"母の墓に立つ母" 第5話
「プレッシャーをかけるつもりはありません。ただ、隠しておきたくなかったんです」
い沈黙の、美優はゆっくり顔をげた。瞳にはまだ揺のが残っていた。
「私は……そういう世界のこと、よく分かりません。怖いですし」
健が何かを言おうとした、美優が先に言葉を続けた。
「でも、怖いということとは別に、私は健さんのことが好きです」
恥ずかしそうにし線をそらしながらも、その元にはかすかな微笑みが浮かんでいた。
その言葉に、健の顔に堵のが広がった。
ベンチのに置かれていた2のが、示しわせたように同にき、互いに向かって伸びていく。
指先が触れった瞬、ちょうど吹いたに乗って桜のびらが1枚、2のねたのにふわりとい落ちた。
こうして2は、正式に互いの隣を歩き始めた。
桜が咲き乱れたそのの、世界の何者も2の未来を遮ることはできないようにえた。
しかし、このの恋がやがてどれほど過酷なを迎えることになるのか、そのの2はまだる由もなかった。
は過ぎ、が過ぎ、再びの先にたさが混じる9の頃だった。
あの華やかだったのぬくもりは、誰も予しなかった形で々に打ち砕かれようとしていた。
田恵美子のに、息子の交際の噂が入ったのは、ほんの些細なきっかけからだった。
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60歳を目にした恵美子は、Hホールディングス会・田敬の妻として、涯を名の夫としてきてきた女性だった。息子の結婚だけは、必ず柄の釣りう相と成させる。それが彼女のの信だった。
そんな彼女のに、健の運転が何気なく漏らした言が届いた。
執務に秘を呼び、相がどんな物であるかを詳細に報告させた恵美子の顔は、そのでたく凍りついた。
「司ですって。両親もいなくて、姉と2きりだというの?」
恵美子の指先が、ティーカップの取っを神経質になぞった。爪が陶器の表面を引っかく音が、苛たしげに部に響いた。
「貧しい司ごときが、どこをどうすれば」
く吐き捨てたその言には、たい蔑みが込められていた。
恵美子はティーカップを音をてて置くと、すぐに秘へ命じ、ある物を呼び寄せた。
田輝。
31歳。Hホールディングスの副会だった。
輝は、田の親族が若くしてくなった、幼い頃に敬に引き取られ、内同然に育てられた物だった。そうして育った輝は、現Hホールディングスの副会の座にあり、にわたって継者としての教育を受けてきた。
正統な男である健より7歳だったが、幼い頃から兄弟のように育った仲だった。
執務に入ってきた輝ので、恵美子はしばらく無言だった。
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ただ窓のを眺めていたが、やがて背を向けたままい声でをいた。
「静かに処理なさい」
そのい言に込められたを、輝は正確に理解した。
「承いたしました」
く答えて執務をていく彼の取りには、表には見えない奇妙なみがあった。
廊を歩きながら、輝のは素く回転し始めた。
これまで健はグループの経営に関わらず、学業に専してきた。しかし結婚という節目を迎えれば、状況は転するはずだった。
庭を持てば自然と会社での位を固めることになる。正当な男である健が本格に継者争いに加わった瞬から、輝自のは揺らぎかねない。
黙々と築きげてきたものが、顔も見たことのない女1のために危に瀕する。
輝は歩きながらく独り言を漏らした。
「あいつが結婚すれば会社に入ってくる。そうなれば、俺のも危うくなるな」
輝がを起こすのに、数とかからなかった。
配したを通じて作られた数枚の写真が、すぐに健の机のに置かれた。
ぼやけてはいたが、らかに美優とわれる女性が、見らぬ男性と親しげに笑いながら産婦科の建物に入っていく面だった。
「健、あの女は実は別の男の子をごもっているそうだ。目当てでおにづいたんだ」
輝の声は同を装いながらも、かすかな力がこもっていた。