"母の墓に立つ母" 第2話
川崎は眉をひそめ、類を子どものに突きした。そして、ボールペンをハルトのに握らせた。
「そんなことはで考えればいい。まず、ここに名をきなさい」
ハルトはボールペンを握ったままかなかった。のの空が、やけにきく見えた。そこに自分の名をいた瞬、本当にここをれなければならないという事実が、釘のように胸に突き刺さる気がした。
「くけ。がないんだ」
川崎の声が鋭くなった。
ハルトは唇をぐっと噛みしめた。指先がので瞬ためらい、やがて仕方なくき始めた。
田ハルト。
3つの文字をきめるが、かすかに震えていた。最の線をき終えても、ハルトはしばらくその名から目をせなかった。まるで自分のものではない、の名をいたように見えた。
その、机のに置かれていた川崎の携帯話が、けたたましく鳴り響いた。
発信者を確認した川崎の表が瞬で固まった。眉がぴくりとき、元に浮かべていた作り笑いが消える。彼は慌ててドアのにて、背を向けて話にた。
ドアの向こうから、いが鋭い声が漏れてきた。
「予定をこれ以延ばさないでください。今週に必ず国させてください。これ以遅れると、々双方にとって厄介なことになります」
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川崎がその言葉に逆らえないのには理由があった。
し、見らぬ男が施設を訪ねてきた。男は分い封筒を1つ、静かに机のに置いていった。施設への寄付という名目に化けたそのは、今も川崎の懐のどこかにく残り、彼をがんじがらめにしていた。
「はい。承いたしました」
話を切った川崎の額には、いつのにか汗が滲んでいた。
部に戻ってきた彼は、署名の終わった類を慌ててしまい込み、先ほどよりも焦ったつきで言った。
「よし。さあ、残りの荷物をまとめなさい」
その瞬、そばで見ていたの施設の子が、そっとハルトにづいた。彼はハルトの肩をぽんと叩き、さな声で言った。
「何かあったら、必ず俺に言うんだぞ。分かったな」
その言に、ハルトは初めてかすかな堵のため息をついた。さくても頼もしいだった。
勇気をしたハルトは、再び園を見げた。
「母さんのお墓にってきてもいいですか。母さんに、お別れの挨拶をしないと」
川崎は計をちらりと見て、いため息をついた。
「半だけだ。その内に必ず戻ってくるんだぞ」
許がると、ハルトの取りはしだけ軽くなった。
古びた運靴の紐を固く結び直し、彼は施設をた。バスの窓のでは、アカシアのいが咲き乱れ、が吹くたびにびらがのようにっていた。
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その向こうに、見慣れたの稜線がしずつづいてきた。
「これで最だよ、母さん」
先ほど類にいた見慣れない自分の名をい浮かべながら、ハルトはさく呟いた。
そして、慣れ親しんだへとを踏みした。
そのの先で、どんな顔が自分を待っているのか、はまだる由もなかった。
そのは、ハルトにとって見慣れたものだった。
目を閉じても歩けるほど、体に染みついただった。のから突きたひとつ、曲がり角ごとにつ古い松の1本に至るまで、そのすべてが、3歩き続けた取りのに刻まれていた。
の入りに差しかかったところで、ハルトはを止めた。端にく咲いていた野のが目に留まったのだ。
彼はしゃがみ込み、を伸ばしてそっとそのを摘んだ。すでにに持っていた野のの束に、その1輪を加える。
「母さん、今はこれも持っていくね」
さらに数歩登ると、端に咲く黄いが目に入った。それも摘んで束に差し入れる。ののが1つ、また1つと増えるにつれ、束はずっしりくなっていった。
この束は、毎しずつ違っていた。
はツツジが残っていたので緒に束ねた。昨はがく、野のを数本集めるのがやっとだった。そのごとの違いを、ハルトは指先で全部覚えていた。
の角を曲がろうとした頃、方に見慣れたろ姿があった。畑仕事を終えて帰る途らしい、鍬をにした所のおばあさんだった。