"土俵下の12年" 第4話
またぶつかる。
また叩きつけられる。
稽古が終わった、岳司の膝はきく腫れがっていた。歩くだけで痛みがる。
けれど、親方に言うことはできなかった。
怪をしたと言えば、い奴だとわれる。
稽古を休めば、先輩たちに鳴られる。
岳司は痛みを隠し、翌も俵にった。
膝の痛みは、ににひどくなった。
朝起きると膝が曲がらない。無理に曲げると、関節の奥で軋むような音がした。稽古に踏み込むたび、気がるような痛みが広がった。
それでも岳司は休まなかった。
休んだら、両親に顔向けできない。
ここまで来て、逃げるわけにはいかない。
そう自分に言い聞かせ、痛みに耐え続けた。
ある夜、同じ部の若い力士が岳司に声をかけた。
「林、膝、丈夫か? かなり腫れてるぞ」
岳司は慌てて布団のに膝を隠した。
「丈夫だ。ちょっと打っただけだ」
若い力士は配そうな顔をしたが、それ以は何も言わなかった。
この世界では、怪は自己責任だった。
誰かに訴えても、根性がりないと言われるだけだった。
岳司は1で耐えるしかなかった。
昭44(1969)。
岳司は初俵を踏んだ。
その、両親が川県から京まで見に来てくれた。母の子は、駅で再会した瞬から涙ぐんでいた。父の正雄は相変わらず無だったが、息子のきくなった体を見て、目だけは誇らしげにっていた。
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「岳司、派になったね」
子は息子のを何度も握った。
「ちゃんとべてる? 眠れてる? 怪はしてない?」
矢継ぎに尋ねる母に、岳司は笑って答えた。
「丈夫だよ。元気にやってる」
本当は膝が痛かった。
階段をるだけでもに力が入らず、夜になるとを持って眠れなかった。
けれど、岳司はそのことを隠した。
父が自分の元を見ていることに気づくと、わざとしっかり歩いてみせた。
「配するな。俺は丈夫だ」
正雄は黙って頷いた。
初俵の、岳司は両親ので必に戦った。
俵にがると、膝の痛みなど忘れたかのように体がいた。相にぶつかり、押し、耐え、倒れそうになっても踏みとどまった。
結果は3勝4敗。
勝ち越しはできなかった。
それでも親方は満していた。
「初俵でこれなら来だ。次は勝ち越せ」
両親もんだ。
「よく頑張ったね。お父さんもお母さんも誇りにうよ。のみんなに報告するからね」
子の目は赤かった。
正雄は岳司の肩を力く叩いた。
「次だ。次に勝てばいい」
岳司は笑顔で答えた。
「次は必ず勝ち越します」
しかし、のではが広がっていた。
膝の痛みは、確実にひどくなっていた。
そのも岳司は稽古を続けた。
痛み止めをみ、湿布を貼り、包帯で固定し、それでも稽古にった。膝は常にを持ち、し踏み込むだけで鋭い痛みがった。
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吉田の指導は相変わらず厳しかった。
「おはまだまだ甘い」
「もっとく当たれ」
「押しがい」
岳司は従った。
従うしかなかった。
稽古が終わると、部の呂で1膝を揉んだ。湯気ので腫れがった膝を見るたび、岳司はった。
いつまで耐えられるだろう。
この膝は、いつか完全に壊れてしまうのではないか。
けれど、音は吐けなかった。
両親の期待。
のたちの応援。
自分の誇り。
それらすべてが、岳司を俵へ向かわせた。
昭45(1970)。
岳司は19歳になっていた。
入から3が経ったが、番付はうようにがらなかった。膝の状態が悪く、本来の力をせないのだ。
親方は苛ち始めていた。
「林、おは才能があるのに、なぜ結果がない。もっと真剣にやれ」
岳司はただをげるしかなかった。
「申し訳ございません。もっと頑張ります」
しかし、頑張れば頑張るほど膝は悪化した。
あるの稽古、膝がれるような覚があった。
岳司は俵に倒れ込んだ。
痛みで息ができなかった。
親方がづいてきた。
「どうした」
岳司は顔をげ、必に答えた。
「丈夫です。すぐにちます」
親方はたく言った。
「怪をするのは準備がりないからだ。もっと体を鍛えろ」
岳司は歯をいしばってちがった。
涙がそうになったが、こらえた。
誰も自分の痛みを分かってくれない。
誰も助けてくれない。
この世界では、い者は置いていかれるだけだった。