"消えた父子の23枚" 第4話
はしばらく考えた、2をさな会議へ案内した。個報は示できないと繰り返しながら、般な統計資料を数枚テーブルに置いた。
奈は資料に目を通すふりをしながら、慎に質問を切りした。
「20173か4頃、8かほどの男の子が保護された記録はありませんか」
その瞬、の指が止まった。表の変化は瞬だったが、正面に座っていた奈は見逃さなかった。
「どの子供も特別な事を抱えています。個別の事例についてはお答えできません」
優斗は鞄から印刷した写真を取りし、テーブルの央へ置いた。
「この子に見覚えはありませんか。2017の、こちらへ来た能性があります」
は写真へ線を落とそうともせず、勢いよくちがった。頬が赤くなり、先ほどまでの穏やかな調も崩れていた。
「それは研究目を逸脱した質問です。特定の児童に関する報は、個報保護の観点から切お話しできません」
「名を聞いているわけではありません。ただ、この赤ん坊がここへ来たかどうかだけでも――」
「失踪事件なら警察へ相談してください。当センターは、法な続きを経て子供たちを受け入れています」
は話を打ち切り、会議の扉をけた。受付の女性を呼び、2をへ案内するように命じようとした。
広告
その、廊から掃除用具を運ぶ音がづいてきた。
「センター、2階の掃除が終わりました。次は3階の類へきましょうか」
腰の曲がった70代ほどの女性が会議へ入ってきた。女性は渡辺と呼ばれ、いこの施設で清掃を担当しているようだった。
渡辺の目が、テーブルに置かれた写真へ止まった。彼女はを止め、息をのむように元を押さえた。
「あら……この子」
は素く写真を裏返し、渡辺の腕を掴んだ。
「渡辺さん、3階の掃除へってください。この方々はもうお帰りになります」
しかし、渡辺は写真から目をさなかった。目には涙が浮かび、震える唇からいがけない言葉がこぼれた。
「この子、毎晩『輝』って名を呼ぶように泣いていたわ」
部の空気が凍りついた。の顔から血の気が引き、奈は鞄ので携帯話の録音能を起した。
「その子について、ほかに何か覚えていませんか」
奈がづくと、渡辺は写真を指さした。
「この子は夜になると、ずっと泣いていたの。『だいき』って聞こえる声をしながらね。でもセンターは、その名を記録するなと言ったわ。子供の過は消さなければならないって……」
「やめなさい!」
の鳴り声が会議に響いた。
「渡辺さん、それ以話すなら規則違反です。今すぐ3階へってください」
優斗は子からちがり、とのに入った。
広告
「脅しているんですか。僕たちはすでに警察へ写真を提しています」
は瞬黙り込んだ、無理に笑顔を作った。
「誤解です。当センターは法律を守っています。ただ、子供たちの個報を保護しているだけです」
2はそれ以話を聞くことができず、施設をることになった。奈が振り返ると、渡辺はのろから、誰にも気づかれないほどさく頷いていた。
へるとはさらにくなっていた。優斗と奈が1本の傘に入り、先ほどの録音を確認していると、優斗の携帯話に非通の着信が入った。
「もしもし」
『学さん……私です。渡辺です』
周囲を気にするような、震えた声だった。
『あの子は今、鈴湊という名で暮らしているわ。あの子が養子縁組された直、斎藤彩佳という職員が突然いなくなったの。誰も、彼女がどこへったのからない』
「斎藤彩佳さんは、その子のことを担当していたんですか」
『そうよ。あのは、何かをっていた。気をつけて。センターのたちは、あなたたちを見ているわ』
通話は方に切れた。優斗と奈はのでち止まり、互いの顔を見つめた。
施設の3階では、が窓の隙から2を見ろしていた。彼は携帯話を取りし、登録されていない番号へ話をかけた。
「彼らが来ました。カメラを見つけ、子供のことまでっています」
学へ戻った優斗と奈は、学名簿で鈴湊の名を検索した。
広告
おすすめ作品
-
完結第10話
21年目の誤公式
