"月あかりの逆転食卓" 第1話
孫のの9歳の誕祝いに、私は3ほとんど眠らず料理を作った。
両いっぱいに抱えてきた箱を、息子夫婦ののテーブルにそっと並べた瞬だった。
嫁の奈々が、箸もつけないままスマートフォンを片に笑った。
「ねえ、やっぱりの料理って、ちょっと気持ち悪くて」
その声はきくはなかった。けれど、リビングにいた全員のに届くほど、はっきりとした響きだった。
私は瞬、何を言われたのか分からなかった。元に置いた皿の位置を直そうとしていた指が、そのまま止まる。煮物の湯気がゆっくりがり、ちらし寿司のに散らした錦糸卵が照を受けて淡くっていた。
その横で、奈々の母・真理子が皿を指先で軽くつついた。
まるで、何か汚れたものに触れるのを避けるような仕だった。
そして、品ぶった声で続けた。
「ごめんなさいね。私、こういうのを受け付けないの」
その言葉が落ちた瞬、リビングの空気が確かに変わった。
孫の誕祝いの席だった。
がぶ顔を見たくて、私は3からを回り、ごしらえをし、夜まで台所にっていた。煮物、ちらし寿司、季節のぷら、だし巻き卵。全部、が好きだと言ってくれたものばかりだった。
それを、奈々と真理子は笑った。
汚いものでも見るように、私の料理をざけた。
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息子の秀夫は、ただ黙って目をそらしていた。妻を止めるでもなく、義母に注するでもなく、私の方を見ることさえしなかった。
夫の正治は、私の隣で拳を握っていた。顔は赤く、元はく結ばれている。何か言おうとしたのだろう。けれど私がさく首を横に振ると、正治はぐっと言葉をみ込んだ。
そので、だけが目をうるませていた。
「これ、バーバが作ったやつ……」
さな声だった。
その声が、私の胸にく突き刺さった。
私はのぶ顔が見たかった。ただそれだけだった。をしでも伝えたくて、眠を削り、指先をやし、腰の痛みをこらえながら作った料理だった。
それなのに、奈々は笑っていた。
真理子は眉をひそめたまま、皿をざけていた。
秀夫は、母の料理を守ることすらしなかった。
私はそのにち尽くしながら、胃の奥がぎゅっと締めつけられる覚を覚えた。
その瞬、胸のどこかで、何かがぱきんと折れる音が聞こえた気がした。
ああ、私はもう、こので母親として耐える必なんてないのだ。
テーブルのの料理が、しずつえていくのが分かった。
それと同じ速度で、私のも静かにえていった。
誰もまだ気づいていなかった。
このを境に、このの運命が音もなく崩れ始めることを。
話は数に遡る。
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その、私は3かけて仕込んだ料理を両いっぱいに抱え、夫の正治と緒に秀夫のの玄関をくぐった。
「バーバ!」
弾むようなの声が、廊の奥からんできた。
その声を聞いた瞬、私の胸は気に温かくなった。疲れも、寝も、の痛みも、その声だけでどこかへ消えてしまう。
「、お誕おめでとう」
私は料理の入った袋を落とさないように気をつけながら、のをそっと撫でた。は私のに頬を寄せるようにして笑った。
「バーバのご飯、今ある?」
「もちろんよ。が好きなもの、たくさん作ってきたからね」
「やった!」
その笑顔を見るためだけに、私はここまで頑張ってきたのだとえた。
リビングに案内されると、私はテーブルのに料理を並べていった。箱の蓋をけるたび、だしのりと揚げ油のばしさがふわりと広がる。
煮物。ちらし寿司。季節のぷら。だし巻き卵。が好きなものばかり。
「がぶといいわね」
私はさく微笑んだ。
その瞬だった。
ソファに座っていた奈々が、スマートフォンから目をさないまま、こちらをちらりと見た。見すような線だった。奈々はInstagramでフォロワー数がいことをいつも誇りにしている。華やかな卓やブランド器、照を計算した料理写真を投稿し、周囲から褒められることに慣れていた。
そんな奈々にとって、私の料理はきっと古くさく見えたのだろう。
彼女はスマートフォンをし持ちげ、嘲笑うような調で言った。