"10年目のハザード" 第2話
どれも乱れておらず、急いでかけたような形跡はなかった。
廊をむと、台所の流し台には洗い終えた器が伏せてあった。ガスコンロのには噌汁の入った鍋が置かれ、まな板には切りかけのネギと包丁が残されていた。
警察官が布巾越しに鍋の蓋を持ちげると、噌汁はすっかりえ切っていた。表面にはい膜が張り、作られてからいが経っていることがひと目で分かった。
料理をしていた者が、途で突然を止めたようだった。
居へ入ると、テレビの源は切られていた。卓には湯のみが3つ並べられ、たくなった茶がそのまま残っていた。
座布団も3枚敷かれていた。族がこれから夕を囲み、いつものように話をするはずだったことが、そこに残る物の配置から伝わってきた。
奥の部には夫婦の布団と、真奈美の勉机があった。
机のには学受験用の参考がかれ、ページの央にシャープペンシルが置かれていた。壁には志望とわれる学のパンフレットが画鋲で留められていた。
3だった真奈美は、翌の学を控えていた。勉の途で席をち、再び机へ戻るつもりだったのだろう。
どの部にも、争った跡はなかった。
具が倒れているわけでもなく、器が割れているわけでもない。
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引きしを荒らされた形跡や、荷物を急いでまとめた様子も見つからなかった。
たんすには類が揃い、通帳や印鑑といった貴品も残されていた。
そして警察官が最もい違を覚えたのは、達夫の財布だった。玄関の靴箱のに、置き忘れられたような状態で載っていた。
には現も運転免許証も入っていた。
速に残されたタクシーは達夫の仕事用のである。運転だったはずの達夫が、免許証の入った財布をに置いたままにしていたことになる。
それだけではなかった。藤の用の鍵も内に残され、タクシーの内からも自宅の鍵は発見されなかった。
藤達夫、48歳。
妻の子、45歳。
娘の真奈美、18歳。
その3全員が、のにもタクシーのにもいなかった。
警察はすぐに所への聞き込みを始めた。
商の魚を訪ねると、主は子がの夕方に買い物へ来たことを覚えていた。警察官から事を聞くと、主は濡れたを掛けで拭いながら、何度も記憶を確かめた。
「夕方の5頃やったといます。サンマを3匹買うていかれました。今が番脂が乗ってるでって言うたら、『達夫さんも真奈美も好きやから』って、うれしそうにしてはりました」
子は、その夜も族3で夕をべるつもりだった。
噌汁を作り、ネギを刻み、買ってきたサンマを卓に並べようとしていた。
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その途で、何らかの来事が起きたのだ。
団の自治会も、藤をよくっていた。
「仲のええ族でしたよ。旦さんは無やけど真面目で、夜までタクシーをらせてよう働いてはった。奥さんはるいで、団の事にもよう顔をしてくれました」
自治会は藤のある3階を見げ、目を細めた。
「娘さんはし内気な子やったけど、勉がようできるって評判でした。来は学やって、奥さんが本当に楽しみにしてはったのに」
聞き込みをねても、浮かびがってくるのは、特別な問題を抱えていない平凡な族の姿ばかりだった。
きな財産があったわけではない。所と争っていたわけでもなく、族関係が悪化していたという証言もなかった。
警察は達夫が所属していた個タクシーの組にも話を聞いた。
無線を担当していた職員は記録を確認し、夜11過ぎに達夫から連絡があったと説した。
「『今、客を乗せた。これでがる』と言うてました。藤さんは几帳面なでしたから、最にはいつも声入れてくれはったんです」
それが、達夫の最の連絡だった。
達夫は誰を乗せたのか。その客をどこまで運んだのか。
そして、客をろしたに何が起こり、速の肩へタクシーだけを残すことになったのか。
捜査員たちは速の料所やパーキングエリアを調べ、夜に同じを通った運転からも話を聞いた。