"愛人旅行の代償" 第4話
夜、秀治は嫌で帰ってきた。
靴を脱ぎながら、廊の奥にいる美に声をかける。
「織が来ただろう」
「ええ」
「なら話はい。帰国したら荷物をまとめろ」
美は洗った湯呑みを布巾で拭いていた。
「どこへけというの?」
「それくらい自分で考えろ。俺はもう面倒を見る気はない」
美は顔をげなかった。
「こののことも、好きにしていいのね」
「古いなんかどうでもいい。織としく暮らすんだ」
「今の言葉、覚えておくわ」
「好きにしろ」
秀治は気にも留めず、リビングへ入っていった。
その夜、美は通帳の細をコピーした。
退職が入った座のき。
旅代。
織への振り込み。
見覚えのない具の予約。
赤い線を引くたび、胸の奥の震えはしずつ形を変えた。
恐怖ではなく、覚悟へ。
最に、美は計簿の端へいた。
旅は止めない。
ただし、言葉とおの流れは残す。
翌朝、美は娘の結を呼んだ。
結は結婚してをていたが、実からそれほどくない所に暮らしている。普段は仕事と庭で忙しく、頻繁に会うわけではない。それでも母の声にただならぬものをじたのか、午のうちに駆けつけてきた。
リビングに入った結は、テーブルのに並べられた計簿、通帳のコピー、秀治からのメッセージを見て、すぐに表を変えた。
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「お母さん、これ全部どうしたの?」
「昨からよ。織さんが来て、このにむつもりだって言ったの」
結は黙って子に座った。
美は、の夜から今朝までのことを順番に説した。秀治が定のに織を連れて帰ってきたこと。退職で旅へくと言ったこと。婚届を置いて、帰国に判を押せと命じたこと。織が見に来て、具を処分する話までしたこと。
結は途でを挟まなかった。
ただ、計簿の文字をじっと追い、通帳の細に赤線が引かれた箇所を確認していた。
「これ、言葉で残ってる?」
「計簿にはいたわ。あと、秀治さんのメッセージもある」
美がスマートフォンを差しすと、結は画面をじっと見た。
そこには秀治のい文字が並んでいた。
「古いなんかどうでもいい」
「のことは好きにしろ」
「帰国したらてけ」
結の目がたくなった。
「お父さん、自分で首に縄をかけてるね」
「そんな怖い言い方をしないで」
美がさく言うと、結は顔をげた。
「怖いのはお父さんの方だよ。お母さんを追いして、織さんをませる気だったんでしょう」
結の声はかった。
鳴らない分、刃物のようにたかった。
美は棚の奥から古い封筒を取りした。
「それから、これ」
「何?」
「登記類。この、私の名義なの」
結のが止まった。
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「おばあちゃんが残してくれたに建てただから。秀治さんは夫婦のだって言うけれど、名義はずっと私のままなの」
結は類をめくり、所者の欄で指を止めた。
そこには、美の名がはっきり記されていた。
「お母さん、これならお父さんは勝に織さんをませられない」
「でも、あのは夫婦のだって言うわ」
「んでいることと、持っていることは違うよ」
結の言葉に、美の目が揺れた。
、自分のなのに、自分の所ではないような気がしていた。
女はにいて当然。
妻なら夫をてて当然。
夫が稼いだで活しているなら、黙って支えるのが当然。
そんな古い板を、いったい誰が最初にてたのだろう。
そしてなぜ、自分はそこに疑問を持つことすら忘れていたのだろう。
「このは、お母さんのだよ」
結はまっすぐ言った。
「お父さんが勝に織さんとむ所じゃない」
美は膝のでを組んだ。
「私、違ってない?」
結は即座に首を横に振った。
「違ってない」
その声は、迷いがなかった。
「今度は証拠で話す番だよ。泣いて終わりにしちゃだめ。お母さんは36もしてきたんだから」
美の喉が詰まった。
「鳴ったら負けだとったの」
「うん。それでいい。鳴らなくていい。こっちは記録と類でめればいい」
結は計簿を閉じ、通帳のコピーを揃えた。
「お父さんと織さんが旅にくは?」
「」
「なら、そのにこう」
「本当にできるかしら」
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