"母の墓に立つ母" 第4話
健はそれをよく分かっていた。だから論文を理由に、しでもく自由なを引き延ばしていた。
そのも、表向きは論文の資料探しだった。
けれど彼の線は、実は架のをき来する1の女性に注がれていた。
26歳の司、佐藤美優だった。
清楚な佇まいで、歩き方はきびきびとしていた。本を理する指先には、いつも丁寧さがじられた。古い本を棚に戻すでさえ、表がまっすぐになる角度をわせ、貸ししカードを理するも乱れなく順番をそろえていた。
そのささやかな誠実さが、健の目にはひどく印象に映った。
美優は決して裕福な庭のまれではなかった。両親をくにくし、双子の姉・美紀と2で寄り添うようにきてきた。
2は卵性の双子で、鏡をわせたように顔も声もそっくりだった。美紀がたった3分くまれたというだけで、2は自然に姉と妹という役割に分かれていた。
その3分の差が嘘のように、美紀は美優にとって頼もしい保護者の役割を自ら買ってていた。両親のを埋めるかのように、美紀はいつも妹より歩先にち、世の荒波を引き受けてきた。
姉はを卒業するとすぐにさな会社の経理として働き始め、活費を稼ぎ、そのおで妹の学費まで面してくれた。
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美優はそのことを、1たりとも忘れたことがなかった。
だから図館で働くも、いつも笑顔を絶やさないよう努めていた。姉が与えてくれたこの会を無駄にできないといういがあった。
健は何週も、ただ同じ所をうろつくだけだった。
話しかける実を探しては、いざ美優がくに来ると関係のない本のページをめくる。そんなことを繰り返していた。
ある、健はようやくに取った本を1冊持って、貸ししカウンターへ向かった。臓が異様なほどきく鳴っていた。
「この本、借りたいんですけど」
美優は本を受け取り、表をちらりと見た。そして、し笑いをこらえるような表をした。
「これ、児童向けの絵本ですけど、よろしいですか?」
健の顔が瞬で赤くなった。慌ててに取った本が、よりによって絵本だったのだ。
気まずそうにをかくその姿に、美優はついにこらえきれず、さく笑い声を漏らした。
その笑い声が、健のには議なほどく響いた。
そのを境に、2は自然と話すようになった。
健はもう実を探す必がなかった。図館の閉館にわせてロビーで待つことが増え、2は並んでキャンパスを横切るのが常となった。
桜が満の午。
図館の広に並ぶ桜の々が、斉にびらを散らしていた。
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が吹くたび、2のにはピンクのがるようだった。
美優はのひらを広げ、落ちてくるびらを受け止めながら歩き、健はその隣で何度も歩く速度を緩めた。このがしでもく続いてほしいと願っていた。
その夜、美優は宿に戻ると姉に話をかけた。
受話器の向こうから姉の聞き慣れた声がすると、美優は布団を抱きしめながら、おずおずとをいた。
「お姉ちゃん、私、最気になるができたの」
「まあ、誰なの?」
「図館によく来るなんだけど……でも、ちょっと気がいの。なんだか、私とはむ世界が違うみたいで」
美優の声の語尾は、し曇っていた。
嬉しい。
けれど怖い。
そんな気持ちだった。
数、健はこれ以先延ばしにしないと決した。キャンパスのベンチに並んで座り、しばらくためらった、いをいた。
「美優さん、実はまだ話していないことがあります」
美優が顔を向けると、健の表はいつもと違って固く真剣だった。
「うちのは、しきな事業をしています。父がHホールディングスの会なんです」
その瞬、美優の目がきく見かれた。
指先が膝のでびくりとく。
企業の御曹司。
その言が、これまで築いてきたよい空気を瞬にして凍りつかせた。
美優は線を落とし、しばらく何も言えなかった。
自分とはあまりにも違う世界のだという事実が、今さらながらくのしかかってきた。
健はそんな美優の表を配そうにうかがいながら、を伸ばそうかどうしようか何度もためらった。