"20年目の神隠し夫婦" 第8話
結は息を詰め、鞄の内側を覗き込む。
布の隅。
そこには黒いボールペンで、さく名がかれていた。
「しおり」
違いなかった。
妹が自分の持ち物に印をつけるの、あの丸みを帯びた文字だった。
界が急にぼやけ、結は唇を噛んで涙をこらえた。
「これ、どこでに入れたんですか?」
結の鋭い線に、男性はし戸惑いながら答えた。
「5くらい、京郊のフリーマーケットで買いました。デザインが気に入って」
「売っていたとか、所の詳細は覚えていませんか?」
「すみません。昔のことなので……」
男性は申し訳なさそうにをかき、ふと何かをいしたように付け加えた。
「そういえば、買った、に古いレシートが何枚かと、さらさらした細かい砂が入っていたんです。レシートは捨てて、砂は払ってしまいましたけど」
「砂……」
あの夜、2が歩いていた奄美島の辺の砂だろうか。
結は鞄を胸にく抱きしめ、ちがった。
「ありがとうございます。警察に持っていきます」
男性は驚いて目を見いたが、結のただならぬ気迫に圧倒され、無言で頷いた。
結はそのまま直線に警察署へ駆け込んだ。
10の沈黙を破り、ついに現れた初めての実物証拠。
凍りついていた事件の歯が、い音をてて再び回り始めた瞬だった。
警察に押収された鞄は、ただちに科学捜査研究所へ送られた。
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最の器を使った指紋鑑定、DNA検査、そして鞄の底に残っていた微量の砂の成分分析。能な限りの科学捜査が、徹夜でわれた。
1週、結果がた。
鞄からは、違いなくしおりの指紋が検された。
さらに砂の成分は、10に2が歩いた奄美島の辺の砂と完全に致した。
しかし、警察の期待はそこで打ち砕かれた。
それ以に、犯へつながるような第者の痕跡は何もてこなかったのである。
警察はフリーマーケットで鞄を購入した学院を再び呼びし、厳しく追及した。だが、ポリグラフ検査、いわゆる嘘発見器にかけても、異常な反応はまったく見られなかった。
彼は本当に何もらず、偶然鞄を買っただけだった。
捜査員たちは、5のフリーマーケットの者たちを探し回った。だが、現でのやり取りしか記録に残っておらず、品者を特定することは能だった。
「10ぶりに発見された鞄。婚夫婦失踪の謎は続く」
このニュースは、再び各ポータルサイトのトップを飾った。
族たちは、かすかな希望を胸に抱いた。
俊介の母親は、ふらつく取りで警察署を訪れ、証拠品の鞄と対面した。垢にまみれ、すっかりあせた革の表面を、震えるで何度も何度も撫でた。
息子が婚旅のために、どれほどこの鞄を切に扱っていたか。
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その姿をいし、母親は声にならない声で泣き崩れた。
警察はたな班を編成した。
しかし10というは、警察組織にとってもすぎた。初期捜査を担当したベテラン刑事たちのくは、すでに退職するか、別の部署へ移していた。しく投入された若い捜査員たちは、膨なの記録だけで事件を理解するしかなかった。
そんな、鑑識から1つだけ奇妙な報告ががってきた。
鞄の持ちの部分から、奄美島にはしないはずの特殊な鉄の末が検されたのだ。
専の分析によると、その成分は潟県の燕条など、属加のがく集まる域で使われるものと酷似していた。
結は自分でも何かがかりがないかと、妹のブログを最初から最まで読み直した。
そして、失踪の1かにかれたある文で、ぴたりと目を止めた。
「々、全てを捨てて、しい所で別としてきてみたい」
この傷な文がネットで広まり、再び自発な失踪を疑う声ががり始めた。
だが結は、妹の性格を誰よりも分かっていた。
しおりは、文学でロマンチックな表現を好むだった。それが実際のをするわけではない。
2013の、潟県の部にある廃駅のくで、2003頃に俊介としおりに似た夫婦を見たという報が寄せられた。
男は無精ひげをやし、女はショートヘアだったという。