"消えた父子の23枚" 第9話
「僕は、最まで真実を確かめます。でも、あなたたちが僕の父さんと母さんであることは変わりません」
両親は涙を流しながら息子を抱きしめた。湊も2の背へ腕を回し、初めて自分のにある2つの名を受け入れようとしていた。
湊はロビーで待っていた優斗と奈のもとへ戻った。目は赤く腫れていたが、その表には迷いを断ち切ったようなさがあった。
「僕は本当に伊藤ハルトでした。でも、育ててくれた両親も僕をしていました。輝さんは、僕を守るために命を懸けてくれたんです」
3は、SDカードに残されていたGPS座標を頼りに、再び奥摩へ向かった。今度の座標はカメラを見つけた洞窟よりもさらにの奥を示していた。
急な斜面を登り続けると、さな展望へた。くには京の並みが霞み、の差しが肌を黄に染めていた。
湊はすりへづき、周囲を見回した。
「ここも、っているような気がします。輝さんに抱かれて、空を見た記憶があるような……」
奈がくのに刻まれた文字を見つけた。皮には、さく「H is 1」と読める跡が残っていた。
湊は指先で文字をなぞり、静かに涙を流した。
「僕の1歳を祝おうとしてくれたんでしょうか」
優斗が周囲を調べると、岩の隙から錆びた属の箱が見つかった。箱には4桁の暗証番号を入力するさなダイヤルがついていた。
広告
湊は自分の誕である「0817」を入力した。乾いた音がして錠がれ、蓋がゆっくりといた。
には、片が破れたままの熊のぬいぐるみが入っていた。湊の部にあるものと同じ形で、こちらは縫い直されていなかった。
ぬいぐるみのには、USBメモリと「ハルトへ」とかれた封筒があった。湊は両でを持ち、震える息を吐きながら読み始めた。
――するハルトへ。
――おがこのを読んでいるなら、父さんはもう、そばにいないのだろう。きくなるおを見られなくて、本当にすまない。
――俺はおの本当の父親ではない。だが、おの母親と約束した。何があってもおを守ると。
――おの母親は美恵という。彼女はおをからしていた。だが、危険な秘密をってしまい、そのために命を奪われた。
――おの実の父親は、きな権力を持つ男だ。彼は自分の政治としてのを守るため、おと母親のを消そうとした。
――USBには、母親が残した証拠が入っている。おがどのようなを選んでも、これだけは覚えていてほしい。
――おはされるためにまれてきた。おの母親に、そして俺に。
――永にしている。伊藤輝。
を読み終えた湊は、破れたぬいぐるみを胸に抱いた。奈も涙を拭い、優斗は俯いたまま唇を噛んでいた。
その、森の奥から音が聞こえてきた。
広告
優斗は素くUSBメモリをポケットへ入れ、奈は属の箱を閉じた。
々のから、杖を持った60代ほどの男が現れた。男は湊の姿を見つめ、いしみを帯びた声で呟いた。
「伊藤輝の息子か。ようやく会えたな」
優斗が湊のへた。
「あなたは誰ですか」
「林也。輝と同じ消防署で働いていた」
男は警戒する3へ両を見せ、ゆっくりとづいた。
「輝が逃げる所を必としていた、私がこのを教えた。あいつが最にを隠せるとっていた所だ」
湊はぬいぐるみを抱いたまま尋ねた。
「輝さんが、今どこにいるかっていますか」
林の目にしみが浮かんだ。
「輝は、もうこの世にはいない。6、こので命を落とした」
湊の膝から力が抜け、優斗が体を支えた。
林によれば、輝はハルトを全な所へ託した、追跡者たちを子供からざけるため、の奥へ逃げた。最には崖のくまで追い詰められ、彼らに捕まって子供の居所を吐かされることを恐れ、自らいへを投じたという。
「私はくから見ていた。助けようとしたが、にわなかった。何もを探したが、輝の姿は見つからなかった」
湊は声をせず、ただ涙を流した。奈は落ちたぬいぐるみを拾い、再び彼の腕のへ戻した。
林は周囲を確認し、3をへ案内した。
森のを15分ほど歩いた所にある、さな丸太造りのだった。
広告
おすすめ作品
-
完結第10話
21年目の誤公式
