"消えた父子の23枚" 第1話
2017317、夜けを迎えたばかりの奥摩は、のに覆われていた。夜にったがを濡らし、たいが々のを抜けるたび、枝に残った枯れ葉がかすかな音をてて揺れていた。
その静寂のを、1の男が8かの赤ん坊を胸に抱き、息を切らしながら歩いていた。男の名は伊藤輝、42歳。かつて消防士として働いていた彼は、紺のスリングで息子のハルトを抱え、元のぬかるみに注しながらの奥へんでいた。
輝の頬は青ざめ、目のにはい隈ができていた。何もまともに眠っていないことはらかで、振り返るたびに、その目には言葉にできない恐怖が浮かんでいた。
「丈夫だ、ハルト。父さんがここにいる。もうしだからな」
輝は歩みを止めることなく、片でハルトのさな背を優しく叩いた。赤ん坊はいったん泣きやんだものの、父親の緊張をじ取ったのか、再びか細い声を漏らし始めた。
しばらくむと、々のから朝のが斜めに差し込む、さくけた所にた。輝は周囲を確かめてからを止め、息子をしっかり胸に抱いたまま、着のポケットから携帯話を取りした。
画面を操作する指が刻みに震えていた。輝は録音能を起すると、何度か息をえ、くれた姉に向けて言葉を残した。
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「姉さん。もし俺に何かあったら、あの子が違ったのに渡らないようにしてくれ」
そこまで話したところで、輝の声が詰まった。目からこぼれた涙が頬を伝い、ハルトの毛布のへ落ちていった。
ハルトはきな瞳で父親を見げ、さな指を伸ばした。輝はその指を握り、震える唇で息子の額にそっとづけた。
「許してくれ。これが父さんにできる唯の方法なんだ。おは、されるためにまれてきた。いつか必ず、真実をるが来る」
その、森の奥で枝が折れる音がした。が起こしたものではないと分かった瞬、輝は携帯話を握ったまま振り返った。
くから、複数の音がづいていた。濡れた落ち葉を踏みしめる音が定の隔で続き、々の向こうから男たちの声がかすかに聞こえてきた。
「もうかなくては」
輝は録音を止め、携帯話をポケットへ戻した。ハルトをく抱き直すと、けた所をれ、さらにい森へを踏み入れた。
背の音は消えなかった。づきすぎることも、ざかることもなく、逃げる輝の位置を確かめながら追っているようだった。
輝は消防士代に鍛えた体力を頼りに、濡れたを駆け始めた。しかし、胸には赤ん坊を抱えている。転倒すればハルトを危険にさらすため、速度をげながらも元から目をすことはできなかった。
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「あそこだ!」
背から男の声が響いた。
「止まれ! 子供を連れてくな!」
輝は答えず、の根をび越えた。計画していたをれ、見覚えのない斜面へ入り込んでいたが、ち止まることはできなかった。
濡れたにを取られ、輝の体がきく傾いた。彼はとっさにハルトのを腕で覆い、片膝をつきながらも転倒を免れた。
「もう逃げられないぞ、伊藤!」
声はさらにづいていた。
「素直に子供を渡せ。そうすれば、何もなかったことにしてやる!」
輝は荒い息を吐きながらちがった。ハルトの顔を見ろした、その表にい決を浮かべた。
「絶対に渡さない」
誰に聞かせるでもなく、輝はく呟いた。
「俺の息子を、おたちの嘘ので育てさせるものか」
彼は急にを変え、険しい岩へ向かった。そこには消防士代、岳救助活の最に偶然見つけた、さな洞窟があった。
洞窟の入はいと岩に隠れ、くまでかなければ見つけることができない。輝は音を抑えながらへ入り、ポケットから型の懐灯を取りした。
「しだけ、ここにいよう。父さんが必ず守ってやるからな」
輝が語りかけると、ハルトは議なほど静かになった。さなには、片が破れた古い熊のぬいぐるみが握られていた。
輝は着の内側からデジタルカメラを取りした。
数週から、彼は息子とのを残すため、何枚もの写真を撮していた。