"中卒社員の逆転邸宅" 第1話
「おい、役たずども。ちゃんとサボらず仕事してるのか?」
く響く声が、部の空気を瞬でくした。
俺は元の類から顔をげた。部の入には、腕を組んだ副社がっていた。ろには、いつも副社の顔をうかがっている数の取り巻き社員がいる。
ここは社内で、いつのにか追いし部と呼ばれるようになった部署だった。
俺たちに与えられている仕事は、類の理や過資料の確認など、誰がやってもきな成果につながらない雑務ばかりだった。以は現でに仕事をしていた社員もいる。けれど今は、学歴や学歴に傷があるというだけで、この部に集められていた。
副社はその部へ、1に何度もやって来た。
本当に確認が必だから来るわけではない。
嫌がらせをするためだった。
「自分の仕事は何もないんですか?」
誰かがさくつぶやきそうな空気になったが、俺は先にをいた。
「みんな真面目に仕事をしていますよ。ご配なく」
俺が静かに答えると、副社はで笑った。
「誰が卒の言葉を信じるかよ。それに、気く話しかけてんじゃねえ」
周囲の社員が息をのんだ。
副社の言葉は、いつもそうだった。相の仕事ぶりを見るのではなく、学歴だけでを見す。卒、学歴、役たず。そんな言葉を、何度も俺に向けてきた。
広告
それでも俺は、言い返さなかった。
腹がたないわけではない。
むしろ、胸の奥では何度もりが込みげていた。
けれど、今の俺にとって第1優先は会社で騒ぎを起こすことではなかった。
妻の産がづいていた。
俺は2に結婚し、妻はもうすぐ子供を産む予定だった。では毎のようにお腹の子がき、妻はしそうに、それでも幸せそうに笑っていた。
だからこそ、会社できな問題を起こしたくなかった。
副社の嫌がらせを放置するつもりはない。
ただ、今は期ではない。
俺はそう自分に言い聞かせていた。
「またすぐ見回りに来るからな。もしサボってたら、すぐ処分だからな」
副社はそう吐き捨てると、取り巻きたちを連れて部をていった。
扉が閉まったあと、部のにい沈黙が落ちた。
誰かがいため息をつく。
俺は子に座り直し、机のの類をえた。
「気にしないでください。やることはやりましょう」
そう言うと、向かいの社員がさくうなずいた。
副社に罵倒されるたび、この部署のたちはしずつを削られていった。けれど、誰かがってしまえば、それは副社のうつぼになる。
俺はそのことを分かっていた。
だから黙っていた。
守りたいものがあったからだ。
そして、いずれ必ずこの状況を変える。
広告
その決だけは、胸ので消えなかった。
俺の名は真司。
現はIT企業で働いている。
幼い頃から、俺は父と2で暮らしてきた。母はある突然、をていった。理由を詳しく聞かされたことはない。ただ、父はそのから、母の分まで俺にを注いでくれた。
決して裕福な活ではなかった。
父はさな会社を経営しており、毎本当に忙しそうだった。朝くをて、夜遅く帰ってくる。それでも俺に向ける表はいつも優しかった。
「ただいま」
玄関の扉がく音がすると、俺は台所から顔をした。
「お帰り。今の夕飯だけど、買ってきたお惣菜でいいかな?」
父は靴を脱ぎながら、し驚いた顔をした。
「うん、丈夫だよ。用してくれたのか?」
「お呂も沸いてるから、先に入ってきていいよ。洗濯物も畳んでおいたから」
父は困ったように笑った。
「洗濯くらいでやったのに。遊びにってもよかったんだぞ」
俺は首を横に振った。
「別にして遊びにってないわけじゃないから。俺にできることだからやってるだけだよ」
さいながらに、俺はどうすれば父の助けになるのかをいつも考えていた。
俺には仕事を伝うことはできない。
おを稼ぐこともできない。
だから、事を伝った。余計なおを使わないようにした。父が帰ってきた、しでも休めるようにした。
それが、当の俺にできる恩返しだった。
そんな活を続けるうちに、俺も学になった。