"土俵下の12年" 第6話
それは命令だ」
岳司は悔しさで涙がそうになった。
けれど、従うしかなかった。
部に戻り、布団に横になると、膝はを持ってきく腫れがっていた。触れるだけで痛みがった。
岳司は井を見つめた。
これで終わりだ。
もう俵にはてない。
6の苦労が、すべて無駄になった。
両親になんて言えばいい。
そのの夜、岳司は1で泣き続けた。
誰も慰めてくれるはいなかった。
誰も岳司の痛みを本当に分かってくれなかった。
ただ静かな夜ので、岳司は孤独に耐えていた。
翌朝になれば、何かが変わるかもしれない。
そうって目を閉じた。
けれど岳司はらなかった。
翌朝、取り返しのつかないことが起きることを。
昭47(1972)316。
岳司は朝4に目を覚ました。
膝の痛みで、ほとんど眠れていなかった。起きがろうとすると、膝が曲がらない。昨よりさらに腫れていた。
岳司は壁にをつき、なんとかちがった。
歩くことはできた。
けれど、歩ごとに激痛がった。
掃除のになると、岳司は膝を引きずりながら廊を拭いた。雑巾を押すに力を入れ、痛みを紛らわせるようにへむ。
の若い力士たちが配そうに声をかけた。
「林、丈夫か」
「無理するなよ」
岳司は首を振った。
「丈夫だ。これくらい、なんともない」
けれど、のでは分かっていた。
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もう限界だ。
今の稽古が終わったら、親方に相談しよう。
膝の治療をさせてもらおう。
そう決めていた。
5、稽古が始まった。
親方は岳司のを見て、すぐに言った。
「林、今は見学していろ。膝が治るまで無理はするな」
岳司はをげた。
「ありがとうございます」
その瞬、吉田が横からを挟んだ。
「親方、それでは林が甘えます。若い力士なら、怪くらいで休んではいけません」
親方は瞬考え込んだ。
「そうだな。しかし無理はさせられん」
吉田は淡々と続けた。
「では、軽い稽古だけさせましょう。股やすりくらいならできるはずです」
親方は頷いた。
「林、軽くやれ。無理はするな」
岳司は従うしかなかった。
「はい」
けれど、吉田の目にはたいものがあった。
稽古がむ、吉田が岳司にづいてきた。
「林、ちょっと来い」
岳司は嫌な予を覚えた。
しかし先輩の命令には逆らえない。
吉田は俵の隅へ岳司を連れてった。の力士たちは自分の稽古に集している。誰も2を気に留めていなかった。
吉田はい声で言った。
「お、昨から甘えてるな。膝が痛いくらいで何をげさに騒いでる」
岳司はをげた。
「すみません。でも、本当に痛くて……」
吉田の眉がぴくりといた。
「言い訳するな。俺だって怪をしながら稽古してきた。おだけが特別じゃない」
岳司は黙った。
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何を言っても無駄だと分かっていた。
「今から俺とぶつかり稽古をする。軽くでいい。やれ」
岳司は顔をげた。
「親方は、軽い稽古だけと……」
吉田はたく笑った。
「親方には俺が責任を持つ。いいからやれ」
岳司は従うしかなかった。
吉田が俵にった。
「来い」
岳司は膝の痛みをこらえ、吉田の胸にぶつかった。
力が入らない。
簡単に押し返された。
「なんだそれは。本気でやれ」
岳司は再びぶつかった。
結果は同じだった。
吉田の苛ちは増していく。
「お、本当にやる気があるのか。それとも相撲をやめたいのか」
岳司は必で答えた。
「違います。ただ、膝が……」
「膝、膝ってうるさい。そんなに痛いなら、さっさと辞めろ」
その言葉で、岳司のの何かが切れた。
6、耐えてきた。
暴力のような稽古にも、孤独にも、痛みにも。
すべては両親のためだった。
自分の誇りのためだった。
けれど、もう限界だった。
岳司は初めて、吉田を真正面から見た。
「吉田さんは、の痛みが分からないんですか」
俵のの空気が凍った。
吉田が目を見いた。
岳司は震える声で続けた。
「俺もです。限界があります」
吉田の顔が真っ赤になった。
「何だと。気なを聞くな」
吉田は岳司の胸を突きばした。
岳司はバランスを崩してろへがった。に体がかかり、膝が鳴をげた。それでも倒れまいと踏ん張った。
吉田は激していた。
「お、俺に答えするのか」
吉田が岳司につかみかかった。
岳司も、もうには引けなかった。