"20年目の神隠し夫婦" 第1話
20044、の柔らかな差しが鹿児島県奄美島にり注いでいた。
青く透き通った辺に、2階建てのさな民宿がひっそりとっていた。い壁は潮にしあせ、玄関先には宿の主が入れをしている鉢植えが並んでいる。普段なら、朝のこのには宿泊客の話し声や、荷物をまとめる音、廊を歩く音が聞こえてくるはずだった。
けれど、そのの朝だけは違っていた。
午10を過ぎても、2階の客から何の物音も聞こえてこなかった。
70代半ばの民宿の主は、受付の古い計を見げて首をかしげた。チェックアウトのはとうに過ぎている。忘れ物をしているのか、それともまだ眠っているのか。胸にさな違を覚えながら、主はカウンターの奥からて、古い造の階段をがった。
ぎしり、と階段が鳴る。
静まり返った館内では、その音が妙にきく響いた。
「お客さん、もうおですよ」
2階の廊にち、主は問題の客のでを止めた。ドアの向こうからは、のく気配がまったくしない。
コンコン、と控えめに扉を叩いた。
返事はなかった。
聞こえるのは、廊の窓から入り込んでくる波の音だけだった。ざざっ、ざざっ、と寄せては返す波の響きが、古い民宿の壁に染み込むように揺れている。
「お客さん?」
主はもう度、しめにドアを叩いた。
広告
ドンドン。
それでも、からは何も返ってこなかった。
いつもなら、このには旅カバンのファスナーを閉める音や、発の楽しげな会話が聞こえる。だがその扉の向こうだけは、まるでが止まったかのように、しんと静まり返っていた。
「おかしいな。朝く散歩にでもかけたんだろうか」
主は独り言のように呟いた。
しかし、その能性を考えた直、胸の奥にざわざわとした嫌な予が広がった。、この島で観客を迎え入れてきた経験が、何かがおかしいと告げていた。
彼はポケットにを入れ、震える指先でマスターキーを取りした。鍵穴に差し込むと、属がかすかに擦れる音がした。
ガチャリ。
たい音が廊に響いた。
「お客さん、入りますよ」
そう声をかけながら、主はゆっくりとドアを押しけた。
部に歩を踏み入れた瞬、主はそのに釘付けになった。
そこには、あまりにも自然な景が広がっていた。
には、をきくけたままの旅カバンが2つ並んでいた。には、きちんと畳まれていないや洗面用具が無造作にはみしている。まるで荷造りの途で、突然何かに気を取られ、そのまま作業を投げしたようだった。
部の奥、窓際に置かれたさなテーブルには、ノートパソコンがいたままになっていた。
広告
源は入っている。誰もいない暗い部ので、スクリーンセーバーのだけが、ちかちかと気に点滅していた。その規則なが壁に揺れるを作り、部全体をさらに異様に見せていた。
主の線は、ベッド脇のサイドテーブルで止まった。
そこには、携帯話が2台、まるで持ち主の帰りを待っているかのように、きれいに並べて置かれていた。その横にはデジタルカメラがある。さらに、黒い財布も置かれていた。
主は恐る恐る財布をいた。
には現5万円と、クレジットカードがそのまま入っていた。
2004当、携帯話も財布も旅者にとっては欠かせないものだった。これほどの現とクレジットカードを部に置いたまま、2そろってするなど、まずありえない。しそこまで買い物にくだけでも、財布くらいは持っていくはずだった。
ベッドに目をやると、シーツは乱れていた。確かに昨夜、2がそこで眠った痕跡がある。枕にはかすかな窪みが残っていた。
だが、肝のの姿がどこにもなかった。
主は狭いシャワールームを覗き、すぐにた。誰もいない。を見渡せるベランダにもた。そこにもはなかった。
2のが、まるで空気のに溶けて消えてしまったかのようだった。
内の温度が急にがったようにじられ、主はわず震いした。
「嘘だろう……」
声は喉の奥で乾いていた。