"追放嫁と姑の鍵" 第1話
スーツケースに荷物を詰めていたでした。
部のドアが静かにき、義母の芳さんが入ってきました。私はベッドのに広げたを畳むを止め、振り返りました。暗い部ので、芳さんはいつものようにし背を丸めてっていました。
8、私はこのに仕えてきました。
夫の健が妻のリナを呼び戻し、私は婚届に判を押しました。もうこのをていくところでした。スーツケースのにはが数枚と洗面具、そして優太が昔こっそりくれたさな絵だけが入っています。
8も暮らしたはずなのに、私の荷物はそれだけでした。
芳さんは何も言わず、私のまで歩いてきました。そして、私の腕を取りました。
のひらに、たいものが握らされます。
見ると、古びた鍵が1つありました。属はすり減り、いを経たようにがくすんでいます。私はその鍵を見ろし、それから芳さんの顔を見ました。
「神戸の元町の裏通りに、空き舗が1つある」
芳さんはい声で言いました。
「って、けてご覧」
「お義母さん……これは何ですか?」
私が尋ねると、芳さんは答えませんでした。
代わりに、私の腕をもう度だけく握りました。その力は、脳卒の遺症でを引きずり、いつも々しく見えていたのものとはえないほど確かなものでした。
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私が驚いて見つめていると、芳さんはくるりと背を向けました。
そして部のドアへ向かって歩き始めます。
その瞬、私は息を止めました。
芳さんは、を引きずっていませんでした。
8、片をかばうようによろめきながら歩いていた義母が、まっすぐに歩いていたのです。1歩、また1歩。体は傾かず、取りはしっかりしていました。
「お義母さん……」
声にならない声が喉に引っかかりました。
けれど芳さんは振り返りませんでした。ドアが静かに閉まり、廊に気配が消えます。
私はそのにち尽くし、のひらの鍵を見つめました。
鍵のギザギザした跡が、赤くのひらに残っています。
それは、私がこので最に受け取ったものになりました。
そしてその鍵が、私のをまったく別の所へ連れていくことになるのです。
け方の4半。
そのも、私はいつものように目を覚ましました。神戸のの方から吹いてくるが、ベランダの窓の隙から入り込み、いカーテンを揺らしていました。
私は裸でベランダにて、ジョウロをに取りました。
ゼラニウム、ホウセンカ、さなハーブの鉢が1つ。くはありません。義母の芳さんに許しをもらい、しずつ増やしてきた植鉢でした。
ジョウロからが落ちるたび、乾いたがしっとりと濡れていきます。
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私は葉先をそっと指で撫でました。
夜通しえたでしょうに、葉の先はぴんとしています。そのさを確かめると、私はようやく台所へ向かいました。
まな板のにご飯と苔を置きます。
の弁当にはハート型の苔巻きを入れました。優太の弁当には恐竜の形のおにぎりを作りました。ご飯をのひらで押さえ、としっぽの形をえ、苔で目やを切り貼りします。
指先に米粒がくっつきました。
私はそれを取らずに、次のおにぎりを握りました。
私が産んだ子じゃないのに、どうしてこんなにいんだろう。
々、そんなことを考えました。
お弁当を作っている。
眠っている子どもたちの布団をかけ直してあげる。
優太が描いた絵を眺めている。
その考えが浮かぶたび、私はもっと忙しくをかしました。考えがくなるに、が先に仕事を見つける。私はそういうでした。
弁当を2つ呂敷に包んで卓に置いた、階段から音が聞こえました。
夫の健でした。
スーツを着て、ネクタイを締めながらりてきます。私はを拭き、いつものように声をかけました。
「ってらっしゃい」
健は卓のコーヒーをむと、そのまま玄関へ向かいました。
返事はありません。
玄関のドアが閉まる音だけが、台所まで響きました。
私はその音を背で聞きながら、布巾をに取って卓を拭きました。次は芳さんの朝の薬を準備するでした。