"母の墓に立つ母" 第9話
「まあ、ハルトが歩いたわ」
美紀の声が庭いっぱいに響いた。作業のを止め、ハルトを抱きげた美紀の目には、いつしか涙が浮かんでいた。
ハルトが初めて「母さん」という言葉をにしたのも、その頃だった。
夕飯の支度をしていた美紀が台所からてくると、ハルトがさなを伸ばしながら、たどたどしく言った。
「母さん」
美紀のからお椀が滑り落ちそうになった。
彼女はそのに膝から崩れ落ちるようにハルトを抱きしめた。背を撫でる指先が、かすかに震えていた。
胸の奥がちくりと痛んだ。
けれど、その言葉を訂正することはできなかった。
「違う」と言ってしまえば、このさな子どもの世界を壊してしまう。今のハルトにとって、自分は母であるしかなかった。
美紀はただハルトのに顔をうずめ、しばらくの、そうしていた。
夕方になると、2はさな卓に向かいって座った。美紀が採ってきた菜に噌をえてすと、ハルトはさなでスプーンを握り、でご飯をに運んだ。
「母さん、これおいしい」
「たくさんおべ、ハルト」
ではそう言っていたが、美紀の胸のには、いつももう1つの名があった。
美優。
本当の母である妹の名。
夜になると、2は並んで布団に入った。美紀が静かにう子守に、ハルトはすぐ眠りに落ちた。
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美紀はそのさな寝息を聞きながら、ハルトの額をそっと撫でた。
活が落ち着くと、美紀はの斜面に自する植物へ目を向けた。
ワラビ、ゼンマイ、薬。の老たちから聞いた識を頼りに慎に根を掘り起こし、採れた菜や薬をで売って、しずつ計をてていった。
同じ頃、体を回復させた美優は図館に復帰し、再び司の仕事についていた。
から見れば、以と変わらない常だった。
けれど仕事帰り、くのの角に見らぬが止まっているのを目にするが増えた。架を理しているも、ふと背にたい線をじて振り返ることがあった。
それには理由があった。
輝はまだ、完全に疑いを捨てていなかったのだ。
その頃、輝の部たちが再び美優の病院を訪れていた。丁寧な調のに鋭さを含ませ、担当医へ問い詰めるように尋ねた。
「々の調査では、産婦の状態はそれほど刻ではなかったようですが」
疑いの差しを向けられ、医師の背にや汗が流れた。
彼はあらかじめ用していたカルテを差しし、部は何度も類へ目を通した、しぶしぶ頷いてそのをった。
こうして輝側の疑は旦収まったかのように見えたが、美優に対する監の目は簡単には解かれなかった。
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幸いにも、その線がの奥くまで届くことはなかった。
美紀とハルトは、そんな危険な綱渡りが繰り広げられていることなどらず、穏やかな々を過ごしていた。
のの季節は、何事もなかったかのように巡っていった。
にはツツジがの斜面を赤く染めげた。美紀はハルトを背負ってを取りにかけた。
になり、桔梗のがに咲く頃には、取りがしっかりしてきたハルトが川で遊びをしながら楽しそうに笑い、美紀もそので緒にを浸して微笑んだ。
になると、ススキがく揺れた。ランプのかりの、美紀はハルトのさなを取って文字を教えた。ぎこちない指先で歪んだ文字をくハルトを見つめる美紀の目元には、いつも優しい微笑みが浮かんでいた。
になると、全体が枯れた枝だけを残して寂しい姿になった。厳しいが戸の隙から吹き込む夜には、2は互いのぬくもりに寄り添って体を丸めた。
1枚の布団を分けい、美紀はハルトを胸のへしっかり抱き寄せた。
そうして、、、が何度も繰り返された。
再びアカシアのりが満ちる5が訪れたある、美紀はを登るの途でを止め、ハルトの肩をそっと抱いた。
「ちょうど今頃だったわ。あなたを初めてこの腕に抱いたのは」
美紀の目が赤くなった。
ハルトはその言葉のみを完全には理解できないまま、ただ母のをく握り返した。
そうして、6度のが過ぎていった。