"湯殿床下の女将日記" 第4話
根は傷み。
壁は崩れ。
玄関の畳には苔がえた。
かつてくの客を迎えた名旅館は、誰もづかない古い建物になっていた。
だが――
誰もらなかった。
その旅館の奥く。
湯殿のに、6眠り続けた真実が残されていたことを。
そして、それが再び々のに現れるが、もうすぐ訪れようとしていた。
平成17。
鍛原沢子が糸から姿を消してから、6のが流れていた。
世のはきく変わっていた。
携帯話はくのが当たりのように持つ代になり、にはしいが増え、古いものはしずつ姿を消していた。
しかし、形のにある温泉だけは、昔と変わらない景を残していた。
川沿いに並ぶ造旅館。
畳の。
夕暮れになると灯るガス灯。
そして、川からちるい湯気。
そこだけはが止まったようだった。
ただ1つだけ、変わってしまった所があった。
温泉の番奥に建つ糸。
かつてくの宿泊客で賑わった名旅館は、6というので完全に朽ち果てていた。
根はところどころ崩れ、が建物の内部へ入り込んでいた。
黒く変した柱。
剥がれ落ちた壁。
玄関の畳には苔が広がり、かつて女将の駄の音が響いた所とはえないほど静まり返っていた。
夜になると、元の子供たちは糸のを通るのを嫌がった。
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「あそこには誰もんでいないのに、夜になるとかりが見えることがある」
そんな噂まで流れていた。
もちろん、それは古い旅館に残るただの噂だった。
しかし、この建物には6に起きた来事が、今も消えずに残っていた。
女将、鍛原沢子の失踪。
その、息子の彦も元へ戻ることはなく、旅館の所権だけが宙に浮いた状態になっていた。
誰もをつけられないまま、糸はだけをねていた。
だが、このの。
ようやく状況がいた。
い続きを経て、糸の取り壊しが決まったのだ。
老朽化がみ、このままでは周囲にも危険がある。
町としても、いつまでも放置することはできなかった。
解体の。
温泉には朝から作業員たちが集まっていた。
が運び込まれ、建物の周囲には囲いが設置された。
い歴史を持つ旅館が、ついに姿を消すだった。
通りを歩く古い民たちは、を止めてその様子を眺めていた。
「とうとう壊すことになったか」
「仕方ないな……あれだけ傷んでしまっては」
「昔は本当に派な宿だったよ」
そんな声が聞こえてきた。
誰もが糸のいを持っていた。
総郎がいた頃。
沢子が女将として働いていた頃。
くの客で賑わっていた頃。
そして、の朝に女将が消えたのこと。
建物がなくなれば、あの事件の記憶もしずつれていくのだろう。
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くのがそうっていた。
解体作業は側からめられた。
傷んだ根がされ、古い材が運びされていく。
にさらされた建物は像以にっていた。
しかし、湯殿だけは最まで残された。
そこは昔ながらの造りで、の所より頑丈だった。
そして――
その所こそが、6誰にもられず秘密を守り続けていた所だった。
作業が湯殿のに及んだのは、解体始から数の午だった。
そのは朝から気が良く、の柔らかな差しが温泉を照らしていた。
作業員たちは古い板を慎にしていった。
すると、そのだった。
「……おい、ちょっと待て」
1の作業員がを止めた。
ののに、何か違のあるものが見えたのだ。
周囲のを掘っていく。
てきたのは、油に包まれたさな包みだった。
いが経っているにもかかわらず、油は丁寧に何にも巻かれていた。
誰かが図に隠したもの。
そうわせる状態だった。
作業員はを払いながら、慎に包みをいた。
からてきたものは、古い冊の帳面。
そして、の帯留めだった。
帯留めには細かな細が施されていた。
のにあったとはえないほど、切に扱われていたことが分かった。
「これ……なんだろうな」
作業員たちは顔を見わせた。
ただの古い具ではない。
なぜなら、この旅館には6に消えた女将がいた。