アメリカの名門大学を訪れた8歳の日本人少女・桜井ひなは、ロビーに掲示されていた有名な物理公式の前で、ふと足を止めた。 21年前から大学の象徴として飾られ、多くの教授や学生が見過ごしてきたその数式。だが、ひなには右下の一部だけが、どうしても「変な音」に聞こえた。 「ここ、間違っているかもしれません」 勇気を出して指摘した少女に返ってきたのは、困ったような笑顔と小さな笑い声だった。子どもだから、外国から来た見学者だから――誰も本気で耳を傾けようとはしなかった。 それでもひなは、亡き祖父から教わった“数字の音”を信じ、ホテルの小さな机で1枚の紙を書き上げる。 翌日、その紙が教授室へ届いた時、大学の空気は一変した。 21年間、誰も気づかなかった誤り。教授たちが凍りついた真実。そして、大人たちの思い込みを静かに揺さぶった少女の小さな声。 これは、笑われても自分の違和感を手放さなかった8歳の少女が、名門大学に残された“21年ぶりの真実”を動かす物語。真実|真相1.4萬字5 8 -
完結第11話
湯殿床下の女将日記
1999年、銀山温泉の老舗旅館「白糸屋」で、女将・鍛原沢子が忽然と姿を消した。 部屋は整えられ、財布も草履も残されたまま。争った跡もなく、まるで朝霧に溶けたように、彼女だけが消えていた。 夫を亡くしてから10年、たった1人で旅館を守ってきた沢子。だが失踪の数日前、東京から来た見知らぬ男と長く話し込み、その後、彼女の顔は真っ青になっていたという。 捜査は進まず、白糸屋はやがて閉ざされた。 それから6年後、取り壊しが決まった旅館の湯殿の床下から、油紙に包まれた一冊の帳面と銀色の帯留めが見つかる。 そこに残されていたのは、沢子が誰にも言えなかった苦しみと、息子の名前。 そして、40年以上湯殿を守ってきた三助の老人だけが知る、霧の朝の本当の出来事だった――。ミステリー|真相1.6萬字5 10 -
完結第10話
10年目のハザード
1999年10月、夜明け前の阪和自動車道に、1台のタクシーがハザードランプを点けたまま残されていた。 運転席は無人。車内に争った跡はなく、鍵も残されたまま。所有者は、大阪・堺で個人タクシーを営む藤村達夫だった。 警察が自宅を訪ねると、妻・安子と娘・真奈美の姿も消えていた。台所には冷めた味噌汁、まな板には切りかけのネギ。家族3人は、夕食の途中で突然この世から切り取られたように姿を消していた。 達夫が最後に乗せた客は誰だったのか。 そして、なぜ一家は財布も通帳も残したまま消えたのか。 10年後、取り壊しが決まった団地の室外機の裏から、1本の古いカセットテープが見つかる。 そこに残されていたのは、達夫が命がけで吹き込んだ、震える声だった――。ミステリー|行方不明1.5萬字5 145 -
完結第15話
土俵下の12年
昭和47年、東京・両国の相撲部屋から、期待の若手力士・林岳司が突然姿を消した。 能登の小さな漁村から上京し、家族の期待を背負って土俵に立っていた21歳の青年。部屋には荷物も手紙も残されたままで、まるで少し外へ出ただけのように、彼の生活だけがそこに残っていた。 両親は息子がどこかで生きていると信じ、12年間待ち続けた。 しかし昭和59年、故郷の古い土俵を解体した時、土の下から思いがけないものが見つかる。 東京で消えたはずの岳司は、なぜ故郷の土俵の下にいたのか。 稽古場で何が起き、誰が12年間も真実を隠し続けたのか。 若き力士の失踪は、故郷の土の中から静かに動き出す――。ミステリー|行方不明2.2萬字5 219 -
完結第9話
50年目の沈黙の部屋
2021年、福井県の山あいにある閉鎖病院で、壁に塗り込められた小さな部屋が発見された。 窓もなく、扉もなく、外から完全に塞がれたその空間に残されていたのは、1人の男の骨と、古い観察記録だった。 記録の日付は、1973年。 そこに書かれていたのは、吉川明という30歳の患者の名前だった。だが不思議なことに、彼は病院の閉鎖後も、家族からも行政からも、誰からも探されていなかった。 なぜ彼は、誰にも知られず壁の中に残されたのか。 そして、最後の記録に残された「生命の兆候なし」という一文の後、病院では何が行われたのか。 50年近く沈黙していた廃病院の壁が、今、ひとりの男の消された人生を語り始める。ミステリー|行方不明1.4萬字5 97 -
完結第13話
消えた娘の38分
2023年、幼稚園から帰る途中だった少女・美緒が、父親の車に乗ったまま姿を消した。 山道で事故が起き、父は記憶を失ったと証言。警察は周辺を捜索したが、美緒の姿も、当日持っていたバッグも見つからなかった。 それから1年後。 母・雪が、かつて家族で暮らしていた古いマンションを訪れた時、突然スマートフォンに通知が届く。 それは、美緒のバッグに入れていた位置追跡チップからの信号だった。 示された場所は、誰も想像していなかった寝室の床下。 そこから見つかったバッグ、消えていた上着、空になった金庫。そして、父親の車が事故前に立ち寄っていた“38分間”の空白。 事故だと思われていた少女の失踪は、家族の秘密と金の流れに隠された、まったく別の事件へと変わっていく。ミステリー|行方不明1.9萬字5 205 -
完結第11話
夫の顔と20年目の罪
8歳の事故で母と光を失った桜田はるかは、暗闇の中でピアノだけを支えに生きてきた。 父の死後、叔父に勧められるまま結婚した相手は、名門病院の跡取り息子・桜田真一。寡黙ながらも優しく、毎日花束を贈ってくれる夫を、はるかは心から信じていた。 そしてある日、20年待ち続けた角膜移植手術の順番が回ってくる。 初めて夫の顔を見られる――。 そう思って迎えた包帯を外す日。眩しい光の中で、はるかの前に立っていたのは、愛していたはずの夫とはまるで違う男だった。 「あなたは誰?」 病室に凍りつく空気。夫を名乗る男、黙り込む周囲、そして誰もが隠していた結婚の嘘。 やがてはるかは、20年前の事故と、ガーベラに隠された本当の意味へとたどり着いていく。人生逆転|夫婦|真相1.7萬字5 93 -
完結第9話
中卒社員の逆転邸宅
中卒というだけで副社長に見下され、追い出し部屋へ異動させられた真司。 かつて父の会社を救うため進学を諦め、20年以上エンジニアとして働いてきた彼だったが、新しく就任した副社長は学歴だけで人を判断し、低学歴の社員たちを次々と窓際部署へ追いやっていく。 それでも真司は、妻の出産を控え、家族を守るために耐え続けていた。 やがて無事に子どもが生まれ、職場へ復帰した真司に、副社長はさらに残酷な言葉を投げつける。 「低学歴、低収入の子供がどんな顔してるのか見てみたいな」 その瞬間、真司は静かに微笑んだ。 「いいですよ。今週の土曜日、うちに来てください」 冷やかし半分で自宅へやって来た副社長たち。だが、案内された先で彼らが目にしたのは、想像もしなかった豪邸と、リビングで待っていた“ある人物”だった。 中卒と笑われ続けた男が、家族と仲間を守るために仕掛けた静かな反撃とは――。ミステリー|因果応報|人生逆転1.3萬字5 138 -
完結第20話
湖底の五本柱
1999年2月、記録的な豪雪に閉ざされたダム建設地・鏡谷で、3人の男が忽然と姿を消した。 彼らが乗っていた黒いセダンは、エンジンをかけたまま雪原に残されていた。ドアは開き、所持品もそのまま。だが、車の周囲には人が降りた足跡が一つもなかった。 やがて龍鳴寺の床下から見つかった1台のカメラが、事件を思わぬ方向へ動かしていく。そこに写っていたのは、消えた3人と作業員たちが、吹雪の中で何かを巡って激しく対立する姿だった。 さらに、ダムに沈むはずだった村からは、古い拳銃、止まった懐中時計、血に染まった作業車、そして「五つの柱」という不気味な言葉が浮かび上がる。 これは単なる失踪ではなかった。 ダムの底へ沈められようとしていたのは、村の風景だけではない。30年前に隠された罪と、ひとりの老人が命をかけて仕掛けた復讐だった。 雪の中で消えた男たちは、どこへ行ったのか。 そして、水没した地下から響く時計の音は、何を告げていたのか――。ミステリー|行方不明|金銭問題3.0萬字5 138