"母の墓に立つ母" 第10話
そして、7度目の5が訪れようとしていた。
5のある週末、輝の個秘である吉田は、久しぶりの休暇を歩きで過ごしていた。登靴の紐を結び直し、登り始めた朝はがなく静かだった。
の腹を過ぎた頃、方のから、女性と幼い男の子が並んで歩いてくるのが見えた。
吉田のがわず遅くなった。
女性の横顔、歩き方、子どものを引く仕。その1つ1つに見覚えがあった。
記憶の片隅にしまい込んでいた顔が、ふいに脳裏をよぎる。
7、病院の廊ですれ違ったあの女性だった。
しかし、そんなはずはない。
吉田はを振り、歩みをめた。確信は持てなかったが、嫌な予はなかなか消えなかった。
そのの夕方、会社に戻った吉田は、輝の執務のドアを叩いた。
報告をためらっていた彼が、いをいた。
「本、へったのですが、し妙なものを見ました」
輝は類から目をし、顔をげた。ぼんやりとしていた差しが、瞬で鋭くなる。
「妙なものとは?」
吉田が見た女性の相や特徴を1つ1つ説すると、輝の指先が机ので止まった。
しばらく沈黙が流れた。
やがて輝は、い声で命じた。
「徹底に調べろ。見過ごすな」
数、吉田の団が朝のに現れた。
の入りの雑貨にち寄ってさりげなく話を振り、畑仕事をする老たちのそばを通りすぎながら探りを入れた。
広告
「すみません。このの奥に、子どもを連れてんでいる女性がいると聞いたんですが、いつ頃からここに?」
返ってきた答えが1つ、また1つと積みなっていく。
そしてそれらの答えを照らしわせていた吉田の顔が、徐々にこわばっていった。
女性が初めてに現れた付が、彼がるあの病院での来事と正確に致したのだ。
輝の執務で、吉田は調査結果を慎に報告した。
「子どももちょうど7歳です。顔も、あのの女性と瓜つです」
輝の表が瞬で凍りついた。に握っていたペンが、折れそうなほどく握られる。
しばらく無言だった輝は、やがてくたい声でをいた。
「命を奪う必はない。2度と世にてこられないよう脅してやれ」
その夜、のにはいつもと変わらない夕暮れが訪れていた。
美紀が鍋で汁物を煮ていただった。
での枝を踏む音が、やけにきく聞こえた。美紀のがぴたりと止まる。を澄ますと、複数の見らぬ音が慎にへづいてくるのが分かった。
美紀の顔から血の気が引いていく。
彼女は慌ててハルトを布団のに押し込み、く切羽詰まった声で囁いた。
「母さん、ちょっとてくるから。戸に鍵をかけて、絶対にてきちゃだめよ。どんな音が聞こえても、絶対に」
ハルトは訳も分からないまま頷いた。
広告
美紀は最にハルトの額を撫でると、裏をけ、暗のへびすようにった。
わざとかられた方向へ音をてながら、美紀はを駆け抜けた。
背から懐灯のが2つ、3つと々のを揺れながら追いかけてくる。い声で互いを呼びう声、乾いた枝を踏み折る音がだんだんづいてきた。
美紀は息を殺して岩にを隠し、が通りすぎると再び反対方向へ向きを変えてった。
の枝が顔をかすめ、につまずいて何度もよろめく。息が切れそうだったが、止まることはできなかった。
ただ、この音をしでもく、から引きさなければならない。
それだけだった。
暗の、元が突然宙に浮いた。
美紀の体は瞬でバランスを失い、斜面のへ転がり落ちていった。の枝に腕が裂かれ、岩に全を打ちつけられる。
追いかけていた男たちがでち止まった。懐灯のがを照らす。
しばらく静寂が流れた。
1の男がく呟いた。
「きがないな」
もう1が辺りを見回し、目撃者がいないか確認した。の気配がないことを確かめると、男たちは互いに目配せした。
「引きげるぞ」
彼らは来たを引き返し、にをりていった。1度も振り返ることはなかった。
に1残されたハルトは、ドアノブを両で固く握りしめ、晩うずくまっていた。
がドアを揺らすたびに、肩がびくりと震える。