アメリカの名門大学を訪れた8歳の日本人少女・桜井ひなは、ロビーに掲示されていた有名な物理公式の前で、ふと足を止めた。 21年前から大学の象徴として飾られ、多くの教授や学生が見過ごしてきたその数式。だが、ひなには右下の一部だけが、どうしても「変な音」に聞こえた。 「ここ、間違っているかもしれません」 勇気を出して指摘した少女に返ってきたのは、困ったような笑顔と小さな笑い声だった。子どもだから、外国から来た見学者だから――誰も本気で耳を傾けようとはしなかった。 それでもひなは、亡き祖父から教わった“数字の音”を信じ、ホテルの小さな机で1枚の紙を書き上げる。 翌日、その紙が教授室へ届いた時、大学の空気は一変した。 21年間、誰も気づかなかった誤り。教授たちが凍りついた真実。そして、大人たちの思い込みを静かに揺さぶった少女の小さな声。 これは、笑われても自分の違和感を手放さなかった8歳の少女が、名門大学に残された“21年ぶりの真実”を動かす物語。真実|真相1.4萬字5 8 -
完結第11話
湯殿床下の女将日記
1999年、銀山温泉の老舗旅館「白糸屋」で、女将・鍛原沢子が忽然と姿を消した。 部屋は整えられ、財布も草履も残されたまま。争った跡もなく、まるで朝霧に溶けたように、彼女だけが消えていた。 夫を亡くしてから10年、たった1人で旅館を守ってきた沢子。だが失踪の数日前、東京から来た見知らぬ男と長く話し込み、その後、彼女の顔は真っ青になっていたという。 捜査は進まず、白糸屋はやがて閉ざされた。 それから6年後、取り壊しが決まった旅館の湯殿の床下から、油紙に包まれた一冊の帳面と銀色の帯留めが見つかる。 そこに残されていたのは、沢子が誰にも言えなかった苦しみと、息子の名前。 そして、40年以上湯殿を守ってきた三助の老人だけが知る、霧の朝の本当の出来事だった――。ミステリー|真相1.6萬字5 10 -
完結第10話
10年目のハザード
1999年10月、夜明け前の阪和自動車道に、1台のタクシーがハザードランプを点けたまま残されていた。 運転席は無人。車内に争った跡はなく、鍵も残されたまま。所有者は、大阪・堺で個人タクシーを営む藤村達夫だった。 警察が自宅を訪ねると、妻・安子と娘・真奈美の姿も消えていた。台所には冷めた味噌汁、まな板には切りかけのネギ。家族3人は、夕食の途中で突然この世から切り取られたように姿を消していた。 達夫が最後に乗せた客は誰だったのか。 そして、なぜ一家は財布も通帳も残したまま消えたのか。 10年後、取り壊しが決まった団地の室外機の裏から、1本の古いカセットテープが見つかる。 そこに残されていたのは、達夫が命がけで吹き込んだ、震える声だった――。ミステリー|行方不明1.5萬字5 145 -
完結第15話
土俵下の12年
昭和47年、東京・両国の相撲部屋から、期待の若手力士・林岳司が突然姿を消した。 能登の小さな漁村から上京し、家族の期待を背負って土俵に立っていた21歳の青年。部屋には荷物も手紙も残されたままで、まるで少し外へ出ただけのように、彼の生活だけがそこに残っていた。 両親は息子がどこかで生きていると信じ、12年間待ち続けた。 しかし昭和59年、故郷の古い土俵を解体した時、土の下から思いがけないものが見つかる。 東京で消えたはずの岳司は、なぜ故郷の土俵の下にいたのか。 稽古場で何が起き、誰が12年間も真実を隠し続けたのか。 若き力士の失踪は、故郷の土の中から静かに動き出す――。ミステリー|行方不明2.2萬字5 219 -
完結第9話
50年目の沈黙の部屋
2021年、福井県の山あいにある閉鎖病院で、壁に塗り込められた小さな部屋が発見された。 窓もなく、扉もなく、外から完全に塞がれたその空間に残されていたのは、1人の男の骨と、古い観察記録だった。 記録の日付は、1973年。 そこに書かれていたのは、吉川明という30歳の患者の名前だった。だが不思議なことに、彼は病院の閉鎖後も、家族からも行政からも、誰からも探されていなかった。 なぜ彼は、誰にも知られず壁の中に残されたのか。 そして、最後の記録に残された「生命の兆候なし」という一文の後、病院では何が行われたのか。 50年近く沈黙していた廃病院の壁が、今、ひとりの男の消された人生を語り始める。ミステリー|行方不明1.4萬字5 97 -
