"土俵下の12年" 第10話
それを周りは、吉田がをねて丸くなったのだとった。
けれど実際は違った。
吉田は怯えていた。
夜、布団に入ると、岳司の顔が浮かんだ。あの、自分が静だったら。あの、をさなければ。あの、岳司の膝の痛みをしでも分かろうとしていれば。
考えても戻らない過が、吉田を毎晩苦しめた。
それでも、真実は話せなかった。
話せば自分は終わる。
部も終わる。
吉田は沈黙を選んだ。
ほかの力士たちも同じだった。
彼らはあののことをの奥に閉じ込めた。々いしても、にはさなかった。誰かが岳司の名をすと、部の空気がくなる。やがて誰も、その名を呼ばなくなった。
忘れたふりをする。
それが、彼らがきていくための方法だった。
そして12が流れた。
昭59(1984)。
川県の岳司の故郷のにも、代の変化が押し寄せていた。
若者は町へていき、港に残る漁の数もしずつ減っていた。祭りも昔ほどの賑わいはない。かつて子どもたちの声が響いたには、老たちのゆっくりした音だけが残っていた。
の集会で、ある提案がされた。
「のれにある古い俵を解体して、その跡に集会所を建ててはどうか」
その俵は、昔、祭りのに使われていた伝統なものだった。の若者たちが相撲を取り、子どもたちが周りで歓声をげていた代もあった。
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しかし、もう何も使われていない。
は伸び、俵の縁は崩れ、がるたびにが流れていた。
「残しておいても仕方ない」
「集会所があれば、寄りも集まりやすい」
「若い者もいないんだから、俵を使うこともないだろう」
そんな見がかった。
は会議の終わりに頷いた。
「では、来、俵を解体しよう。跡の備も含めて業者に依頼する」
誰も、そのに何が眠っているかなどらなかった。
それは、12閉じ込められていた真実の蓋をける決定だった。
昭59(1984)5。
解体業者がにやってきた。
朝の空気はまだしたく、からのが俵のを揺らしていた。作業員たちはトラックを止め、具をろしながら古い俵を見渡した。
「これ、かなり古いな」
作業員の1が、腰にを当てて言った。
「どのくらいに作られたんだ?」
くで見ていたの古老が、杖をつきながら答えた。
「昭30頃じゃないかな。もう正確に覚えている者もないよ」
俵はすでに祭りのではなかった。
がい茂り、で表面は固くなっていた。ので踏まれることもなく、いだけがそこに積もっていた。
業者たちはをかし、俵を崩し始めた。
はじめは何事もなく作業がんだ。側のが削られ、古い枠が取りされ、の根ごとが持ちげられる。
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たちはしれた所から作業を眺めていた。
「昔はここで相撲を取ったもんだ」
「岳司も子どもの頃、ここで遊んでいたな」
誰かがそう言った。
岳司の名がると、周囲はし静かになった。
12に京で姿を消した若者。
のたちはもう普段にはしなかったが、忘れたわけではなかった。
正雄と子は、その、俵の解体を見に来ていなかった。2にとって俵は、息子がかつて遊んだ所でもあり、京の相撲部をいさせる所でもあった。わざわざ見届ける気にはなれなかった。
作業は俵の部へんでいった。
がをすくいげる。
その、作業員の1が声をげた。
「おい、ちょっと待て」
の音が止まった。
別の作業員がづく。
「どうした?」
最初に気づいた作業員は、のを指さしていた。
「布みたいなものが見える」
皆が息をひそめて覗き込んだ。
確かに、のから黒ずんだ布のようなものがていた。いでは変わり、にまみれていたが、自然のものではないことはすぐに分かった。
「ゴミでも埋まってたのか?」
作業員たちはスコップに持ち替え、周囲のを慎に取り除き始めた。
しずつ、古い毛布のようなものが現れた。
ボロボロになっていた。ところどころ裂け、繊維はと体になっている。それでも、確かにので使われていた布だった。
作業員の1が毛布を引っ張ろうとした。
しかし、かない。