みかん小説
本棚

"21年目の誤公式" 第8話

ひなはしばらく相の顔を見たさく頷いた。

を先に渡してくれて、ありがとうございました」

責める言葉ではなく、謝を返された女性スタッフは、言葉を失ったように目を伏せた。

「ひなさん、またいつでも戻ってきてください」

シュミット教授が声をかけた。

「あなたの数のじ方を、もっとくの研究者に伝えてほしいのです」

その横では、メイヤーズ博士が静かに順番を待っていた。

博士はひなのまで来ると、周囲の目を気にすることなく片膝をついた。が子どもへ話しかける姿勢ではなく、1の学びとして相と向きう姿だった。

「あなたの言葉は、私の考え方を変えました」

博士はまっすぐにひなを見た。

「いつか、もう度私たちの学で正式に講演をしてくれませんか」

ひなは驚いた顔で母を見げた。

母は優しく微笑み、娘へ判断を任せるように頷いた。

「はい。できるようになったら、また来たいです」

ひなは答えたし考えてから言葉を続けた。

「でも、計算の方法だけじゃなくて、もっと切なことも話したいです」

切なこと?」

博士が聞き返した。

「諦めないです。それから、自分の違いを認めると、の言葉を信じるです」

メイヤーズ博士の目が、わずかに潤んだ。

搭乗の案内が流れ、母娘は見送りの々に何度もげた。

広告

ひなは保検査む直、最に振り返り、さくを振った。

陸すると、窓のに広がっていた並みが、しずつさくなっていった。

ひなはシートベルトを締めたまま、リュックサックからさな写真を取りした。祖父と並んで笑っている、古い1枚だった。

写真のの祖父は、縁側でノートを広げ、隣に座るひなへ何かを説している。

ひなは写真に指を添えた。

「おじいちゃん、できたよ」

窓のには、が広がっていた。

――数字は、の共通語なんだ。

祖父が話していた言葉を、ひなはした。

――どこの国へっても、誰とでも話せる。ひなには、そんなになってほしい。

は、そのを数式や計算のことだけだとっていた。

けれど今は、し違ってじられた。

自分が見つけた音は、数式のだけにあるのではない。の言葉を聞くにも、違いを認めるにも、相を信じるにも、目には見えない音があるのかもしれない。

ひなは写真を胸のに抱き、静かに目を閉じた。

を終え、ひなと母が関国際空港の到着ゲートをると、予していなかった景が待っていた。

元の聞記者や教育関係者、学の友たち、そして所の々までが、ひなの帰国をって集まっていたのである。到着ゲートのから「ひなちゃん」

広告

と呼ばれ、ひなは驚いて母のろへ隠れようとした。

アメリカの学で起きた来事は、すでに本にも伝わっていた。

8歳の女が、名学で21見過ごされていた数式の誤りを発見した。い記事から始まった報は、ひなの齢や祖父から受けた教育方法がられるにつれ、次第にきくなっていた。

々のに、1配男性がいた。

男性は記者たちのろからゆっくりとみ、ひなのを止めた。

「君が、桜井先のお孫さんか」

祖父の名を聞き、ひなは母のろから顔をした。

「私は昔、桜井先に数学を教えてもらったんだ」

男性は懐かしそうに目を細めた。

「先はよく話していたよ。うちの孫は、数字の音が聞こえるんだってね」

ひなの目から、涙が1筋こぼれた。

祖父は、ひなの覚を否定することなく、切なものとして周囲に話してくれていた。その事実をり、ひなは胸の奥に温かいものが広がるのをじた。

帰国、ひなの物語は聞やテレビ、教育雑誌で紹介された。の取材も届き、学での来事を扱う映像作品の企画まで持ちがった。

けれど、ひな本名になることを望まなかった。

記者に囲まれると緊張し、自分だけが特別なとして扱われることにも戸惑った。学では以と同じように授業を受け、休みには友と話し、へ帰ると祖父のノートをいた。

ひなが望んでいたのは、祖父のように、本質を静かに伝えられるになることだった。

広告

おすすめ作品

リンクを共有

以下のリンクをコピーして友達と共有してください: