"土俵下の12年" 第12話
「はい」
佐藤は続けた。
「まだ正式な確認はめていますが、見つかった名札に岳司さんの名がありました」
子はそのに崩れ落ちた。
「嘘でしょう……岳司が……ずっと、ここにいたの……?」
正雄はちがろうとして、膝から力が抜けた。畳にをつき、を向いたままけなかった。
12、い京のどこかをっていた。
どこかできていると信じていた。
もしかしたら、の向こうの町で暮らしているのかもしれないとったもあった。
けれど、息子はずっと故郷にいた。
自分たちが毎暮らしていたのに。
しかも、古い俵ので。
子は畳にをつき、泣きながら言った。
「岳司……お母さん、ずっと待ってたのに。ずっとここにいたのね」
正雄は何も言えなかった。
ただ目から涙がこぼれた。
その夜、林のかりは遅くまで消えなかった。
子は岳司の写真のに座り続けた。何度も名を呼び、何度も謝った。
「気づいてあげられなくてごめんね」
正雄はにて、を見つめていた。
暗いからは、いつもの波音が聞こえた。
けれどその夜の波音は、まるで息子のい沈黙を語っているようだった。
佐藤刑事は、すぐに京へ向かった。
名部は12と同じ所にあった。建物はし古び、板もあせていたが、稽古からは相変わらず力士たちの声が響いていた。
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「はっけよい、残った!」
俵を踏む音。
体がぶつかる音。
若い力士の荒い息遣い。
佐藤はその音を聞きながら、玄関にった。
応対にた弟子が、警察帳を見て表を変えた。
しばらくして、崎親方が現れた。
12よりも顔にはいしわが刻まれていた。髪も増え、肩のあたりに以のさはしれていた。
佐藤は静かに名乗った。
「川県警の佐藤です。林岳司さんの件でお話を伺いに来ました」
親方の目が瞬揺れた。
「林の……?」
「遺骨が見つかりました。川県の故郷にある古い俵のからです」
親方は驚いた顔を作った。
「俵のから……そんな……」
佐藤はその表をじっと見た。
作られた驚き。
、何かを隠してきた者の目。
刑事としての勘が、そう告げていた。
「親方。あなたは何かっていますね」
親方は首を振った。
「何もりません。林が失踪した、私たちも必で探しました。警察にも届けました」
「では、当部にいた力士たちにも話を聞かせてください」
親方はわずかに唇を引き結んだ。
「……分かりました」
佐藤は1ずつ、当部にいた者たちから話を聞いた。
最初の数は、12と同じ説を繰り返した。
「林は朝、散歩にたまま戻りませんでした」
「のに変わった様子はありませんでした」
「何もりません」
その言葉は、まるで同じを読んでいるようだった。
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佐藤は急がなかった。
さない違いを拾い、表の変化を見逃さず、何度も同じ質問を角度を変えて投げた。
「本当に稽古では何もありませんでしたか」
「林さんは怪をしていませんでしたか」
「最に見たのは誰ですか」
「吉田健さんとは、どういう関係でしたか」
名がるたびに、何かの目がわずかに泳いだ。
吉田健。
当、若い力士たちに厳しく指導していた先輩。
現は部をれていたが、事件当、岳司と最もい所にいた物だった。
取り調べが続く、ある元力士がついに崩れた。
彼は当、岳司よりしの若い力士だった。すでに相撲界をれ、京のさな会社で働いていた。佐藤のに座ったから、顔は悪かった。
「もう、12です」
佐藤が静かに言うと、男は唇を震わせた。
「12、あなたは何を見なかったことにしてきたんですか」
男は両で顔を覆った。
しばらくして、絞りすように言った。
「実は、あの……稽古に事故があったんです」
佐藤は何も言わず、帳をいた。
男は震える声で続けた。
「林さんが吉田さんともみいになって……俵から落ちて、を打って……」
言葉が途切れた。
男の目から涙がこぼれた。
「林さんは、んでしまいました」
部の空気がくなった。
佐藤は静かに尋ねた。
「それからどうなりましたか」
男は肩を震わせながら答えた。
「親方が、警察には言うなと。林さんの体をどこかに運びました。私たちは、散歩にたまま戻らないと言うように命じられました」