"母の墓に立つ母" 第8話
美優は、そのあざをい見つめた。まるでその所を、指先にも目にも焼きつけようとするかのように。
「これ、忘れない。このあざを見て、あなたを見つけるから」
声は震えていたが、最まで涙は見せなかった。
美紀はそんな妹の肩をそっと抱きしめた。
「何があっても、私がこの子を守るから。あなたは配しないで」
その夜、美紀は産着に包まれたハルトを腕に抱き、病のドアをた。
廊のかりを避けながら歩くそのろ姿が、非常階段の暗のへゆっくり消えていく。裏をた瞬、が2を包み込んだ。
どこからか運ばれてくるアカシアのりが、たい空気のにほのかに広がっていた。
美紀は腕のの赤ん坊をさらにく抱きしめ、のかかった夜けのへ歩みを急いだ。
病の窓辺に寄りかかり、美優はくのへさくなっていく姉のろ姿をいつまでも見つめていた。
ガラス窓に触れた指先が、かすかに震えている。
こらえていた涙が、ついに喉を突き破るように溢れた。
「お姉ちゃん……どうか、きていて」
その声はたいガラス窓にぶつかり、誰にも届かないまま、け方の病のに消えていった。
赤ん坊の泣き声がまだに残るうちに、美紀は見らぬ暗のを歩いていた。
産着に包まれたハルトを胸にしっかり抱きしめ、美紀の取りにはにも目があった。
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いつか妹と並んで歩きながら、何気なく交わした会話がその瞬、はっきり蘇ったのだ。
「お姉ちゃん、を取ったらどこにみたい?」
「そうね。朝の麓あたりはどうかしら。昔通りかかったことがあるんだけど、静かで空気がきれいだったわ」
ただの世話として流れたその言を、美紀は忘れていなかった。
バスを何度も乗り継ぐうちに、窓のの町の灯りは次第にざかり、がくなっていった。腕ののハルトがじろぎするたび、美紀はを止めて背を優しく叩き、また歩きした。
が完全に暮れた頃、朝の麓のの入りにたどり着いた。の力が抜け、何度もよろめく。の入りにかりが漏れるさながあり、美紀はそこでようやく歩みを止めた。
ドアを叩く指先が震えていた。
背にじる赤ん坊のぬくもりがなければ、そのまま崩れ落ちていたかもしれなかった。
ドアをけててきたのは、髪のいおばあさんだった。
若い女性が赤ん坊を抱いてっているのを見ても、おばあさんは特に何も言わなかった。ただドアをきくけ、温かい部の角を貸してくれた。温かい粥を作ってくれただけだった。
翌朝、美紀はおばあさんにの様子をそっと尋ねた。
おばあさんは庭の向こうのの稜線を指差し、何気なく言った。
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「あのの奥に、昔捨てられた古いが1軒あるよ。誰も登らない所さ」
美紀の線は、おばあさんの指差すの稜線へ向かった。
瞬ためらったが、「誰も登らない」というその言で、むしろすっと軽くなった。
今の美紀に必なのは、まさにそのような所だった。
翌、美紀はハルトをおんぶ紐で背負い、を登り始めた。の枝がふくらはぎをかすめ、元のにつまずいて何度も歩みを止められた。
息が切れそうになった頃、々のに1軒のが見えてきた。
づいてみると、根はしっかりしており、2の部とさな台所までついていた。2で暮らすには分な広さだった。
ただ、いのが入っていなかった。ドアをけると古い埃の匂いがち込め、壁の隅々には黒いカビがえていた。
そのから数、美紀は袖をまくり、のを隅々まで掃除した。
カビのえた壁をたわしでこすり落とし、を何度も雑巾がけした。指先はひび割れ、爪のは真っ黒になった。それでもハルトが眠る部だけは、特に入りに入れをした。
そうしてしずつ活がっていった。
ハルトが初めて歩いたのは、そのにみ始めてちょうど1が経ったのだった。
庭先での枝をえていた美紀の目ので、支柱につかまりちしていたハルトが突然をした。
両腕を空で振りながら、よちよちと2歩、3歩と歩き、そのまま美紀の膝のにどさりと倒れ込んだ。