"母の墓に立つ母" 第3話
ハルトに気づいたおばあさんはを止め、しわの刻まれた顔をほころばせた。
「今も来たんだね」
ハルトはぴょこんとをげた。
「はい」
おばあさんは彼のの束をちらりと見たが、特に何も言わなかった。ただ、静かに頷き、再び畑の方へ歩きった。
このをハルトが毎歩く姿は、すでにたちにとって見慣れた景の部になっていた。
おばあさんと別れ、再びを登り始めてもなくのことだった。
の枝が1本、やけにきく揺れた。ひとつないだったにもかかわらずだ。
ハルトはを緩め、辺りを見回した。特に変わったものは見えなかった。けれど、先にふと嗅ぎ慣れないりが触れた。
のでは1度も嗅いだことのない、品で柔らかなの匂いだった。
ハルトの取りは自然と慎になった。元のを踏む音さえ、やけにきく聞こえる。息を潜め、歩歩ゆっくりと歩をめた。
墓がづくにつれて、その違はますます濃くなっていった。
何かがいつもと違う。
言葉では説できないが、はっきりとじられる気配があった。
々のから、母の墓の盛りが見え始めた。そのに、見らぬ誰かがっていた。
ハルトのがそのできたりと止まった。にしていた束から力が抜け、だらりと垂れがる。
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この3、こんな寂しいまで登ってきて、墓のにっていたなど1もいなかった。の々でさえ、この所をハルトだけのものだとって、を踏み入れるのをためらっていた。
女性は背を向けたままっていた。
コートの裾がにわずかに揺れ、肩がかすかに震えている。そしてその背から、とてもく静かなすすり泣きが漏れていた。
に乗ってハルトのに届いたその声は、まるでいこらえてきた涙が、今ようやく溢れたかのようだった。
ハルトの臓がどくどくと鳴り始めた。
あのは誰だろう。
なぜここで泣いているのだろう。
数えきれない疑問がをよぎったが、からは何の言葉もてこなかった。が面に張り付いたようにかない。
指先がたくなっていくのを自分でもじた。
「あの……どなたですか?」
やっと声をすと、女性の肩がぴくりと揺れた。
女性がゆっくりと、とてもゆっくりと、顔をこちらに向け始める。が引き延ばされたようにじられた。肩越しに見え始めた横顔、筋、涙で濡れた頬。
そして、完全に振り向いた正面の顔。
ハルトは息が止まりそうになった。
それは、3にくなった母の顔だった。
ので何度も呼びかけた顔。朝起きるたびに、しずつ記憶かられていくことが怖かった顔。
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台所で笑い、夜に子守をい、でを引いてくれた顔。
その顔が、今、目のにあった。
「母さん……母さんなの?」
その言が、の静寂を切り裂いた。
女性の顔が瞬で青ざめた。目を見き、震えるでを覆う。そして、何かに弾かれたようによろめきながらずさった。
しばらく何も言えずにいた女性は、やがて震えるをハルトの方へ伸ばした。しかし、そのはハルトに届く直で止まった。
「あなたは……体、誰なの?」
声までもが震えていた。
その問いがに響く、ハルトと女性は互いの顔から目をせないまま、そのに凍りついたようにち尽くした。
ひとつない5の午だった。アカシアのりだけが、その静寂のを漂っていた。
墓のの女性、美優ののは、収拾がつかないほど混乱していた。
の顔に、見覚えのある何かがちらついていた。臓が異常なほど激しく鼓を打ち始める。崩れるようにずさった美優の脳裏に、い封じ込めていた記憶がに蘇った。
桜がい散る。
物語は、そこから始まっていた。
今から10のことだった。
学図館の3階、窓際の席には、いつも同じに現れる学院の男性がいた。
田健。
30歳を目にしても、1つまた1つと学位をね、留学と学院をき来していた。から見れば回りに見えるそのき方には、健なりの理由があった。
実が定めた継者としてのを、できる限り先延ばしにしたかったのだ。
会社に入った瞬、父・敬、そして母・恵美子の支配のへ完全に組み込まれてしまう。