"20年目の神隠し夫婦" 第10話
底にある狭くな倉庫に押し込められ、ハッチが乱暴に閉められた。
をつくような油の臭い。
古いエンジンの、ずずずず、というい振。
がきし、波を激しく打つたびに、暗ので2は互いのを折れんばかりの力で握りしめた。
「ごめん、しおり。僕のせいで……」
俊介の声は震えていた。
「丈夫。私たちはきっと丈夫だから」
しおりも震えながら、必にそう返した。
暗ので交わされたさな囁き。
それが、絶望への入りだった。
どれほどのが経ったのか、もはや覚は麻痺していた。
夜け頃、がに止まった。ハッチがき、眩しいが目を刺した。
男たちは、2の財布、パスポート、携帯話を奪った。そしてフィリピン域にある、図にも載っていないような名もなき無島へ、2を放りした。
「ここでぬまで待っていろ」
男たちはそれだけ言い残すと、黒い煙をげて再びの向こうへ消えていった。
そこから始まったのは、獄のような数だった。
遮るもののない国の太陽が、容赦なく2の皮膚を焼いた。
も料もない。喉の乾きは次第に、喉の奥を焼けつくような痛みへ変わっていった。のは乾き、唇はひび割れ、声をすことさえ苦しくなった。
夜になれば、今度は凍えるような寒さと、得体のれないき物の鳴き声に怯えた。
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「お姉ちゃん……お母さん……」
朦朧とする識ので、しおりは族の名を呼び続けた。
俊介は自分のシャツを裂いてよけを作り、識を失いかけたしおりを抱きしめながら、ただ波の音を聞いていた。
もう、ここからきて帰ることはできない。
そう覚悟しかけただった。
平線の向こうに、1隻のさな漁が見えた。
2を救いしたのは、偶然通りかかったフィリピンの貧しい漁師たちだった。
彼らは言葉の通じない2を自分たちのへ連れ帰り、貴なと事を分け与えてくれた。粗末な椀に入った温かいスープが、しおりの体に染み込んでいく。俊介は震えるでその椀を受け取り、何度もをげた。
命は助かった。
しかし、本当の恐怖はそこからだった。
俊介は奪われた財布のことをいし、血の気が引いた。
あのには、自分の運転免許証が入っていた。
京の自宅の所。
実の話番号。
切な族がどこで暮らしているのか、あの残忍な密輸組織の男たちにすべてられてしまったのだ。
もし自分たちがきていると本の警察に名乗りれば、あの男たちは封じのために本の族を襲うかもしれない。
その脅迫観が、2のを完全に支配した。
「私たちは、でんだことにしよう」
俊介は苦しそうに言った。
しおりは最初、泣きながら首を横に振った。
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「そんなの嫌。お母さんも、お姉ちゃんも、俊介さんのご族も、きっと探してくれてる」
「分かってる。でも、もし僕たちがいたせいで族に何かあったら……」
俊介の声は、そこで詰まった。
しおりは両で顔を覆った。
切なを守るために、自分たちのをこの世から消しる。
それはゆえの、あまりにも残酷な決断だった。
2はフィリピンのさな漁で、名を捨て、過を捨ててきるを選んだ。
最初は言葉も分からず、ただ漁の伝いをして、わずかな賃を得る々だった。網を直し、魚を運び、子どもたちに簡単な本語のを教えた。は荒れ、肌は焼け、京で暮らしていた頃の面はしずつれていった。
しかし、の々は過を問わず、2を温かく受け入れてくれた。
やがて2は、の子どもたちに本語を教えるようになった。壊れた具を直し、祭りの準備を伝い、病気の老のためにを運んだ。異国ので、しずつコミュニティの部として溶け込んでいった。
20。
夜になると、しおりは空の向こうにある本の族をい、れず涙を流した。
俊介もまた、何もできない自分を責め、眠れぬ夜を数えきれないほど過ごした。
誕。
正。
結婚記。
本に残してきた族が、今どんな顔で暮らしているのか。
父母は元気なのか。
姉は自分を責めていないか。
その答えをらないまま、2は毎同じ季節を越えた。