかった。
それでも、のに残るとんかつの余韻が、固く尖っていたりの輪郭をしずつ溶かしていた。
それから数、琢磨は悶々としたまま過ごした。
は理できない。
だが、経営者としての直は鳴り続けていた。
このは本物だ。
過の好き嫌いで埋もれさせるには、あまりにも惜しい。
最終に琢磨は、自分のを切りして考えることにした。
柏綾音を許すかどうかと、商品に価値があるかどうかは別の問題だ。
本当にうまいものが、資も販もないというだけで消えていくのは違っている。
琢磨は曜の閉際、「とんかつ柏」の本を訪れた。
宅の角に、季の入ったさながっていた。
以は都内に何舗も構えていた名とはえないほど、板は褪せ、簾にも継ぎ当ての跡があった。
それでも扉をけると、ばしい油のにおいと、肉を揚げる音が迎えてくれた。
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「いらっしゃいませ」
ホールにてきた綾音は、琢磨の顔を見ると驚いたようにち止まった。
「堀川君……どうしたの?」
「客として来た」
琢磨はく答え、カウンターへ座った。
厨には、60代半ばほどの男性がっていた。綾音の父親だった。
がっしりとした体格で、額にはい皺が刻まれている。油の跡が残る腕には、さな傷の痕がいくつもあった。
隣では、綾音の母親がキャベツを刻み、洗い物をしていた。
族3でを回しているのだと、すぐに分かった。
琢磨はロースかつ定を注文した。
父親は無駄のないきで肉を取りし、をつけ、油へ静かに落とした。温度を確かめるようにじっと鍋を見つめ、揚げがる瞬を逃さない。
綾音は客へ笑顔を向け、空いた皿をげ、に厨へ入って母親を伝っていた。
誰もを抜いていない。
誰も休んでいない。
その景を眺めているうちに、琢磨ので別の記憶が蘇った。
昼も夜も働き詰めだった母親。
疲れた顔で帰宅し、事を作る余裕もないまま壁にもたれていた姿。
幼い琢磨には、母親の苦しみが見えていなかった。
自分が傷つけられたことだけを覚え、母親もまた追い詰められていたことを考えようとしなかった。
今、目のの柏を見て、初めて分かる気がした。
何かを守ろうと必になっているの姿は、こういうものなのだと。
定をべ終えた、琢磨は閉までに残った。