完結第13話
消えた娘の38分
2023年、幼稚園から帰る途中だった少女・美緒が、父親の車に乗ったまま姿を消した。 山道で事故が起き、父は記憶を失ったと証言。警察は周辺を捜索したが、美緒の姿も、当日持っていたバッグも見つからなかった。 それから1年後。 母・雪が、かつて家族で暮らしていた古いマンションを訪れた時、突然スマートフォンに通知が届く。 それは、美緒のバッグに入れていた位置追跡チップからの信号だった。 示された場所は、誰も想像していなかった寝室の床下。 そこから見つかったバッグ、消えていた上着、空になった金庫。そして、父親の車が事故前に立ち寄っていた“38分間”の空白。 事故だと思われていた少女の失踪は、家族の秘密と金の流れに隠された、まったく別の事件へと変わっていく。ミステリー|行方不明1.9萬字5 205 -
完結第11話
夫の顔と20年目の罪
8歳の事故で母と光を失った桜田はるかは、暗闇の中でピアノだけを支えに生きてきた。 父の死後、叔父に勧められるまま結婚した相手は、名門病院の跡取り息子・桜田真一。寡黙ながらも優しく、毎日花束を贈ってくれる夫を、はるかは心から信じていた。 そしてある日、20年待ち続けた角膜移植手術の順番が回ってくる。 初めて夫の顔を見られる――。 そう思って迎えた包帯を外す日。眩しい光の中で、はるかの前に立っていたのは、愛していたはずの夫とはまるで違う男だった。 「あなたは誰?」 病室に凍りつく空気。夫を名乗る男、黙り込む周囲、そして誰もが隠していた結婚の嘘。 やがてはるかは、20年前の事故と、ガーベラに隠された本当の意味へとたどり着いていく。人生逆転|夫婦|真相1.7萬字5 93 -
完結第9話
中卒社員の逆転邸宅
中卒というだけで副社長に見下され、追い出し部屋へ異動させられた真司。 かつて父の会社を救うため進学を諦め、20年以上エンジニアとして働いてきた彼だったが、新しく就任した副社長は学歴だけで人を判断し、低学歴の社員たちを次々と窓際部署へ追いやっていく。 それでも真司は、妻の出産を控え、家族を守るために耐え続けていた。 やがて無事に子どもが生まれ、職場へ復帰した真司に、副社長はさらに残酷な言葉を投げつける。 「低学歴、低収入の子供がどんな顔してるのか見てみたいな」 その瞬間、真司は静かに微笑んだ。 「いいですよ。今週の土曜日、うちに来てください」 冷やかし半分で自宅へやって来た副社長たち。だが、案内された先で彼らが目にしたのは、想像もしなかった豪邸と、リビングで待っていた“ある人物”だった。 中卒と笑われ続けた男が、家族と仲間を守るために仕掛けた静かな反撃とは――。ミステリー|因果応報|人生逆転1.3萬字5 138 -
完結第20話
湖底の五本柱
1999年2月、記録的な豪雪に閉ざされたダム建設地・鏡谷で、3人の男が忽然と姿を消した。 彼らが乗っていた黒いセダンは、エンジンをかけたまま雪原に残されていた。ドアは開き、所持品もそのまま。だが、車の周囲には人が降りた足跡が一つもなかった。 やがて龍鳴寺の床下から見つかった1台のカメラが、事件を思わぬ方向へ動かしていく。そこに写っていたのは、消えた3人と作業員たちが、吹雪の中で何かを巡って激しく対立する姿だった。 さらに、ダムに沈むはずだった村からは、古い拳銃、止まった懐中時計、血に染まった作業車、そして「五つの柱」という不気味な言葉が浮かび上がる。 これは単なる失踪ではなかった。 ダムの底へ沈められようとしていたのは、村の風景だけではない。30年前に隠された罪と、ひとりの老人が命をかけて仕掛けた復讐だった。 雪の中で消えた男たちは、どこへ行ったのか。 そして、水没した地下から響く時計の音は、何を告げていたのか――。ミステリー|行方不明|金銭問題3.0萬字5 138