"月あかりの逆転食卓" 第3話
「まあ、ありがとう。助かるわ」
「こっちのつ葉もりがいいよ。ちらし寿司に使うんだろ?」
「よく分かるわね」
「そりゃあ、梨子さんが張り切ってるは、だいたい孫さん絡みだからな」
主の冗談に、私はわず笑った。
こういう何気ないやり取りが好きだった。
料理には、も気持ちもかけるもの。誰かがべて笑顔になる姿を像しながら台所につのが、私にとっては何より幸せだった。
ぷらの具材、煮物の野菜、の好きな老。
1つ1つ丁寧に選び、に戻る頃には、両いっぱいの袋になっていた。
に帰ると、すぐにごしらえに入った。
昆布とかつお節で丁寧に取った汁。祖母から受け継いだ煮汁の比率。ぷらの配。油の温度。が「おいしい」と目を丸くする姿が浮かぶたび、が止まらなくなる。
正治は横で野菜の皮をむきながら、呆れたように笑った。
「本当にバーバ馬鹿だな、おは」
「そうかしら」
「そうだよ。だけど、そういうところが梨子らしい」
その言葉に、じんわりと胸がくなった。
夜になっても、私は台所にち続けた。
の準備。
の作り置き。
材ごとの保。
眠気より先に、の笑顔が浮かんでいた。
「バーバのぷら、1番好き」
その声がに残っていた。
まさかその「1番好き」が、3に1番残酷な言葉で踏みにじられるなんて、このの私はまだる由もなかった。
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誕会の、私は最の仕込みをしていた。
台所には甘辛く煮た椎茸のりが広がり、だし巻き卵を焼く音がさく弾ける。包丁で絹さやを細く切りながら、私はの笑顔をい浮かべた。
その、秀夫のでどんな会話が交わされていたのか、私はらなかった。
奈々はスマートフォンを見ながら、声で真理子に言っていた。
「今もさ、本当にバーバのご飯って言われて、正直どう反応していいか分からなかったんだよね」
真理子はで笑った。
「子どもはが濃ければおいしいって言うのよ。は違うの。盛り付けもも、ちゃんと洗練されていないと」
奈々は同するように声を潜めた。
「ねえ、のご飯どうする? ママの料理と並べたら見劣りしちゃうよね」
「そこはあなたがうまく流してあげればいいのよ」
「そっか」
その会話は私のには届かなかった。
けれど、今えば、あのの空気は私が像していたよりずっと歪んでいたのだ。
何かが起きる。
何か決定なことが。
その瞬は、もうすぐそこまで迫っていた。
誕会の、玄関をけると、が弾む声で迎えてくれた。
「バーバ、来てくれた!」
その言で、胸がほどけるようだった。
私は両の荷物を抱え直しながら、に笑いかけた。
「約束したもの。ちゃんと来たわよ」
奥のリビングに入ると、奈々の母・真理子がソファに座っていた。
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背筋を伸ばし、いかにも品のよさそうな装をしている。けれどこちらを見る目には、値踏みするようなたさがあった。
「お邪魔します」
正治が丁寧にをげ、私も続いた。
真理子は曖昧に微笑んだだけで、すぐに線を料理の袋へ移した。
私は気にしないようにして、テーブルに料理を並べていった。
ちらし寿司、ぷら、お煮しめ、だし巻き卵。が好きだと言ってくれたものばかり。
その隣で、息子の秀夫が腕を組みながら曖昧に笑った。
「うん、豪華だな。母さん、ありがとう」
言葉だけは丁寧だった。
けれど、その声にはどこか慮と気まずさが混じっていた。
私は内、議にった。
の誕なのに、なぜ秀夫はそんな顔をしているのだろう。
の笑顔とは対照に、秀夫の線は料理からすぐ逸れていった。
真理子は最初から品定めをするような顔だった。
「まあ、ずいぶんが濃いわね」
煮物を見ただけで胸焼けがしたかのように、で笑う。
奈々も平然と続けた。
「これ、買ってきた方がよかったかもね。ほら、デパの方がいし、写真映えするし」
私のがすっとえた。
買ってきた方がいい。
3かけて作った料理をに、奈々は何の悪気もないように言った。
その、だけがるい声をげた。
「これ全部、バーバが作ったの? すごい! 、好き!」
私は救われたような気持ちになった。
けれど真理子は、の声など聞こえないかのように、だし巻き卵を箸でつついて首をかしげた。